浅葉 克己(アート部門主査)
文化庁メディア芸術祭は、アート部門が高速でリードしていかねば、未来は見えてこないと強く感じた。10回目を迎えて、世界中から注目される芸術祭に発展したことは喜ばしい。企画し、発展し、停滞するという世の慣わしに従ってはいけない。大賞は『Imaginary・Numbers 2006』。ミラノサローネで上映された、ディスプレイ映像だ。質の高い、繊細な線の宇宙が無限に動く画面は、世界中の人たちに感動を与えたと聞いた。優秀賞の『front』、パンチを受けた女性の顔が痛みとともに迫ってくる。インタラクティブアートの優秀賞『OLE Coordinate System』はエッシャーのイメージをうまく取り入れた秀作。インスタレーション、インタラクティブアート、静止画それぞれのジャンルから上位賞が出たことで、未来に継がれることが確認できた。
1940年生まれ。株式会社ライトパブリシティを経て、1975年株式会社浅葉克己デザイン室を設立。サントリー、西武百貨店、ミサワホームなど、数々の広告を手がける。日宣美特選、日本宣伝賞、紫綬褒章、東京ADC賞グランプリなど受賞多数。東京ADC委員、東京TDC会長、JAGDA理事。中国に伝わる、生きている象形文字「トンパ文字」に造詣が深い。卓球六段。AGI(国際グラフィック連盟)日本デザイン総会実行委員長。
▼インタラクティブ・その他 作品講評/ヤノベケンジ(美術作家)
本年度の応募作品は「技術力」と「作家表現」のバランスがうまくとれているものが多かった印象がある。『OLE CoordinateSystem』はゲームソフト的なツールに終わらず作家の意思が明確に現れる「動く絵画」、『×マンvibration』は装着する体験者を鑑賞するだけでイマジネーションが刺激される「動く彫刻」とみることができる。『Drawn』『素数ホッケー』などの子ども向け教育ソフト的な作品もハイセンスな表現力でまとめられている。高度なデジタル技術を「ユーモア」というエッセンスでやさしく美的にアナログ化する。それが今日的なメディアアートの方程式かもしれない。
▼インスタレーション 作品講評/長谷川 祐子(キュレイター)
インスタレーション作品は大型の映像プロジェクションを空間的に展開するもの、彫刻的なもの、インタラクティブ性をもつものと多様な作品が見られた。バーチャル、フィジカルいずれにせよ目の前のリアリティに果敢に立ち向かっていく女性ボクサーの姿をとらえた『front』はシンプルだが、視覚的インパクトとセンシャルな感覚で新鮮だった。ハイスピードカメラですれ違う車中の人物を肖像としてとらえた『Drives』も、決して凝視することのできないすれ違う人々をより古典的なポートレートに転じたという意味で、そのアンビバランスが興味深かった。そのほか身体の動きが水の音を引き起こす『AQUATIC』、昆虫のランダムな動きと観客の動きが相乗して抽象絵画を生み出す『MediaFlies』など、着想はとりたてて新しくないがインターフェイスと成果が洗練された作品、羽毛を夢幻的に浮遊させた『浮く冬』、塗り分けたピンポン球をピクセルにみたてたローテクが笑いを誘う『PingPongPixel』など、身近な素材を詩的かつ温かみをもって変容させた立体作品が印象的だった。
▼映像 作品講評/原田 大三郎(多摩美術大学教授)
この数年間、文化庁メディア芸術祭の審査から離れていたので、久しぶりに戻ってきて参加した今回の審査は、興味深いものだった。まず感じたことは、新人の登竜門的な存在である「学生CGコンテスト」で活躍している作家たちが、やはりここでもレベルの高い作品を発表しているという点。この現象に関しては賛否両論あるだろうが、個人的には喜ばしいことだった。次に感じたことは、いわゆるデジタルな制作環境から生み出されてくる合成技術を駆使した作品が多数あったという点。技術的には商業映画で行なわれているVFXと変わらないが、映画では見られない個人的な問題意識をもとにつくられている、その視線にユニークさを感じた。ただ作品として、あるメッセージを見る人に明確に伝えることに成功しているかという点には疑問が残る。全体としての感想は、アート部門の映像として、存在を際立たせるような作品が少なかったこと。これは作者というよりもメディアアートにおける映像表現自体が現在抱えているひとつの問題点だと思う。
▼静止画 作品講評/浅葉 克己(アートディレクター)
