平成18年度[第10回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

Special Interview Vol.1

海外からも注目されている日本のメディアアート。毎年、文化庁メディア芸術祭には海外のフェスティバル関係者も大勢訪れています。今回は、Ars Electronicaのフェスティバルディレクター、ゲルフリート・シュトッカー氏に、今年度の受賞作品をご覧になった感想を伺いました。
Ars Electronica

――今年度も文化庁メディア芸術祭にお越しいただき、ありがとうございます。今年の受賞作品展をご覧になってそれぞれの作品に対してどのように感じたか、ゲルフリートさんの率直な感想をお聞きしたいと思います。

毎年、文化庁メディア芸術祭では一貫して質の高い作品が選ばれており、大変すばらしいと思っています。どの作品もとても興味深いのですが、とくに私が専門としているアート部門には、もっとも興味をひく作品が集中しています。そこで、アート部門の受賞作品についてそれぞれ簡単に感想を述べましょう。

『Imaginary・Numbers 2006』 木本 圭子

Imaginary・Numbers 2006

数理データを非常に美しい方法で用いて、洗練された表現へと昇華しています。しかも、ただ数学的なデータを視覚化しているのではなく、その映像によって私たちの認識を深めていることが重要です。通常、こうした数学の世界というものは専門家にしか理解できないのですが、粒子の動きを眺めていると、私たちの頭の中のどこかで、イメージを通して何かしらの理解を得ることができるのです。人間の認知力を探求する作品である点がいいですね。精細で純粋なイメージ、そしてイメージの背後にある数学を一般の人々に理解または感じさせている、これがこの作品の美しさです。

『×マン vibration』 岡本 高幸

×マン vibration

身体をたくさんのケーブルで覆うという発想に "テクノロジーの氾濫" というアイロニーを感じる、チャーミングで楽しい作品です。サイボーグやロボティクスといったものは私たちの身体感覚とは対極にあり、テクノロジーが身近になればなるほど、私たちの皮膚感覚は薄れていきます。その点をこのプロジェクトは、エレガントで美しい表現とアイロニーの要素を重ね合わせることで、うまく表現しています。デジタルなデータと身体性を結びつけることは、とてもよい挑戦です。

『OLE Coordinate System』 藤木 淳

OLE Coordinate System

はじめに作品説明を読んだ時には、誰かがやるだろうなと思ったのですが、実際に遊んでみるととても楽しくて、エッシャーの不思議な世界にはじめて出合った子ども時代を思い出しました。メディアアートがすべきことは、ただ作品を見てもらうのではなく、実際に参加してもらうこと。この作品は単純なグラフィックを用いて、人に体験してもらうことに成功しています。エッシャーの世界を再発見するのではなく、エッシャーの世界がもつ興奮を体験できることが重要なのです。

『front』 Johanna REICH

front

最近では若いアーティストがデジタルメディアを使って、新しい表現に挑戦する傾向が増えています。この作品もデジタルメディアを間接的に使用したメディアアート作品と言えるでしょう。デジタル・イメージ処理の質が非常に高く、力強い物語性を有しているインスタレーションです。サイバースペースでは身体性が失われるのですが、この作品でも身体がダメージを受けるという体験について力強く表現しており、とても印象的です。

『MediaFlies』 Daniel BISIG / 畝見 達夫

MediaFlies

大賞の『Imaginary・Numbers 2006』と同じく、科学者が複雑な数理データを使って、その背後にある何かを表現しようと試みている点が興味深いですね。この作品では「表現の探求」という面が目を惹きます。作者が何か違った方法で表現しようと試みているのが感じられるのです。数字や図で表現するのではなく、数学的なデータに「かたち」を与えたいという気もちが伝わってきます。アーティストとは異なる表現手法を模索している点がすばらしいですね。

『Sagrada Familia計画』 林 俊作

Sagrada Familia計画

14才の子どもが描いたという点で驚異的ですね。テクノロジーもマスターしている点もそうですが、ガウディのサグラダ・ファミリアという既存の芸術作品からアイデアを得て、それを自分自身の視覚表現へと発展させている点がすばらしい。生まれたときからコンピュータ・テクノロジーがすでに存在していたという彼のような世代が、これからどのようにデジタルメディアを使ってイメージを創造していくか、メディアアートをどのように発展させていくか、私自身とても興味がありますし、将来に大きな可能性も感じました。

――そのほかのアート作品で、ゲルフリートさんが特に気になっている作品はありますか?

