草原 真知子(早稲田大学教授)
創設されて2年目のアート部門には、今回も800点を超えるエントリーがあった。海外からの応募もこの部門に集中し、メディア芸術祭がメディアアートの世界的な広がりの一翼を担っていることがひしひしと感じられた。応募作品の質は全般的に高く、主要な国際公募展で高い評価を得た作品が数多く寄せられたと同時に、若手や学生の作品が斬新な発想や表現で我々の目を引きつけた。審査はアーティストの知名度や作品の展示歴に関係なく、各作品のオリジナリティや完成度を評価すると同時に、それぞれの作品がメディアの特質をどのように生かして今までにない視点や経験を見る者に提供し、メディアアートの新たな可能性を切り開いているかという点に特に着目した。優れた作品がひしめく中から6つの賞を選ぶ作業は困難を極め、審査委員全員による議論は長時間に及んだが、この分野の本年の収穫を代表するにふさわしい受賞作品を選出できたと思う。一方、審査委員会推薦作品も受賞作品に劣らないレベルであり、メディアアートの多様性と国際性を感じ取るためには、ぜひ、推薦作品もじっくり見ていただきたい。今年の傾向としては、実世界のリアルな物体や事象をベースにした新しい表現が目立った。審査委員会では、「リアルの反撃?」というコメントも出たが、反撃というよりむしろ、イマジネーションやバーチャルな表現と実世界とのより高度な結合であり、デジタル技術の介在によって、現実世界の持つ奥行きの深さ、あるいは、今まで当たり前のように見過ごしていた事象に新たな意味やディメンションが立ち現れてくる、というべきであろうか。デジタル映像技術やインターネットが飛躍的に発展しても、我々の身体や生活は現実の物理的な世界にあって、社会との関わりの上に成り立っている、という事実の持つ豊かな意味を、アーティストたちはユニークな着想や豊かなイマジネーションを通じて改めて伝えてくれる。
1980年代前半からメディアアートのキュレーションと批評、メディア論研究で国際的に活動。筑波科学博、名古屋デザイン博、神戸夢博、NTT/ICCなどの展示の他、SIGGRAPH, Ars Electronica、ISEAなど多くの国際公募展の審査に関わる。講演、著作多数。デジタルメディア技術と芸術、文化、社会との相関関係が研究テーマ。UCLA芸術学部客員教授。工学博士。
▼インスタレーション 作品講評/土佐 信道(明和電機)
これまでメディアアートにおけるインスタレーション作品というと、テクノロジーの進歩への批判的視点、またはテクノロジーの教育的な伝達といったものが多かった。しかし今回の受賞作品では、あきらかに「観客」を意識して空間演出を行う、「映画的インスタレーション」が増えてきた。エンターテインメント性が増えたそれらの作品は「思想」よりも「スタイル」が重視されており、作家個人の深みや毒がない分、大衆に伝播する可能性を持っている。大賞を受賞した『3 minutes
▼インタラクティブ 作品講評/三上 晴子(アーティスト・多摩美術大学助教授)
インタラクティブアートというカテゴリーが広範囲であると再認識させられる優秀な作品が多かった。以下の推薦作品もそのわずかな差をどう評価するかに焦点が絞られた。『Ex-isles』は、操作は単純な動きだが、作品は美術市場に売買可能な完成度があり、これもこの分野の最近のひとつの傾向だろう。『////furminator』は、高度な技術が凝縮されたゲームマシンを装った外枠とは逆説的に内部はアナログ仕様のピンボールマシンである。『Light Attack』は、車を移動させながら都市に人影を投影し、地域における社会性を走査していく。『Sky Ear』は携帯電話を膨大な数のヘリウム風船に設置し、色彩と音の変化が空高く浮かび上がる。日本人の若い世代の優れた作品も多く、点字そのものを表現した『音点字』、自我を追求した『through the looking glass』、そして、優秀賞を受賞した『GLOBAL BEARING』がある。我々が概念的に理解している「地球」を感覚的にインタラクションしていくこの作品は、インターフェイスの加速度の可変が実存する身体と共感していく点が評価された。
▼映像 作品講評/中谷 日出(NHK解説委員)
今年度のアート部門の映像作品は、過去最高の192点の応募があった。海外からの応募も多く、審査も自然にグローバルな視点をもって行うことになった。今年度の応募作品は例年と比べて著しくレベルが向上したと思う。特に海外作品はバリエーションが豊かで完成度が高い作品が目立った。一方、日本の作品では若いクリエーターの台頭が目立った。若いクリエーターは既存のソフトウエアに頼るだけでなく、自ら様々な方法を模索し表現の完成度をあげ、若さあふれるチャレンジ精神がよい方向に現れている。そしてアート部門という枠に対してもチャレンジしている感があった。従来の実験的な試みに加え、観るものを飽きさせないエンターテインメント性をも持たせながら、現代的な映像表現にまで昇華している作品が数多く見受けられた。今年度優秀賞を獲得した作品は、デジタルとアナログという壁だけではなく、映像表現のいくつかの壁を乗り越えた労作である。この作品が現代の映像表現の可能性を身をもって見せている気がした。
