2007年度文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で優秀賞を受賞した山村浩二さんの『カフカ 田舎医者』。この作品は、カナダの「オタワ国際アニメーションフェスティバル(OIAF)」で2007年度グランプリを獲得しました。今回は、山村浩二さんとオタワ国際アニメーションフェスティバルのマネージングディレクターであるケリー・ニールさんのお二人に、海外のアニメーションフェスティバルの特色や、アニメーションというメディアの今後の展望などについてお聞きしました。
・山村浩二
ヤマムラアニメーション公式サイト
http://www.yamamura-animation.jp/
・ケリー・ニール (OIAFマネージングディレクター)
オタワ国際アニメーションフェスティバル
http://ottawa.awn.com/
――まず、それぞれ主催者側、参加者側からの視点で、オタワ国際アニメーションフェスティバルの特色を教えていただけますか。
ニール:「オタワ国際アニメーションフェスティバル(OIAF)は、1976年から開催されている、北米で最大の歴史あるアニメーション映画祭です。このフェスティバルのおもしろい点は多種多様な作品が結集するところで、短編映画やテレビシリーズから、広告やミュージックビデオにいたるまで、あらゆる分野のアニメーションにふれることができます。また、さまざまな国や作家をテーマに、回顧上映や特集上映なども行なっています。そのほかにも、2日間にわたるTVアニメーション会議、プロデューサーや監督、制作関係者のためのイベントを開催するなど、世界中のアニメーション業界の人々のための交流の場を提供しています。参加者はビジネスを行ないながら、同時に上映作品を楽しむこともできるのです」
山村:「ぼくはいろいろな映画祭に行っていますが、なかでもいちばん回数が多いのはオタワですね。OIAFに参加していつも感じるのは、作家との距離が近くて、ディレクター同士がコンスタントにコミュニケーションしていることが多いということです。作り手としては、仲間である世界中のディレクターと交流できる場所でもあるんです。そして、プログラムがどれもユニークです。特集上映はゲスト・キュレイターを迎えて作品を選んでいるため、その人独自の視点が入っていておもしろい。どのプログラムも興味深く、質の高い内容になっていると思います」
ニール:「フェスティバルの中心は、毎年、世界中からたくさんの作品が集まるコンペティションで、短編アニメーションや商業アニメーション、学生の作品やインターネット向けの作品、子ども向けアニメーションなど、いくつかのカテゴリーに分かれています。同時に、ワークショップやフォーラムも開催しています。2007年度の目玉プログラムは、アメリカのアニメーションスタジオUPAの特集や、イギリスのアニメーション作家、ジョアンナ・クインの回顧上映でした。彼女は2006年のOIAFでインディペンデント・ショート・アニメーション大賞を受賞した作家で、コマーシャル作品でも有名です。それから、カナダのアニメーション会社ヘッドギアも取りあげましたね。この会社もコマーシャルを数多く手がけています。また、私たちはひとつのテーマをもとにしたプログラムを組むことがあるのですが、昨年は「詩」をテーマに「ポエトリー・イン・モーション」という上映を行ないました。そのほかにも、雑誌「New Yorker」の表紙のイラストレーションで有名なソール・スタインバーグを特集したプログラムもありましたね」
山村:「ぼくは全部のプログラムを見ることはできなくて、特に「ポエトリー・イン・モーション」はぜひ行きたかったのですが、タイミングが合わなくて残念でした。ぼくが見たなかで印象に残ったのは、ソール・スタインバーグのプログラムです。彼自身がフィルムをつくっているのではなくて、彼のイラストをもとにしたり、彼のグラフィックのスタイルに直接的あるいは間接的に影響を受けたりした作品という集め方をしていたんですね。ぼくもまだ見たことがなかった作品もあり、どの作品もおもしろかったですね。回顧上映で取りあげられたイギリスの女性ディレクターであるジョアンナ・クインは、今回も審査委員の1人として参加されていますが、確かなアニメートの技術をもった人です。OIAF全体が、非常にインディペンデントでアートよりの作品から、商業的な映像作品まで、アニメーションであればすべてのジャンルをさまようような雰囲気なのですが、UPAの特集プログラムもそれを象徴しているかのようでした。芸術性と産業とがうまく結びついた歴史的なフィルムが数多くあり、刺激になりました」
