平成17年度[第9回]文化庁メディア芸術祭
アート部門 審査講評

日本の作家の活躍は、メディアアート活性化の表れ

草原 真知子(アート部門 主査)

草原 真知子(アート部門 主査)今年も全応募作品の半数近くが集中し、選に残った作品はいずれもレベルが高く、テーマや表現も多彩で賞の決定は困難を極めた。とくにインタラクティブ作品(インスタレーションとしての応募も含め)と映像の質が高く、コンセプトの強いもの、ユーモアや懐かしさを交えてメディアの断面を提示するもの、意表を突く技術によってアートに新たな可能性を切り拓くものなど、オリジナリティと表現や技術のバランス、完成度の高さが目立った。それに比べて静止画とウェブ作品は残念ながら精彩を欠いた。今回、審査終了後に初めて受賞作品に占める日本の作家の多さに気づき、驚きの声があがった。海外から有力作品が多く集まるアート部門での日本の作家の予想以上の活躍は、近年の日本のメディアアートの活性化、特に若手作家の層が厚くなったことの表れだろう。

草原 真知子(早稲田大学教授)
1980年代前半からメディアアートのキュレーションと批評、メディア論研究で国際的に活動。筑波科学博、名古屋デザイン博、神戸夢博、NTT/ICCなどの展示のほか、SIGGRAPH、Ars Electronica、ISEAなど多くの国際公募展の審査に関わる。講演、著作多数。デジタルメディア技術と芸術、文化、社会との相関関係が研究テーマ。UCLA芸術学部客員教授。工学博士。

▼インタラクティブ・その他 作品講評/ヤノベケンジ(美術作家)

高い次元のデジタル技術とクオリティーで圧倒するもの、かたや極端なアナログ・メカに戻りユーモラスにテクノロジー批評するもの。個人が職人的につくりあげる作品から、ミュージシャンとの大規模なコラボレーションを繰り広げるもの。インタラクティブというカテゴリー分けが疑問に思えるほど多種多様の表現は楽しめた。だが逆に驚くべきほどのものが少なかった印象も否定できない。全体のテクノロジーや表現が熟達するなか、必要なのは突出する「とんでもなさ」である。得体の知れない魅力にあふれる斬新さが次の時代をつくっていくはずだ。

▼インスタレーション 作品講評/土佐 信道(明和電機)

今年の作品には、植物や蛍光灯、メカニックな機構、レンズなど、「アナログ」と「デジタル」の両方の特性を生かした作品が多かった。インスタレーション作品の場合、そこを訪れる人間の身体性がとても重要になる。これは椅子に座って見る映画や、ビデオ、パソコンのように「目と脳」が働くメディア作品とは異なる。その空間を訪れ、全身で体感することがインスタレーションでは重要である。それは人間の感覚器官のアナログ部分に訴えるものであり、その身体性のアナログ性に連結するような作品が多かったのである。デジタルを超えて、アナログ・デバイスがもつ複雑性に注目したともいえるだろう。ただ、その物質性だけに頼った作品では弱い。それらにも制御を働かそうとする姿勢がみえたとき、メディアアートとしての強さを感じることができる。受賞した作品にはそれがあった。

▼映像 作品講評/草原 真知子(早稲田大学教授)

今年の応募作品は、全体的なレベル向上と手法の多様化が目立った。映像制作をサポートするソフトの高性能化・低価格化で、絵画や写真などの分野で自分の作風をもっている作家たちが、動く映像を積極的につくり始めたのだろう。墨絵や銅版画、粘土などのアナログな風合いを生かしたアニメーションや、写真を自在に使いこなして時間と空間を再構成する作品など、従来の映像のカテゴリーの枠にはまらない闊達な表現が魅力的である。シンプルな線描風の作品の増加は、超リアルCGの普及が、逆にスタイライズされた表現への関心を呼び覚ました昨今の動向の反映だろうか。一方で残念なのは、プログラミングやシミュレーション、3D-CGの可能性を追求した作品が少なかったことだ。アナログ表現が培ってきた豊かな表現にデジタル表現を引き寄せるだけでなく、デジタルであることの意味を鋭く追求することが、これからの映像表現をさらに豊かなものにしていくはずだ。

▼静止画 作品講評/浅葉 克己(アートディレクター)