たくさんありますが、特に印象に残っているのが、学生CGコンテンストのインタラクティブ部門最優秀賞を受賞した野口久美子さんの『String oscillation』です。シンプルですが表現として完成度が高く、個人的に好きな作品です。ギャラリーの中ではなく、屋外で展示してもいいかもしれない。ビルの谷間に置かれていて、風がワイヤーを揺らすとイメージが現れる…と想像すると美しいでしょう?
この作品は、テクノロジーを使いすぎず、ビジュアルやフィジカルな体験といった点に力を入れているところがいいですね。影が織りなす洗練されたテクスチャーにも驚きました。日本の学生の作品が優れているのは、作品の仕上げに大変気を使っている点。もちろんアイデアも重要なのですが、グラフィックや色使い、動きなど、作品のディテールに細かい配慮がされていると感じることが多いですね。

Special Interview Vol.1

『おはなしの花』

――アート部門以外についてもお聞きしてよろしいでしょうか。マンガ部門やアニメーション部門で、特に印象に残った作品はありますか?

マンガ部門に関しては、ストーリーを理解することができないため、評価できません。絵がきれいですねとしか言えないのです。日本語が読めたらと残念に思います。

アニメーション部門で、もっとも印象に残ったのは『おはなしの花』ですね。シンプルで実際的な要素を異なるダイナミクスで表現している点が興味深いです。ある意味では、『Imaginary・Numbers 2006』にも通じるものを感じます。つまり、テクノロジーが、あくまでもかたちを与えるためのツールとしてさりげなく使われているということです。これが私たちの生活を支配するテクノロジーのあり方なのです。作品が芸術的で美しい表現であるからこそ、私たちの理解に貢献しているのです。

『雨刀』

――ではエンターテインメント部門はどうでしょうか。

『しゃべる!DSお料理ナビ』は、世の中には不便なガジェットが多いなか、シンプルなアイデアから便利なツールが生まれた点を評価したいですね。私が特に注目したのは『日本再発見マップ』です。美しいグラフィックと価値ある情報のコンビネーションがすばらしい。グラフィックとテクノロジーが理解を深めることに役立っている。これは教育ツールとして応用できますね。意味のあるプロジェクトというだけでなく、色使いやアイコンなどのデザインも美しいという点が優れています。
『雨刀』は楽しい作品ですね。私も子どもの頃に傘や木の枝で遊びましたが、これは本当に音が出るのがおもしろい。また、日用品である傘ですらインターフェースになり得るのだという発見がありました。洗練されている作品なのでアート部門に出品されていても通用すると思いますよ。

Special Interview Vol.1

――文化庁メディア芸術祭は4つの部門に分かれていますが、ゲルフリートさんが『雨刀』はアート部門でも通用するとおっしゃったように、複数のジャンルにまたがるような作品もあると思います。
たとえば、ゲルフリートさんはアートとエンターテインメントの違いはどこにあると考えていますか?

アートとエンターテインメントの境界線は難しいですね。商業的につくられたものなのどうかという違いだけだと思います。商業的な作品でも芸術性が高いものがあるわけですから。アートとエンターテインメントが同列に並べられるのはどうか、という疑問を投げかける人もいるでしょう。しかし、異なるジャンルの作品を同じ視点で見つめていることは、フェスティバルとして重要な主張であるとも思います。

クリエイティブな人々や才能のある人々が、ニューメディアの可能性を発見し探求しようと試みている。ある人はアーティストだと言われていて、ある人はサイエンティストと呼ばれている。また別の人はエンターテインメントの分野で活動するプロフェッショナルである。しかしどの人も、探求の精神はとても似ています。みんな境界を広げ、新しい方向性やビジョンを開拓しようと試みている。そしてどの分野にも芸術的な戦略がみられます。

いつも私は、そうした異なる分野から生まれてくる作品に出合えることにワクワクしています。ジャンルの区別をつけようとするよりも、違うジャンルが力を合わせていくほうがいいと思うのです。アートとサイエンスを区別する必要はないし、それよりも作品の質に目を向けるべきです。

文化庁メディア芸術祭は4つの部門にわかれていますが、ジャンルは違えど共通点のある人々が一堂に会するフェスティバルという意味で、すばらしい貢献をしています。これからもそうした人々が一緒に参加できるひとつのプラットフォームとしての機能を果たしていくべきです。そうすることで観客にも利点があります。自分が知らなかった分野の作品に触れるよい機会となるからです。違う分野の人々が同じテーマにアプローチしているのはとても興味深い。それを目にすることができるというのが、文化庁メディア芸術祭の長所だと思います。

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