ニール:「2008年のフェスティバルは、9月17日から21日に開催する予定です。大きなイベントは、カナダのアニメーションに焦点をクロスカナダで、アニメーションを学びたい人にとって役立つものになると思います。別の大きなプログラムは、山村さんにお願いしている日本のアニメーションの特集ですね。また、アメリカのコマーシャルアニメーター、マイケル・スポーン氏の回顧上映や、実験的なフィルムメーカーの特集、ソニックユースのライブアニメーション・パフォーマンスなど、さまざまな企画を予定しています。ぜひ2008年度のフェスティバルにも多くの方に参加していただきたいと思っています」

――今回、山村さんの『カフカ 田舎医者』がオタワで評価された理由を教えていただけますか。
ニール:「山村さんの今回の作品は、技術的な点が優れているのはもちろんのこと、とても美しく、味わい深い作品だと感じました。扱っているテーマもかなり考えさせられるもので興味深いですね。映像と内容というふたつの面が融合して、すばらしい作品にしあがっているのです。非常に洗練されているだけでなく、きわめて内容のある作品で、じつに際立っていると思いますね」
――山村さんは、落語をテーマにした『頭山』やフランスの童話『年をとった鰐』など、海外でも評価の高い作品を制作されています。今回の『カフカ 田舎医者』は、海外の小説をもとにしていますが、キャストに狂言師の茂山一家を起用していますね。山村さんご自身は、外国文化と日本的な要素を意識して表現しているのでしょうか。
山村:「アニメーションのグラフィックのスタイルに関しては、日本の影響というよりは、ヨーロッパやカナダの作品から刺激を受けています。日本的なものという意識はそれほどしていないですね。もちろん、たとえば北斎や広重など、日本のものにも影響を受けているとは思いますが、どちらかといえばそれは間接的な影響であって、直接的に感化されているのはヨーロッパスタイルのアニメーションなんです。10年ほど前は無国籍なスタイルを目指していたのですが、いろいろな映画祭に参加するようになって、徐々に自分自身が日本人であるということを意識しはじめました。そんなとき『頭山』をつくりました。あれは自分のなかでも日本的な要素が強く、日本というものを描きたいと初めて意識した作品です。『頭山』で気もちが高ぶったのですが、それ以降は逆にナショナリティを意識しない方向に向かいまして、自分が精神的に影響を受けたものであれば何でも表現を取り入れようというスタンスになりました。いちばんの日本的な問題というのは言語ですね。グラフィックは問題ありませんが、セリフが入ってくるアニメーションは、日本語の音声を通じて表現のひとつとなっています。そういう点で、今回の『カフカ』は狂言がスタイルになったのですが、言語は必然的に日本を意識せざるをえないところですね」
――アニメーションというメディアは、今後どのように発展していくとお考えですか。フェスティバルを通して、アニメーションという分野を盛り上げていく工夫やプロモーション展開、またアニメーションが抱える今後の課題など、お聞かせください
ニール:「フェスティバルにはたくさんの方に来ていただいて、アニメーションを広めていきたいと考えていますが、人々を教育したり情報を提供したりする媒体として、インターネットが役立つのではないかと期待しています。しかし、今のところまだ期待に沿うようなかたちにはなっていません。何よりも、多くの人々にアニメーションを見てもらうことがもっとも難しいですね。実際、映画祭という場所以外に、短編アニメーションを見ることができるチャンスは、ほとんどないのです。現在、アニメーションを制作する人は増えています。これは、ソフトウェアが以前より入手しやすくなり、価格も安くなったからです。そして今や、OIAFにも世界各国から軽く2000点を超えるアニメーション作品のエントリーがあります。残念なことに、エントリーが2000あっても、優れた人を探すのは難しいです。でも短編アニメーションに関しては、おもしろく個性的な作品を制作する才能と創造力にあふれた人がかなりいますね。アニメーション自体は、昔にくらべてそれほど変化してきたとは思いません。最高の作品というのは、流行やスタイルではなく、常にオリジナリティと新しさを兼ねそろえたものなのです」
