| 2月25日、平成18年度 (第10回)文化庁メディア芸術祭のテーマシンポジウム「世界のメディアアート」が開催されました。司会は昨年に引き続きNHK解説委員の中谷日出氏、ゲストにゲルフリート・シュトッカー氏(Ars Electronica/オーストリア)、キャット・ジョーンズ氏(Electrofringe/オーストラリア)、ジニー・チュウ氏(SICAF/韓国)、リナ・ヤマグチ氏(SIGGRAPH/アメリカ)を迎え、世界のメディアアートを取り巻く状況について積極的な意見が交わされました。 | ![]() |
司会: |
中谷 日出(NHK解説委員) |
出演: |
ゲルフリート・シュトッカー(Ars Electronica/オーストリア) |
シンポジウムは各フェスティバルのプレゼンテーションから始まりました。まず、シュトッカー氏がArs Electronicaを紹介。最近では、これまでの領域を打破して積極的に他分野とつながっていこうと取り組んでいるそうです。昨年は、オーケストラの奏でる音やダンサーの動きに反応するデジタル映像を使ったインタラクティブなステージ・パフォーマンスを行ないました。「これをきっかけに、クラシックやオペラのファンもデジタルアートに興味をもってほしいと思った」と語るシュトッカー氏。また、アーティストが技術者や科学者と協力してプロジェクトに携わる「future lab」や新しいミュージアムについても説明されました。
シュトッカー「Ars Electronicaでは、遺伝工学やバイオテクノロジーから、政治問題や社会問題まで幅広いテーマを取り上げており、新しいテクノロジーが私たちの社会にどのような影響を与えているのかを追求しています。ミュージアムは美術館ではなく教育機関として考えており、一般の人々がより理解を深めるための施設という役割を担っています」
次のプレゼンターはElectrofringeのジョーンズ氏。今年で10年目を迎えるElectrofringeは、オーストラリア最大のアートフェスティバル「This Is Not Art(TINA)」の傘下に入っています。毎年9月末にニューカッスルで開催されるTINAは、複数の独立したフェスティバルの協力のもとで運営されています。使われていない店舗や倉庫などをアートの展示やワークショップの場所として活用するなど、フェスティバル自体が、過去の大地震で打撃を受けたニューカッスルの再活性化に大きく貢献しているそうです。Electrofringeでは「フェスティバルは参加者のためのもの」という考え方を重視し、アーティスト同士がお互いに助け合えるような環境や幅広い層の人々のネットワークを提供しています。
ジョーンズ「Electrofringeが他のメディアアートのフェスティバルと異なる点は、学会や研究機関の外で行なわれていることでしょう。学術的な研究や理論よりも、アートの形態の開発に焦点をあて、新しいアイデアやコンセプトを重視しています。また、"Do it Yourself" の雰囲気をつくり出し、アーティストが実際に作品を制作できる場所、アーティスト同士の交流やアイデアの発信の場、多様なメディアアートの発展に寄与するイベントなどを提供しています」
続いてジニー・チュウ氏からSICAF、リナ・ヤマグチ氏からSIGGRAPHの紹介がありました。マンガとアニメーションの振興を目的とするSICAFは、今年はさらに国際化を目指し、世界各地から集まった作品を上映する映画祭をはじめオンラインでのイベントなど、専門家だけでなく一般の人々も巻き込んでフェスティバルを盛り上げようと意気込んでいます。
一方、今年25周年を迎えるSIGGRAPHでも国際交流を重視しており、海外からの作品が増加している現状を望ましく思っているそうです。デジタルメディアがさまざまな階層の人々を結びつける可能性を実現するべく、テクノロジーを広めることでさまざまな障壁を取り除こうともくろんでいます。
チュウ「新しいメディア・テクノロジーがマンガやアニメーションの領域を拡大しています。SICAFでは、さらに臨場感あふれるアニメーションやマンガを体験する機会を提供しようと試みています。今年はアニメーションやマンガの創造性を通じて、まったく新しいことを実現したいのです」
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ヤマグチ「高度なテクノロジーが手に入るようになった今、メディアとメッセージのバランスを取ることが難しくなっています。デジタルメディアがグローバルなコンテクストのなかでどのような役割を果たすのか、民族文化や世界の言語がデジタルメディアによってどのように変化していくのか、また人間と自然の意識を高めることにどんな役割を果たしているのか、といった点を考えていきたいです」
続いて中谷氏が「文化庁メディア芸術祭10周年企画展『日本の表現力』」の映像を交えながら、日本のメディアアートの現状について解説しました。社会性の強い作品が多い欧米とくらべると、日本の場合はポップカルチャーの背景の上に成り立っている作品が多く、エンターテインメント性が強いアート表現が世界で評価されていること、日本のメディア芸術にはアニメやマンガも含まれていることなどを説明。そして各出演者に日本のメディアアートの印象について一言ずつ伺いました。