一点の静止画で時代は変わると思い続けている。ショックを与えてほしいのだ。頭をガーンと叩いてほしいのだ。芸術とはそういうモノだ。大きな空間での個展やインスタレーションのなかで中心に位置する静止画や、エディトリアルデザインのなかで繰り返し、繰り返し訴えかけてくるヴィジョンとは違って、雑然と並べられた公募展会場から、この一点を選び出すのは難しい作業だ。長谷川祐子さんの鋭いひと言に支えられて11点の推薦作品を選び出した。中江昌彰さんの『ROCKET』、夕焼け空のなかを高速で鉄道で運ばれていくROCKET、鹿のいる公園のなかに設置されたROCKET。異空間との対比がおもしろかった。過去受賞作である橋本典久さんの『lifesize』や加納佳之さんの『機関紙』、太湯雅晴さんの『太湯銀行券』のような、日常のなかでの密度ある作品に出会えなかったのがすこし寂しい。やはり林俊作君の大作『Sagrada Familia計画』に注目が集まった。
▼ウェブ 作品講評/原島 博(東京大学大学院教授)
インターネットのウェブがまだ珍しかった頃、洒落たホームページはすぐ話題になった。それが今では、あっという間に当たり前の日常になった。そのような時代にあって、アートとしてのウェブ作品は、いま大きな曲がり角に来ているように思える。そこで主張すべきは、単なる絵画的あるいは映像的なアート性ではない。それでは単独の絵画あるいは映像作品と差別化できない。一方で、いかにホームページのメッセージ性が高くても、表現のレベルが高くなければアート作品とはいえない。今回も多くの興味深い作品の応募があった。しかし、残念ながら今年もウェブからアート部門の受賞作品が選ばれなかった。ウェブならではのアート性に優れた、突出した作品を見いだすことができなかったからである。
来年こそは新たな時代の到来を予感させる意欲作を期待したい。
長谷川 祐子(キュレイター)
京都大学法学部卒業。東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長(1999-2005)、芸術監督(2005-2006)を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議(CIMAM)理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「ニュー・センソリアム」(2006年10月-2007年4月)MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター、「メディア・シティ・ソウル」(2006)ソウル市美術館
原島 博(東京大学大学院教授)
1945年東京都生まれ。もともとは数学的な情報理論や通信方式論の研究者であったが、1985年頃からより本質的な人と人の間のコミュニケーションのしくみに興味をもち、ヒューマンコミュニケーション工学を提唱。顔学などの新しい学術領域の創出や、科学技術と芸術の境界にも強い関心をもつ。映像情報メディア学会会長、日本バーチャルリアリティ学会会長、日本アニメーション学会副会長などを歴任し、現在は日本顔学会会長でもある。
原田 大三郎(多摩美術大学教授)
1983年筑波大学大学院芸術学部総合造形コース卒業。坂本龍一、安室奈美恵、小室哲哉、globe、LUNASEAなどの国内外コンサートツアーやプロモーションビデオの映像演出、また映画のオープニング映像やVFXなどを担当。1993年、NHKスペシャル『驚異の小宇宙 人体2 脳と心』CG監督。1994年、第1回日本芸術文化振興賞受賞、マルチメディアグランプリ ‘94MMA会長賞受賞。2001年5月より SHARP『AQUOS』VP制作。現在、多摩美術大学情報デザイン学科教授。
ヤノベケンジ(美術作家)
1965年大阪府生まれ。大阪万博跡地近郊で育ちその「未来の廃墟」像をモチーフに作品を作りつづけている。放射線感知服『アトムスーツ』を身にまとい、チェルノブイリを訪れるなど、ユーモラスな形態に社会性のある強いメッセージを込めた作品群は国内だけでなく海外からの評価も高い。2003年「メガロマニア」(国立国際美術館)、2004年「子供都市計画」(金沢21世紀美術館)、2005年「キンダガルテン」(豊田市美術館)、2006年「縄文と現代」(青森県立美術館)ほか。
![平成18年度[第10回]文化庁メディア芸術祭 平成18年度[第10回]文化庁メディア芸術祭](/festival/images/no10.gif)



