平成13年度[第5回]文化庁メディア芸術祭
平成11年度[第3回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品

マンガ部門

F氏的日常
© Yoji Fukuyama/KAWADE SHOBO SHINSHA, Publishers
大賞

F氏的日常

青年・一般マンガ
(九龍コミックス:河出書房新社/
週刊ダイヤモンド連載)

作者: 福山 庸治

(日本)

作者プロフィール

福山 庸治

福山 庸治

1950年生まれ。1970年「納屋の中」(週刊漫画アクション)でデビュー。 作品に「死神交換イタシマス」「Bbのソナタ」「夜は散歩者」「マドモアゼル・モーツァルト」「ドン・ジョヴァンニ」「臥夢螺館」「17」「うろしま物語」など。 1991年(平成3年)「マドモアゼル・モーツァルト」が音楽座により舞台ミュージカル化。1997年読売演劇大賞優秀賞

受賞コメント

僕はヒトコママンガを、ストーリーマンガや映画や舞台のワンカットのような感覚で描いてきました。ヒトコマの後ろには、時に数コマから、果ては数千数万ページにも及ぶ物語が隠されています。その中から最も効果的に物語を伝えることの出来るヒトコマを選び出すのは、なかなか難しい作業なのですが、描くのはたったヒトコマだけでいいのですから、通常、体力が勝負と言われるマンガ家としては随分楽です。楽なことは長続きしますので、この最も短い形式による最も長い物語を、落とさず休まず、生涯描き続けていけたらと思います。

贈賞理由

岡本太郎の父一平は、一コマ漫画もストーリー漫画も描き、大正・昭和初期の超人気漫画家であった。F氏こと福山氏も、現代日本では珍しいカートゥーンもコミックも描ける逸材である。本作品は、現代社会を短編や一コマと言う多様な手法で切口鋭く諷刺し、複雑奇怪なその現実を我々に投げかけ、考えさせる。それは現代マンガの欠落部分を満たすものでもある。

Winner's Interview

── たいへん長いキャリアをお持ちとお聞きしたのですが、漫画家としてのデビューは20歳とか。

ええ。昭和で言うと45年くらいですか。まだ子供でしたから、仕事とはどういうものか、というイメージなんて持てない時期です。せいぜいオヤジがやってる仕事か、近所のタバコ屋か、郵便配達くらいで。その中でただひとつ、子供の僕でも具体的にイメージできたのが、漫画家でした。漫画描いて売れば、金になる、食っていけるぞ、と。

── それは持ち込みで?

ええ、持ち込み。青年誌でした。そのあと少年誌も、まあ気の迷いと言いますかね、生活にいつも困ってましたから、売れるなら何でもやりました。しかし、こういうプロフィールを詳しくしゃべるのって、どうも苦手ですね(笑)。どこの芸大を出て作品が何に入賞とか、これでもかと書く人っているじゃないですか。ああいうのを権威主義と言うんでしょうかね。この賞をいただいたのはとてもありがたいですが、やっぱり僕なんか権威とは縁遠い暮らしのままですし、語れるような立派な経歴もさしてありませんよ。

── わかりました(笑)。では作品の話をしましょう。受賞作の『F氏的日常』は一コマ漫画です。このフォーマットを選ばれた理由を教えてください。

日本には俳句や川柳という文化があるわけですから、ほんとは一コマも受け入れられるはずだと思っていたんです。ただ、新聞の一コマってあるじゃないですか。あれははっきり言って、つまんないですよね。国会議事堂が手を出してて、鉄砲持ってたりするんだ。「イラク」とか文字が書いてあって。これじゃ漫画じゃないだろ、社会主義国のスローガンか、っていう。あのイメージがあって、一コマやる人ってみんな、スラーッと描いたような、味のある絵とでも言うんですか、そういうスタイルになっちゃってる。

── 一方で『F氏』はリアルなタッチです。

そう。昔で言ったらいわゆる劇画という言い方になるんでしょうが、そういうリアルな絵で一コマをやるというところに、あの作品のポイントがあると思うんです。タイトルに「日常」と付けたように、作品世界を風景として存在させたかったんですよね。いかにも漫画的、じゃなくて。これはありうべく、しかし現実にはないだろう、という風景にしたかったんですよ。

── その風景はいつもなかなかシニカルですが、テーマをひとことで言うと?

悪意(笑)。悪意は、みんな持ってますでしょ。それをさらっていくんですよ。掬う、といいますか。それは例えば、推理小説家にとっての殺人みたいなものですね。彼らは、どうやったら殺せるか、どうやったら完全犯罪ができるかとか、どういうところに恨みを持って殺させるか、とか、そういうことを日夜考えているわけでしょ。僕の場合はそれが悪意なわけです。

── それは、日頃ご自分が抱いている悪意ですか。

いや、僕はすごく善良な人間なんですよ。ごくごく善良。たぶん(笑)。自分で言うのはアテになんないですがね。ただまあ、人を見て悪意を感じるからには、自分の中にも当然その原型があるはずで、それをこう、フィクション的に肥大化させていくんです。悪意は楽しいもんですよ。善良はつまんないですからねえ。天国は退屈だって言うじゃないですか。

── いずれにしてもF氏は福山さん自身ですね。

ええ、Fukuyamaの頭文字で。星新一さんでエヌ氏ってあったでしょ、ちょっとあか抜けてていいなあ、といただいたわけですが、でもエヌはどうにも自分と関係ないですから、エフで。それでF氏「的」とすると、中国的な表現になって、妙なアジアンテイストも加わっていいんじゃないかと。

── いま星新一さんの名前が出ましたが、アイデアの源泉になるような作品などありますか?

