平成9年度[第1回]文化庁メディア芸術祭
平成11年度[第3回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品

マンガ部門

マンガ日本の古典(全32巻)
大賞

マンガ日本の古典
(全32巻)

作者: ※22人のマンガ家によって
日本の古典文学をマンガ化

(日本)

贈賞理由

全集の個々の作品の素晴らしさは言うまでもないが、特に全32巻にも及ぶ本刊行の企画それ事体が高く評価された。日本の古典文化をマンガという万人向けの表現法法で、しかも、原文の完成度を損なわず、そして読みやすくマンガ化しており、今後のマンガの可能性を示唆している。

Winner's Interview

話し手:中央公論新社 宮坂 龍 氏

──宮坂さんは『マンガ 日本の歴史』へはどういったかたちで関わられたんですか。

当時はチームでやっておりましたので、私はその中の編集者のひとりということです。その後、チームもばらばらになりまして、現在マンガを中心に仕事をしているのは私ということで、「今回のインタビューは、君が出るように」と。

──なるほど。宮坂さんの『マンガ 日本の古典』以前のキャリアというのは……。

新卒でこちらに入りまして、最初に『ウィル』(1991年10月に休刊)という経済誌のほうに2年くらい配属されました。その後、すでに進行していた『マンガ 日本の歴史』というプロジェクトに異動となったんですが、その時期からマンガの編集に関わり始めました。

──宮坂さん自身は小さい頃マンガ少年だったんですか。

テレビが白黒からしばらくしてカラーに移り変わった頃の生まれですから、マンガというものに対する違和感もなかったですし、マンガの中のルールには馴染んでますから、そういう意味では、違和感がなくそういう仕事に取り組める世代だったのかなと思います。

──その頃、お好きだったマンガ家というのは?

やはり手塚治虫さんですとか、そうですね、日野日出志さんの作品は怖いんですけど、印象には残ってますね。当時は、いろんなかたちの表現をいろんな方が模索していたので、その頃にマンガに出会えたというのはラッキーなことじゃないかなと思っています。

──いっぽうで、文芸書や歴史書なども読まれていたと。

そうですね。とにかく乱読でしたので、ノンフィクションも好きですし、ミステリやSF、エンタテインメントも好きでした。中学校の頃から時代小説も興味がありましたし、ご多分に漏れず哲学かぶれで……。その中に同じようなウエイトでマンガもあったということだと思います。

──それでは、宮坂さん自身がマンガのプロジェクトに配属されたときは、どういったお気持ちでしたか。

それ以前に、「愛蔵版」というプロジェクトが始まっていましたので、そういったことに関われたらなと思っていたことは事実です。また入社した年は、石ノ森章太郎先生の『マンガ 日本経済入門』が、ちょうどブレイクした時期でした。そういう意味でのマンガの可能性というものにも着目していましたし、『ウィル』でやっていたときにも、ビジネスマンガについての石ノ森先生を含めた鼎談などもやらせていただいていました。

──受賞作の『マンガ 日本の古典』というプロジェクトはどういったきっかけで始まったんですか。

当時の方でないと、はっきりした理由がいえないのですが、マンガによって、今まで敷居が高かったものが、もっとわかりやすく情報として受け取れるんじゃないか、そういう可能性に対する期待が時代的にあったのは確かだと思います。

──中央公論新社は、活字の書籍のほうでも古典のシリーズをとても大切にされていますよね。そういったシリーズとの繋がりというのは?

新しいジャンルに出て行くわけですから、足場として、これまでの積み重ねである古典なり歴史なりの蓄積があったということだと思います。今まで出させていただいてきた書籍を含めて、それに連なる人脈や蓄積が活かせる。そういうかたちで進んだプロジェクトだったと思います。

──どういう読者層を想定されていたんでしょうか。

これは『マンガ 日本の歴史』と同様なんですが、ハイティーンから年配の方まで男女を問わずと、広いです。出来るかぎり、年齢が低くても読みやすい工夫と、知識が広い方やつっこんで色々と調べられたい方にも満足していただけるような工夫をしています。

──全32巻ですが、題材を選ばれた基準というのは?