シュトッカー「独特な特徴がきわだっています。学生の作品にも高度なレベルの技術が見られますし、細部にまで目を配っていてインターフェースにも細かい配慮がされている。専門性が高くアイデアが豊富という点に感銘を受けました。身体性とバーチャルな要素を組み合わせることがうまいですね」
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ジョーンズ「テクノロジーとの関係が高度化しています。インタラクティビティ(双方向性)も多用されており、遊び心が見られる点も高く評価しています。どの作品にもエンターテインメント性があり、日本人にとってアートが手に届くものになっている気がします」
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チュウ「去年にくらべて、文化庁メディア芸術祭自体も規模が大きくなり、コンテンツの質が高くなっているように思います。受賞者をみても、若いアーティストが増えていることが驚きです。可能性がある人材がそれだけ存在するというのはすばらしいことだと思います」
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ヤマグチ「日本のメディアアートに楽しい作品が多いのは、日本の文化や伝統の延長線上にある点が大きいと考えています。また、作品自体だけでなく、そのプレゼンテーションもすばらしい。配置の方法や演出が上手でうらやましいです」
ディスカッションでは、司会の中谷氏から今後の展望についてシュトッカー氏に質問。「メディアアート自体がサブカルチャーから大きく成長し、パラダイムシフトが起きている」と考えるシュトッカー氏が「アーティストにとって必要なのは、プレゼンテーションの空間や制作のサポート。そこを強化したい」と回答しました。また、どのフェスティバルもアーティストへのサポートと国際化を念頭に活動していることが発言から伺えました。
シュトッカー「日本の学生の作品の質は高いですが、卒業してしまうとサポートを失ってしまう。サポートなしでは高い技術の作品をつくるのは難しいのです。メディアアートはコストがかかるので資金調達も重要です。しかし私たちは、スポンサーを求めるというよりも、業界とのより密着した協力体制を築きたいと考えています」
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ジョーンズ「Electrofringeでもアーティストへの継続的なサポートを行なっています。Electrofringe自体が、オーストラリアのメディアアーティストのデータベースの役割も果たしていて、ポッドキャストで過去のイベントを放送し、フェスティバルのアーカイブを構築することで、アーティストを多くの人々へ紹介していく役割を果たしています」
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チュウ「SICAFでも若いクリエイターのためのプログラムに力を入れています。海外のフェスティバルにも韓国のクリエイターを積極的に紹介し、実際に成果を挙げています。若いクリエイターが専門のプロダクションと連携できるように協力しています」
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ヤマグチ「SIGGRAPHでは世界各地に支部を設けていますので、アーティストが各地で活躍できるようにしたいと考えています。支部間のつながりをもっと密接に保つことができるといいと思いますし、さまざまなプログラムを開発していきたいですね。海外での展示も有益ですが、コストがかかるのがネックです」
最後に簡単に質疑応答の時間が設けられました。「ブログやYouTubeのようにレスポンスが早く得られるメディアが流行するにつれ、メディアアートの裾野も広がっていくのか」という質問に対して、「インターネットによって安く簡単に作品を他人に見てもらえる状況が生まれたことも重要だが、インターネットがオルタナティブな教育ツールになっている面にも注目すべき。大学や各フェスティバルはこうした状況に追いついていかなくてはならない」(シュトッカー氏)「ネットで広まった作品が、他の人のインスピレーションになるのも事実。グローバルで簡単に共有ができるというのは、非常にうらやましい世界」(ヤマグチ氏)といった回答のほか、「アートとポップカルチャーの線引きはどうするか、多くの人を惹き付けるポップカルチャーの寿命は短命。アートもそうなってしまうのか」(ジョーンズ氏)という疑問も出ました。また「テクノロジーが多様化する中、メディアアートという言葉は定着していくのか、またメディアアートは今後テクノロジーから離れていくのか」といった質問にジョーンズ氏が以下のように回答し、シンポジウムは終了しました。
ジョーンズ「変化にあわせて言葉も変わっていくでしょう。多くの国ではすでに違った言葉で表現しているところもありますし、オーストラリアではニューメディアアートという言葉を使っています。最近のメディアアーティストにも多様性があって、分類することが難しくなっています。めまぐるしく変化していく状況なので、メディアアートという言葉が定着するかどうかはわからない。テクノロジーも、新しいから使うのではなく、コンセプトを実現するために使う。何らかのテクノロジーが表現のために使われているという点で、現状ではメディアアートという言葉で呼ぶしかないですね」