まあ源泉になっているかはわかりませんが、小説は好きでよく読みましたね。安部公房とか、大江健三郎さんなら、初期のね。あとは筒井康隆さん。そこらへんが大好きですね。もちろん外国のエンタテインメント小説も好きです。何と言いますか、苦い、ビターテイストの短篇ってありますよね。イギリスのロアルド・ダールとか。「奇妙な味」と呼ばれるジャンルですかね。ヒッチコック劇場みたいな、短くて、ちょっとブラックな、オチのある話。ああいうのはかなり大好きですね。

── オチのある話がお好きですか。ところが『F氏』は短篇どころか一コマです。描いていて難しいですか。

最初はたいへんでしたよ、描けなくて。1本目2本目を描いてるときはもう汗流してヒイヒイ言って、どうやって描けばいいんだろう、と。難しくて難しくてたいへんでしたね。ある程度ノウハウがついて、ネタさえあればなんとかなるか、って感じになったのが半年くらい経った頃で。もう10年近くやってますけど、いまだに何回かに一回は苦労します。描き出せば速いんですけどね。とっかかるまでが遅いんですよ。いつもツースリー、フルカウントまで追い込まれてます。それで何とかゴロ打ったりフォアボールを選んだところで、週刊でしょ、もう次の打席が来てる、という。

── アシスタントは助けにならないのでしょうか。

いま、F氏に関してはいないんです。アシスタントに「ここはこんな感じにしてくれ」って説明してるより、自分で描いちゃったほうが速いですから。それに、もし、そういう説明をしないと、どうしても表現が似通ってきちゃうんですよね。驚いたときにバーンって電気イナズマが走る、とか中心線とかスピード線とか。漫画テクニックのパターンばかりになってしまう。

── そういえば、福山さんの絵はそういった定石表現が少ないですね。トーンも少ない気がします。

トーンは単純に、貼る時間がないから少なくなっちゃうんです。貼ってるより描いた方が速い、という。あと、模様のトーンってあるでしょう、服とかの。あれは流行り廃りがあるから、どうしても時代が出ちゃうんですね。だから絵がなるべく古びてしまわないように、模様のトーンは使わないようにはしてます。使っても網のトーンしか使わないですね。

── 作画にコンピュータを使ったりすることはありますか。

Mac雑誌で連載を持っているくらいでして、ばりばり使ってます。スキャンするための元の絵は基本的にペンで描きますけどね。受け渡しなんて、メールで送れるっていうのは圧倒的に有利ですよ。昔は編集者が取りに来てくれましたけど、こんな郊外まで、気の毒でした。これで漫画家が少しなりとも、小説家に近くなったんじゃないかな。昔は伊豆の温泉とかで書いてたわけじゃないですか。まあそれでも小説家に比べれば道具が多いですが、鎖に繋がれてたのがかなりフリーになったと思います。家庭用のスキャナーだって、最終的に印刷される解像度を考えたら、十分なレベルの解像度がありますし。

── なるほど。今後の予定などありましたら教えてください。

実現するかまだ怪しいんですけど、書き下ろしをやろうかと思っています。ベルギーのカステルマン社という、ヨーロッパではいちばん大きいコミックの出版社なんですが、そこからオファーがあって。前に一度出したことがあるんですが、気に入られたのか我が家に社長が見えましてね。なんかすごく権威的に聞こえる話だな(笑)。まあほんとにベルギーから来たんですよ。なかなかカッコいい人だったな。アンディ・ガルシアみたいな。

── それはすごく見込まれてるんじゃないですか?

どうでしょう。少年漫画は向こうにずいぶん行ってるんですよね。ドラゴンボールとか。そのせいか、最近ではコミックを読む大人の層が育ちつつあるようで。もともとフランスなんかにはバンデシネというんですか、漫画がありますが、でもあれは24ページとか短いやつでしょう。絵本みたいな版型で。ああいうんじゃない、日本風の雑誌というのが、大人用に出てきてるらしいんですよ。それをやろう、と。6カ国語で出すとか言ってるんですがね。

── もう何を描くか決まっているんですか。

まあ、また悪意の(笑)。悪意のサスペンスをやろうかなあ、とは思ってるんですけど。でもまだ中身は考えてないですね。出版は2004年の冬ですが、締め切りは5月くらいだから、大丈夫かなあ。ダメになっちゃうかもしれない。日本みたいにフルカウントまで待たせたりできないんですよ。ダメならダメで早めにダメって言わないといけない。契約社会だからね、向こうは。その代わりギャラ前払いだし、一度出した本はなかなか絶版にしないんですよ。日本みたいに1ヶ月で店頭から消えてハイおしまい、なんてことはない。アレは酷いよね。僕の作品もずいぶん・・・(苦笑)。

Works 夜は散歩者 1986 『夜は散歩者
  マドモアゼル・モーツァルト 1990 『マドモアゼル・モーツァルト
  臥夢螺館 1994 『臥夢螺館
  F氏的日常 2001 『F氏的日常

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