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| © Yoji Fukuyama/KAWADE SHOBO SHINSHA, Publishers |
F氏的日常
青年・一般マンガ
(九龍コミックス:河出書房新社/
週刊ダイヤモンド連載)
作者: 福山 庸治
(日本)

福山 庸治
1950年生まれ。1970年「納屋の中」(週刊漫画アクション)でデビュー。 作品に「死神交換イタシマス」「Bbのソナタ」「夜は散歩者」「マドモアゼル・モーツァルト」「ドン・ジョヴァンニ」「臥夢螺館」「17」「うろしま物語」など。 1991年(平成3年)「マドモアゼル・モーツァルト」が音楽座により舞台ミュージカル化。1997年読売演劇大賞優秀賞
── たいへん長いキャリアをお持ちとお聞きしたのですが、漫画家としてのデビューは20歳とか。
ええ。昭和で言うと45年くらいですか。まだ子供でしたから、仕事とはどういうものか、というイメージなんて持てない時期です。せいぜいオヤジがやってる仕事か、近所のタバコ屋か、郵便配達くらいで。その中でただひとつ、子供の僕でも具体的にイメージできたのが、漫画家でした。漫画描いて売れば、金になる、食っていけるぞ、と。
── それは持ち込みで?
ええ、持ち込み。青年誌でした。そのあと少年誌も、まあ気の迷いと言いますかね、生活にいつも困ってましたから、売れるなら何でもやりました。しかし、こういうプロフィールを詳しくしゃべるのって、どうも苦手ですね(笑)。どこの芸大を出て作品が何に入賞とか、これでもかと書く人っているじゃないですか。ああいうのを権威主義と言うんでしょうかね。この賞をいただいたのはとてもありがたいですが、やっぱり僕なんか権威とは縁遠い暮らしのままですし、語れるような立派な経歴もさしてありませんよ。
── わかりました(笑)。では作品の話をしましょう。受賞作の『F氏的日常』は一コマ漫画です。このフォーマットを選ばれた理由を教えてください。
日本には俳句や川柳という文化があるわけですから、ほんとは一コマも受け入れられるはずだと思っていたんです。ただ、新聞の一コマってあるじゃないですか。あれははっきり言って、つまんないですよね。国会議事堂が手を出してて、鉄砲持ってたりするんだ。「イラク」とか文字が書いてあって。これじゃ漫画じゃないだろ、社会主義国のスローガンか、っていう。あのイメージがあって、一コマやる人ってみんな、スラーッと描いたような、味のある絵とでも言うんですか、そういうスタイルになっちゃってる。
── 一方で『F氏』はリアルなタッチです。
そう。昔で言ったらいわゆる劇画という言い方になるんでしょうが、そういうリアルな絵で一コマをやるというところに、あの作品のポイントがあると思うんです。タイトルに「日常」と付けたように、作品世界を風景として存在させたかったんですよね。いかにも漫画的、じゃなくて。これはありうべく、しかし現実にはないだろう、という風景にしたかったんですよ。
── その風景はいつもなかなかシニカルですが、テーマをひとことで言うと?
悪意(笑)。悪意は、みんな持ってますでしょ。それをさらっていくんですよ。掬う、といいますか。それは例えば、推理小説家にとっての殺人みたいなものですね。彼らは、どうやったら殺せるか、どうやったら完全犯罪ができるかとか、どういうところに恨みを持って殺させるか、とか、そういうことを日夜考えているわけでしょ。僕の場合はそれが悪意なわけです。
── それは、日頃ご自分が抱いている悪意ですか。
いや、僕はすごく善良な人間なんですよ。ごくごく善良。たぶん(笑)。自分で言うのはアテになんないですがね。ただまあ、人を見て悪意を感じるからには、自分の中にも当然その原型があるはずで、それをこう、フィクション的に肥大化させていくんです。悪意は楽しいもんですよ。善良はつまんないですからねえ。天国は退屈だって言うじゃないですか。
── いずれにしてもF氏は福山さん自身ですね。
ええ、Fukuyamaの頭文字で。星新一さんでエヌ氏ってあったでしょ、ちょっとあか抜けてていいなあ、といただいたわけですが、でもエヌはどうにも自分と関係ないですから、エフで。それでF氏「的」とすると、中国的な表現になって、妙なアジアンテイストも加わっていいんじゃないかと。
── いま星新一さんの名前が出ましたが、アイデアの源泉になるような作品などありますか?