▼静止画 作品講評/浅葉 克己(アートディレクター)
見たこともない世界を見せてくれるのが、文化庁メディア芸術祭の本質だ。これでもかというほどのマウスによる筆触の作品群には圧倒された。一点一点に見とれてしまい、とても審査などしていられないという状況だった。特に驚いたのは『life-size』。蝉が人間の等身大で立っている姿だ。私はその声を聞いてしまった。「僕の名前は渡邊蝉太郎と言うんだよ。」くり返し言っているのだ。視点を変えることによって、観る者を不思議な宇宙へ連れて行ってくれるのだ。その前に立っていると人間が15センチ位の小人になった精神状態になってしまう。推薦作品に選ばれた『機関紙』にも驚かされた。漢字の新聞で、東京の新聞を手にしたようだった。この『機関紙』を欲しいと思った。どこへ行けば手に入れることができるのか。きっと映画『スターウォーズ』の宇宙人が集まる「宇宙バー」あたりで配られているに違いない。
▼ウェブ 作品講評/土佐 信道(明和電機)
海外から多数の応募があったにもかかわらず、残念ながらウェブ作品から入賞がなかった。ネットワーク、大衆の参加という本来ウェブがもつ表現の特性を生かした実験的なプログラムが、すでに商業的に実践されている時代になってしまったからだろうか。応募作品のほとんどが今だに「デジタル紙芝居のウェブ上での発表」であり、これでは映画やゲームに勝てない。よく言えばインターネットが社会に定着してきたということであるが、このままでは、「テレビ・アート」というものが存在しないように、今後「ウェブ・アート」というジャンルが消えていく可能性もある。しかしウェブ・アートは、誰もが改良・改造できる「プログラム」と「コンピューター」という機械の上で制作されるものだ。そして「ネットワーク」というさらに大きなモチーフがある。大衆化による安定期を打破し、もう一度コロンブスの卵的な発想で、新しいウェブ・アートが発見されることを望む。
浅葉 克己(アートディレクター)
1940年生まれ。株式会社ライトパブリシティを経て、1975年株式会社浅葉克己デザイン室を設立。サントリー、西武百貨店など、数々の広告を手がける。日宣美特選、日本宣伝賞、紫綬褒章、東京ADC賞グランプリなど受賞多数。東京ADC委員、東京TDC会長、JAGDA理事。中国に伝わる、生きた象形文字「トンパ文字」に造詣が深い。書家・石川九楊に師事。卓球六段。
土佐 信道(明和電機)
アートユニット・明和電機代表取締役社長。青い作業服を着用し、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで活動。魚をモチーフにしたナンセンスマシーン『魚器』シリーズ、オリジナル楽器『ツクバ』シリーズや本人が作ったおとぎ話から発想される作品群『エーデルワイス』シリーズを制作し、その製品のすばらしさをアピールしている。2004年は広島・東京にて大規模な製品展示会『明和電機 ナンセンス=マシーンズ展』を開催。
中谷 日出(NHK解説委員)
神奈川県出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了。NHK、長野オリンピックなどのロゴマークデザイン、NHKスペシャル『人体・脳と心』のアートディレクション、ハイビジョンドラマ『DREAM TV 200X』監督など。また、2001~2004年には、『デジタル・スタジアム』、小学校高学年用メディアリテラシー番組『体験!メディアのABC』キャスターを、『趣味悠々デジタルビデオを使いこなそう』では講師を務める。Gマーク(グッドデザイン賞)選定委員。
三上 晴子(アーティスト・多摩美術大学助教授)
1984年から“情報社会と身体”をテーマとしたインスタレーション作品を数多く発表。1994年からは視覚、聴覚、触覚など知覚によるインターフェイスを中心とした作品を発表。主な展覧会にスペイン・ミロ美術館、フランス・ナント美術館、ICC常設展などがある。2004年、スペインから作品集を出版。重力感覚をテーマとした作品は山口情報芸術センター、ロッテルダムで展示され、2005年はベルリン、トリノ、フランスでも開催予定。
![平成16年度[第8回]文化庁メディア芸術祭 平成16年度[第8回]文化庁メディア芸術祭](/festival/images/no08.gif)