山村:「ぼく自身のスタンスとしては、アニメーションの表現の可能性というのはまだまだだと思っています。技術的には、現在あらゆるものが出てきていますよね。特にアニメーション制作における技術的な自由や可能性は、かなり改革されてきているのが現状です。ニールさんもおっしゃっていましたが、10~20年前にくらべると、アニメーションの制作本数は圧倒的に増えていて、制作者も何千人も世界中にいるので、すべてを把握して語れない状況なのです。そんな中で自分自身もやっていけるのか、常に意識しています。ぼくは、アニメーションにはふたつ問題があると思っています。アニメーションには技術と内容の両方が必要なのですが、アニメーションというのは非常に多くの要素が入り込むものなんですね。空間的な要素、音楽的な要素、サブカルチャー的な要素、技術的な要素、それらをうまく整えて完成形までもっていくのは難しいんです。たくさん本数がつくられるようになっても、いい形が見えてこないというのは、アニメーションにおける見方や考え方、教育という部分で、自分も含めてまだまだ学んでいかないといけないことが多すぎる。そこが第1の問題じゃないかと思います」
ニール:「本当にそうですね。アニメーションを学ぶ多くの学生が、テクノロジーつまりソフトウェアにばかり目を向けていますが、実際に必要なのは経験であり、芸術や音楽、映画を本当に理解すること、ほかのアニメーション作品をたくさん見ることなのです。そうすることで洗練された表現方法を学ぶことができるのです」
山村:「ふたつめの問題は、こうしたショートフィルムは商業的に成功しづらいということに関係します。アニメーションのフィルムをつくるのには、非常にお金がかかります。短いフィルムは割があわなくて、資金を回収しづらいし、販売するほうも売りづらい。自分がやりたいことと、資金を得て商業的に成功するという部分では、何十年前も前からずっと問題があります。大きなプロダクションから小さな個人的な作者まで、常にこの問題を抱えていて、表現の自由とお金という問題をこれから先も考えていかなければなりません」
――最後に、日本のアニメーション制作に関わる方たちへのメッセージをお願いします
ニール:「文化庁メディア芸術祭では、質の高い作品が展示されていて、感銘を受けました。おそらくマンガに触れながら成長しているせいか、日本のアニメーションは創造的ですばらしいと感じます。日本は恵まれた環境にあり、多くの方々がとてもいいスタートを切っていると思うのですが、私からのアドバイスは、とにかく視野を広げてください、ということ。たとえばヨーロッパのアヌシーなど、さまざまなフェスティバルにも積極的に参加するのはとてもいいことだと思います。またほかの芸術や音楽、文化的な要素に触れて、それを自分の作品に取り入れること。そうすればあなた自身の中から何かが生まれて、それがあなた自身に影響を与えるでしょう」。
山村:「本当に、まずはいろいろな作品や映画を見て学びとることがいちばんですね。自分の好きなものだけじゃなくて、いろいろなものを吸収するようにしたほうがいい。知識の幅を広げていって、心のリンクをつなげていくことが大切。ぼく自身も、最初に制作をはじめた20代の頃は、そうしたことが大事だったと思いますし、プロフェッショナルになると、勉強したり吸収したりする機会がだんだん減ってきますからね。とくに時間がある学生さんなどは、自分の専門分野以外にも興味をもってほしい。ぼくは、これから教育という場に携わっていくのですが、ひとつは大学院という環境のせいか教える生徒数が少ないので、それぞれの作家と付きあいながら一緒に考えていきたいと思っています」
――山村さんはお忙しいなか、海外も飛び回っていらっしゃいますが、いま楽しみにされているのは何ですか?
山村:「映画祭とのつきあいが多いので、海外に行く機会が増えていますが、それはとても楽しい経験になります。でも本当に楽しくて精神的に充実しているのは手を動かして制作している時なので、できれば製作に集中したいというのが本音です(笑)」
――本日はお忙しいなか、本当にありがとうございました。