こちらのほうでは、日本の文学史の中で重要であると思われるもの、マンガにすると面白いと思われるもの、そういうことを考慮しながらピックアップしていくわけですね。それで、繋がりのある先生方や、描いていていただきたいなという先生方に声をお掛けしていくわけです。その過程で、ラインナップの中から、これを書きたいという先生もいらっしゃれば、また、こちらのほうからも、先生の描いた何々を読んでみたいというようにお願いする場合もあります。

──制作の過程について伺います。編集担当者は、どこまで作品づくりに踏み込むんでしょうか。

色々なかたちがあります。その先生のスタイルにもよるわけです。既に資料をたくさんお持ちの先生もいらっしゃいますし、資料をたくさん必要だという先生もいらっしゃいます。

──資料というと……。

例えば『東海道中膝栗毛』でいうと、旅に使われる道具類であったり、当時の団子屋の店先の様子がわかるものであったり。時代劇などでは、酒屋にテーブルがあって椅子があってというシーンが多いですけど、当時はそういうことはまったくなく、座敷ですよね。

──では、編集者のご苦労というのは、その辺が一番大変なんでしょうね。

これも一概には言えません。ご本人のほうがよっぽどご存じだという場合もあるんです。やはり根本的に気をつけたことは、それぞれの先生方に、いかにご自身の特徴を生かして描いていただくか、ということだったのではないかと思います。楽しんで描いていただいたほうが良いものになりますから。

──ところで、実際の読まれ方というのはどうでしょう。このマンガのシリーズと並行して原典を読むという読者も想定されているんですよね。

そうですね。例えば『源氏物語』を頭の中に入れようとすると、ものすごく大変だと思うんですよ。ただ、長谷川法世先生が描かれた『源氏物語』を読めば、大体のところは頭に入ってくると思います。学校の教科書を読む前にこれを読んだから、教科書のほうも楽しく理解できたという手紙をいただいたことがあります。また、若いときに読んでなかなか理解ができなかったけれど、これを読んで腑に落ちたという、年配の方からの手紙をいただいたこともあります。やはり、非常にいいものなんだけれども一般では敷居が高いと思われている、でもそうじゃない、少しでも紐解けば非常に面白い世界なんだよと、そういうことを伝えることができれば。それが、「歴史」「古典」「ギリシア神話」など、これまでのシリーズに一貫して、ずっと続いてきている最前提にあると思います。

──そういう読者からのお手紙というのは嬉しいですね。活字の書籍とマンガは必ずしも競合しない。御社のシリーズの場合はいい関係で補完しあっているようですね。

ええ、それらは相反するものではありません。どちらも「本」ですから。あれも「本」、これも「本」ということですね。

──ちなみに『マンガ 日本の古典』の売れ行きはいかがですか。

これは文庫版にもなっているんですけど、いまだに親版のほうも毎年増刷がかかっているという、非常に息の長い本として受け入れられています。

──今後、別のシリーズの予定があればお聞かせください。

実はですね、すでに進行しているシリーズがあります。2003年10月刊行予定なんですが、里中満智子先生の『マンガ 名作オペラ』の刊行が隔月で始まります。全8巻ですね。

──それは楽しみですね。ところで、メディア芸術祭に「マンガ部門」があるように、マンガは日本の中で大きな位置を占めていると思います。表現ジャンルとしてのマンガをどう捉えられていますか。特に日本固有のジャンルとして……。

そういう意味ではメディア芸術祭の部門の名前が、「コミック部門」ではなくて、「マンガ部門」であることには、大きな意味があると思います。コミックというとアメコミですとか、いろいろな広がりが出てきてしまいますから。マンガは、色々な方が色々な手法を試みながら開拓されてきたジャンルです。その結果として、海外でも受け入れられているという現在の基礎ができていった。ですから、現代の日本で、ひとつの大きな位置を占めるということは間違いないと思います。そして、マンガというものの弱点でもあり強い点でもあると思うんですけど、様々なものを飲み込める力があって、様々な需要にこたえる力がある。万人に向けることができて、かつ非常にとんがったところに行くこともできる。まだまだ大きな可能性があると思います。

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