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今 敏
1963年北海道生まれ。武蔵野美術大学在学中、ヤングマガジン(講談社)誌上で漫画家としてデビュー。漫画単行本に「海帰線」「ワールドアパートメントホラー」。 アニメーション参加作品に「老人Z」「走れメロス」「機動警察パトレイバー2」(美術設定・レイアウト)、「MEMORIES/彼女の想いで」(脚本・美術設定)、「ジョジョの奇妙な冒険/第5話」(脚本・絵コンテ・演出)など。 1998年、初監督アニメーション作品「PERFECT BLUE」、2002年「千年女優」公開予定。現在、2003年公開予定の長編アニメーション映画を制作中。
── 63年生まれというと、小学生でヤマトの世代ですね。
そうですね。中学時代には『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』、高校時代には『機動戦士ガンダム』と、歴としたアニメファンでした。いまのオタクといわれる人たちほどディープではなかったでしょうけど。中学生の頃、ヤマトが再放送で人気が出てきて、「アニメージュ」を初めとしてアニメ雑誌が創刊されるんです。当時は情報が少ないからこそ収集に懸命だった感じですね。高校の頃、『ガンダム』は好きでよく見てましたし、アニメ誌の種類もあって華やかでしたが、どっぷりはまるという感じではなかったかな。それよりマンガですね。少女マンガばかり読んでいました。くらもちふさこさん、岩館真理子さん、倉多江美さん、萩尾望都さん、清原なつのさん、高橋亮子さんとか……あげ出すと切りがないですが、集英社系から、講談社系から小学館系やら、出版社を問わず単行本買いして読んでましたね。
── 当時はもう、男の子が少女マンガを読んでも大丈夫でした?
ええ、話が合う人間もけっこう多かったですしね。大島弓子さん、萩尾望都さんの認知は高かったですし、吉田秋生さんも注目されていて、少女漫画ということに違和感はなかったです。それと同時に、大友克洋さんとかの、いわゆるコミックニューウェーブと呼ばれていた、ちょっとマイナーな、青年劇画と言うんですかね、そういうものを同時に読んでいて。少年ジャンプみたいな、いわゆる少年マンガは暑苦しくてイヤでしたね。根性とか努力とか汗臭いのが大嫌いで、そういうのは今に至るまで読んでいないです。
── で、マンガを読んでいるうちに美大に入られるわけですが。
武蔵野美術大学の視覚伝達デザイン学科に入りました。高校2年生のときに、マンガでもイラストでもいいから、ともかく絵を描いて食って行くのだと決めまして、とりあえず絵のためには美大であろう、と。まあ、いきなり高校を出てフリーで始めるわけにもいかないので、技術向上もするし、絵で食えなくてもグラフィックデザインなら就職口もあるだろう、という姑息な考えも携えていました。大学在学中に、とりあえずマンガを描いたら講談社のヤングマガジンで新人賞に引っかかって、マンガ家もいいな、と。その受賞パーティのときに大友克洋さんとお会いして、後に『AKIRA』の連載で人手が足りないときにお手伝いするようになりました。
── それが大友さん監督の映画『ワールド・アパートメント・ホラー』での原案・マンガ化に繋がるわけですね。
ええ。酒飲んでるときに、大友さんが「実写映画撮るんだけど何かアイデアない?」なんて話で。あれはシナリオも手伝ってはいるんですけど。今振り返ると、要点が絞りきれずアイディア倒れの感じで、あまり面白くはないですね。
── でも、今さんのアイデアというのは、この頃から一貫して、テーマはバラバラでも、現実と虚構が交錯するところは変わらない気がします。
いや、題材がバラバラなだけでテーマはずっと一緒、といった方がいいかもしれません。結局は、同じようなことをやってるとは思います。現実的な問題から話が始まって、徐々に自然とか無意識の世界であるといった、何かより大きな世界とのリンクが中心にあるみたいですね。その背景には空想癖の強い子供だった、っていうのが間違いなくありまして(笑)、そういう空想や連想をお話や演出に織り込みたいんでしょうね。それが劇中劇みたいな、同時にはありえない時系列のものが同時にある、という感覚を呼んでいるとは思います。そうした感覚はヴォネガットの『スローターハウス5』による影響が大きいんですけど。
── 女優が時空を超えていく話(『千年女優』)ですね。あれは女優という存在に思い入れが?