まあ源泉になっているかはわかりませんが、小説は好きでよく読みましたね。安部公房とか、大江健三郎さんなら、初期のね。あとは筒井康隆さん。そこらへんが大好きですね。もちろん外国のエンタテインメント小説も好きです。何と言いますか、苦い、ビターテイストの短篇ってありますよね。イギリスのロアルド・ダールとか。「奇妙な味」と呼ばれるジャンルですかね。ヒッチコック劇場みたいな、短くて、ちょっとブラックな、オチのある話。ああいうのはかなり大好きですね。
── オチのある話がお好きですか。ところが『F氏』は短篇どころか一コマです。描いていて難しいですか。
最初はたいへんでしたよ、描けなくて。1本目2本目を描いてるときはもう汗流してヒイヒイ言って、どうやって描けばいいんだろう、と。難しくて難しくてたいへんでしたね。ある程度ノウハウがついて、ネタさえあればなんとかなるか、って感じになったのが半年くらい経った頃で。もう10年近くやってますけど、いまだに何回かに一回は苦労します。描き出せば速いんですけどね。とっかかるまでが遅いんですよ。いつもツースリー、フルカウントまで追い込まれてます。それで何とかゴロ打ったりフォアボールを選んだところで、週刊でしょ、もう次の打席が来てる、という。
── アシスタントは助けにならないのでしょうか。
いま、F氏に関してはいないんです。アシスタントに「ここはこんな感じにしてくれ」って説明してるより、自分で描いちゃったほうが速いですから。それに、もし、そういう説明をしないと、どうしても表現が似通ってきちゃうんですよね。驚いたときにバーンって電気イナズマが走る、とか中心線とかスピード線とか。漫画テクニックのパターンばかりになってしまう。
── そういえば、福山さんの絵はそういった定石表現が少ないですね。トーンも少ない気がします。
トーンは単純に、貼る時間がないから少なくなっちゃうんです。貼ってるより描いた方が速い、という。あと、模様のトーンってあるでしょう、服とかの。あれは流行り廃りがあるから、どうしても時代が出ちゃうんですね。だから絵がなるべく古びてしまわないように、模様のトーンは使わないようにはしてます。使っても網のトーンしか使わないですね。
── 作画にコンピュータを使ったりすることはありますか。
Mac雑誌で連載を持っているくらいでして、ばりばり使ってます。スキャンするための元の絵は基本的にペンで描きますけどね。受け渡しなんて、メールで送れるっていうのは圧倒的に有利ですよ。昔は編集者が取りに来てくれましたけど、こんな郊外まで、気の毒でした。これで漫画家が少しなりとも、小説家に近くなったんじゃないかな。昔は伊豆の温泉とかで書いてたわけじゃないですか。まあそれでも小説家に比べれば道具が多いですが、鎖に繋がれてたのがかなりフリーになったと思います。家庭用のスキャナーだって、最終的に印刷される解像度を考えたら、十分なレベルの解像度がありますし。
── なるほど。今後の予定などありましたら教えてください。
実現するかまだ怪しいんですけど、書き下ろしをやろうかと思っています。ベルギーのカステルマン社という、ヨーロッパではいちばん大きいコミックの出版社なんですが、そこからオファーがあって。前に一度出したことがあるんですが、気に入られたのか我が家に社長が見えましてね。なんかすごく権威的に聞こえる話だな(笑)。まあほんとにベルギーから来たんですよ。なかなかカッコいい人だったな。アンディ・ガルシアみたいな。
── それはすごく見込まれてるんじゃないですか?
どうでしょう。少年漫画は向こうにずいぶん行ってるんですよね。ドラゴンボールとか。そのせいか、最近ではコミックを読む大人の層が育ちつつあるようで。もともとフランスなんかにはバンデシネというんですか、漫画がありますが、でもあれは24ページとか短いやつでしょう。絵本みたいな版型で。ああいうんじゃない、日本風の雑誌というのが、大人用に出てきてるらしいんですよ。それをやろう、と。6カ国語で出すとか言ってるんですがね。
── もう何を描くか決まっているんですか。
まあ、また悪意の(笑)。悪意のサスペンスをやろうかなあ、とは思ってるんですけど。でもまだ中身は考えてないですね。出版は2004年の冬ですが、締め切りは5月くらいだから、大丈夫かなあ。ダメになっちゃうかもしれない。日本みたいにフルカウントまで待たせたりできないんですよ。ダメならダメで早めにダメって言わないといけない。契約社会だからね、向こうは。その代わりギャラ前払いだし、一度出した本はなかなか絶版にしないんですよ。日本みたいに1ヶ月で店頭から消えてハイおしまい、なんてことはない。アレは酷いよね。僕の作品もずいぶん・・・(苦笑)。
| 1986 『夜は散歩者』 | ||
| 1990 『マドモアゼル・モーツァルト』 | ||
| 1994 『臥夢螺館』 | ||
| 2001 『F氏的日常』 |
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