静止画作品はアート部門の中核である。僕は1枚の静止画が時代を変えることができると思っている。そこには見たこともない発見があるからだ。文化庁メディア芸術祭の一番の特徴は、44ヵ国から応募してきた、言葉も伝統も異なり、習慣や肉体も違う人たちの脳のなかから生まれた思考が、ひとつの方向を標榜していることだ。アメリカのAndy LOMASさんから出品された増殖する微粒子。どのように制作したのかわからないほどの数の粒子がつくる不思議なカタチは魅力的だった。日本の西村宜起さんの地球のどこかの地点であることは理解できる地図。赤い帯状の図形は何を意味しているのだろうか。上空からは丸形に見えるが、横から見ると見えかくれする帯になる。セルビア・モンテネグロのAleksandra Smiljkovic-VASOVICさんの黄色い光も魅力的だ。天才少年の林俊作さんは今年も佳作を出品してくれた。しかし他のアート部門に対峙してみると、超えることができる強さがなかったのが残念だ。

▼ウェブ 作品講評/中谷 日出(NHK解説委員)

本年度のウェブ作品は全体的に水準が高かった。しかし、そのなかから突出した作品が出なかったのがさびしいところである。それが賞候補になりながらも惜しくもウェブ作品からの受賞がかなわなかった理由であろう。今年も海外からの応募が多く、そのレベルが高い。作品のバリエーションもあり、新しい方向性にチャレンジしている作品が多かったことは、来年以降に大いに期待がもてるところだろう。国内からの応募はレベルの差がかなりある印象だった。受賞候補に挙がっていた作品は海外からの応募作品よりも質が高かった。しかし国内作品に特にいえることだが、アート部門のウェブというカテゴリーのなかでどのような作品に仕立てていくかを、もっと戦略的に考える必要があるように感じられたし、エンターテインメントとアートとの違いをさらに詰めて考える必要がある気がした。
いまさらいうべきことでもないが、ウェブというジャンルが、アート表現においてもこれからさらに重要な位置づけになっていくことは明らかだ。新しい表現に挑戦するオリジナリティーあふれる作品が来年現われることを期待してやまない。

審査委員

浅葉 克己(アートディレクター)

浅葉 克己(アートディレクター)1940年生まれ。株式会社ライトパブリシティを経て、1975年株式会社浅葉克己デザイン室を設立。サントリー、西武百貨店など、数々の広告を手がける。日宣美特選、日本宣伝賞、紫綬褒章、東京ADC賞グランプリなど受賞多数。東京ADC委員、東京TDC会長、JAGDA理事。中国に伝わる、生きている象形文字「トンパ文字」に造詣が深い。卓球六段。稲田石で石の卓球台を制作。ストリートピンポン計画を立案。

土佐 信道(明和電機)

土佐 信道(明和電機) アートユニット・明和電機代表取締役社長。青い作業服を着用し、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで活動。魚をモチーフにしたナンセンスマシーン『魚器(NAKI)』シリーズ、オリジナル楽器『ツクバ(TSUKUBA)』シリーズや本人がつくったおとぎ話から発想される作品群『エーデルワイス(EDELWEISS)』シリーズを制作し、その製品のすばらしさをアピールしている。

中谷 日出(NHK解説委員)

長谷川 祐子(キュレイター) 神奈川県出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了。NHKのロゴマークデザイン、NHKスペシャル『人体・脳と心』のアートディレクション、ハイビジョンドラマ『DREAM TV 200X』監督など。また、2001年より『デジタル・スタジアム』、小学校高学年用メディアリテラシー番組『体験!メディアのABC』キャスターを、『趣味悠々デジタルビデオを使いこなそう』では講師を務める。Gマーク(グッドデザイン賞)選定委員。

ヤノベケンジ(美術作家)

長谷川 祐子(キュレイター)1965年、大阪生まれ。大阪万博跡地近郊で育ちその「未来の廃墟」像をモチーフに作品をつくりつづけている。放射線感知服『アトムスーツ』を身にまとい、チェルノブイリを訪れるなど、ユーモラスな形態に社会性のある強いメッセージをこめた作品群は国内だけでなく海外からの評価も高い。2003年『メガロマニア』(国立国際美術館)、2004年『子供都市計画』(金沢21世紀美術館)、2005年『キンダガルテン』(豊田市美術館)など。

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