いえ、それはないです。女優は劇中劇を出すために必要だっただけで、思い入れはないですね。映画を観てても、監督が何を考えてるのか、には興味があっても、役者には思い入れしないんですよ。思い入れるとしたらシチュエーションですかね。夜中に独りで起きてぼーっと何か考えているさま、とか、そうした情景への感情移入は大きいです。あとは関係性。ストーリーやキャラクターそのものより、例えば『東京ゴッドファーザーズ』なら主役3人のバランスや関係性。どのキャラが私の投影、なんてことはありませんが、彼らの流動性をともなう関係性には私自身が投影されている気がします。
── そういった関係性というのは、あらかじめ周到に設計してお話を作られるのですか。
いいえ、周到に計算しうるものではなくて、作りながら変化する人物同士の関係性と同時に自分も考えを深化させて行くものです。最近特に思うのは、制作過程においては、ある意味、無責任さが重要じゃないか、と。例えば『東京ゴッドファーザーズ』のギン役・江守徹さんの声は、想定していたより遥かに立派すぎて、脚本段階とは3人のバランスが変わってしまったんです。そういう意味で多少不安もあったんですが、しかし、江守さんであることでまた新しいバランスが生まれてきたんですね。それは想定していたイメージとは違っているんですが、何ら不都合はなかったですね。それもまた良い、と思えるわけですから。自分の持っていたイメージに頑なになるより、より良きものを求めて前に進んだ結果、ここまで辿り着きました。という進め方があってもいいと思うようになったんですよ。
── どこか東洋的な発想ですね。
そうですね。自分が東洋的なものの考え方に引かれて行くのは自覚しています。実際の作業の中で「こうでなくてはならない」という確固たる意図があるのと同時に、必ずしもそれに限ることもない。要するに考え方を閉じてしまわない、といいますかね。管理しているようで半分無責任にしておいてだからといって手放すわけでもなくて、という線。そうした見ているようで見ていなくて、見ていないようで見ているというような態度は老子荘子に通じるのかもしれない、と。まあ目指してこうなったわけじゃないんですけど。
── なるほど。さて、今さんの次回作『妄想代理人』は、これまでの劇場公開作と打って変わって、初めてのテレビで連続ものです。これにはどんな心境の変化があったんでしょう。
これまで劇場アニメーションを3本作ってくる間に、脚本にしろ演出段階にしろ、そぎ落とされたアイデアがたくさんあって、それが山のように溜まっているわけです。別につまらないからボツにしたわけではなく、お話の流れに乗らずに使えなかったり、単純に尺に収まらないから、といった理由です。それは、やっぱり惜しいんですよ。で、何かそれをリサイクルする機会はないかと思っていて。同時に、劇場作品は作るのに2年以上かかりますから、その間はずっとひとつのムード、ひとつの手法を通さざるを得ない。そうではなく、もうちょっと思いついたことをすぐに投入しやすい、それもバリエーションの楽しめる形、ということで、テレビシリーズを立ち上げました。新しいスタッフとの出会いにも期待しています。
── どんな展開になりそうですか。
13回の連続したお話なんですが、極端にいえば13種類の作品を作ろう、というくらいの気持ちで作っています。毎回ムードも変えようとしているし、全編を通した主人公も特に置かない。それと、2話の脇役が3話で主役になってみたり、3話の脇役が4話の主人公になる、というリレー方式も、前から使ってみたかったアイデアのひとつです。
── 劇場とテレビではスタッフの規模は違うんですか。
予算で言うと、例えば『東京ゴッドファーザーズ』は10分あたり、だいたい3000万円なんですね。テレビだと、それで2本分、42分の予算です。それは当然人件費の差ですから、スタッフの規模もそのくらい違う、と。枚数で考えても、『東京ゴッド~』だと10分あたり約5000枚。テレビアニメだと1本に5000枚使ったらもう予算オーバーですから、ぜんぜん違いますね。ただ、私の監督した劇場作品自体が、他の劇場アニメーションに比べるとはるかにコストパフォーマンス良くできていますので、私の監督作品の中での比較ということですが。
── 一作あたり、具体的な枚数ですとどのくらい使うのでしょう。
『パーフェクトブルー』が、3万枚使ってないと思いますね。『千年女優』が3万2000で、『東京ゴッドファーザーズ』で4万2000枚くらい。普通、劇場アニメで大作っていうと10~20万枚くらいですから、ものすごく少ない方でしょうね。
── なるほど。ところでテレビだとより多くのファン、それこそアニメオタクの批評眼にもさらされることにもなります。彼らの反応は気になる方ですか。
いえ、それはまったく。もう『パーフェクト・ブルー』のときにはっきりわかったんですけど、批評だの批判めいた感想の中に「あ、痛いとこ突かれたな」とか、「それは次回から気をつけよう」って思える言説が、まず皆無なんですね。私の自己評価のほうがよほど辛辣なんです(笑)。自身内部での批評の圧力が遙かに高いので、外部からこちらにしみ込んで来ないんです。それは好意的な評価、「どこそこがよく出来ている」というような指摘にしても、そんなことは自分でよく分かってますし(笑)。もちろん、こちらの意図が伝わってそれを喜んでもらえるのは嬉しいですし、張り合いにもなりますけどね。作品のファンを突っ放す気はないんですけど、あえて自分から知りに行こうとは思いませんね。正直なところ、作品上映に立ち会って体感できる手応えとか、こういった取材でインタビュアーの方と話すだけで、お腹一杯なんです(笑)。
| 1997 『パーフェクト・ブルー』 | ||
| 2002 『千年女優』 | ||
| 2003 『東京ゴッドファーザーズ』 | ||
| 2004 『妄想代理人』 |
![平成13年度[第5回]文化庁メディア芸術祭 平成13年度[第5回]文化庁メディア芸術祭](/festival/images/no05.gif)
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