平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

[テーマシンポジウム] アジアからの文化力 ―アジアのアートフェスティバルの可能性と展望

中国と韓国のメディア芸術フェスティバルから、ゲストを招いて開催されたシンポジウム。パク・イルホ氏は、今年で第5回をむかえる「ソウル国際メディアアートビエンナーレ(Media City Seoul)」の事務局長。またザン・ガー氏は今年6月、北京オリンピックに先がけて開催する「メディアアート・チャイナ2008(中国国際新媒体芸術展)」のアーティスティック・ディレクターです。司会は、世界各地の芸術祭でキュレーションを手がける長谷川祐子氏。それぞれの国の芸術祭事情を知るとともに、アジアというくくりでメディアアートの可能性を考える、またとない機会となりました。
 

日 時 2月7日(木)16:00-17:30 (国立新美術館3F講堂)
司 会 長谷川 祐子 (アート部門審査委員/キュレイター)
出 演 パク・イルホ (第5回ソウル国際メディアアートビエンナーレ事務局長)
ザン・ガー (SYNTHETIC TIMES -media art CHINA 2008 ディレクター)

メディアアートで何が可能になったのか

最初にパク・イルホ氏が、開催を控える展覧会のプレゼンテーションを行ないました。

パク:「2000年に第1回が開催された『ソウル国際メディアアートビエンナーレ』は、今秋で第5回をむかえます。一度きりのイベントとは違って、2年に1回ごとに開催しているのが、このビエンナーレの意義といえるでしょう。今年は、過去の足跡をたどり、今後の展望を示す節目の機会と位置づけています。そこでは、従来のアートに比べて、メディアアートではなにが可能になったのかなど、いくつかの根本的な問いがなげかけられます。またその答えは、展示作品を通して提示されることになるでしょう。展示は3つのセクションに分けて構成しています。それぞれのセクションのコンセプトは、“光”、“コミュニケーション”、“時間”。いずれもメディアアートの特徴を突きつめたものと考えています」

新たな時代を切り拓く中国のメディアアート

SYNTHETIC TIMES

つづいてザン・ガー氏による、中国のメディアアートをめぐる状況と、今年の展覧会についてのプレゼンテーションがありました。

ザン:「過去10年ほどで急速に変化した中国ですが、長く海外にいた私が2003年に久しぶりに帰国したときには、中国の新しいメディアを使ったアートの考え方は、国際的なメディアアートのコミュニティとかなりのギャップがありました。2004年に、はじめて大規模な国際シンポジウムを開催しました。これが、新しいテクノロジーに基づいたアートの時代の幕開けになりました。当初は啓発・教育的目的が強かったのですが、2005年の第2回を経て、第3回目となる2006年の開催時には、より専門的なアプローチになりました。以来、イベントや教育プログラムを継続的に行なっていて、アーティストたちの興味が最新型のアートに集まってきています。

一方で、中国の新しいメディアアートを海外へ輸出することにも力を注いでいます。そして次の一大イベントが、中国国立美術館が手がけるオリンピックの文化プロジェクト『SYNTHETIC TIMES』です。このプロジェクトは中国におけるメディアートの新たな時代をつくる節目となるでしょう。会場の展示構成は、『身体を超えて』『感情的なデジタル』『組み換え型リアリティ』『ここでも、そこでも、どこでも』という4つのサブ・セクションに分かれています」

日本のメディア芸術祭の可能性

司会の長谷川氏もプレゼンターのひとりとして、自身のキュレーションや日本のフェスティバル事情などの紹介をしつつ、メディアアートの考え方を提示しました。

長谷川:「2001年に招聘された『イスタンブールアートビエンナーレ』のテーマは、『自我を超えて』でした。これは『共生』の概念を含んでいます。パクさんの紹介された『ソウル国際メディアアートビエンナーレ』には、私も前回の開催時にキュレイターのひとりとして参加しました。このときのテーマは『二重のリアリティ』(ヴァーチャルなリアル/物理的なリアル)でした。これは10年にわたって議論されてきたテーマで、メディアの領域、身体の領域、世界観の問題とかかわってきます。

日本のイベント事情に触れると、アジアに関連するところでは、福岡アジア美術館で開催する『福岡アジア美術トリエンナーレ』が、広義のメディアアートを紹介しています。また、現代美術の国際展として開いている『横浜トリエンナーレ』は100人以上のアーティストが参加する大規模な国際展です。

そして第11回目をむかえた文化庁メディア芸術祭は、商業主義的なサブカルチャーやマスカルチャーに関わるものもふくまれているのが特徴です。全体としてクオリティが高いといっていいのかもしれません。しかし、応募展でもあるのでショーケース的になっている傾向があり、そこにテーマ性が含まれてくると、もう少し問題意識の高いものになる可能性があるのではないかと思います」

ラボやビジネスとメディアアートの関係

最後に、パネリストの間でディスカッションの時間が設けられました。

――韓国のメディアアートの観客は、ふつうのアートと層が違いますか?

パク:「これまではそうでした。メディアートに馴染みのない一般の人々に、理解を広めることが展覧会の目的でもありました。目的はある程度達成できたと評価されていますが、現状ではまだ満足できません」

――中国のメディアアートには、欧米等にない独特のアプローチがあると思われますか?

ザン:「ええ、そう思います。じつは、現在『センサーとセンサビリティ(感覚)』という別の展覧会を企画しているのですが、そこでは同じ技術を使っていても、文化背景の差による感覚の差異を浮かびあがらせようとしています。たとえばアジアのなかでも、中国のアーティストは批判的なアプローチをする傾向がありますが、ある種の自由な社会と思える日本では、喜び・楽しみの表現が見受けられます。

一方で、グローバル化していく社会状況のなか、テクノロジーには国境がありません。私たちは互いに似た問題意識を抱えていますし、その論点こそが大事なところで、文化背景というのはその次にくるものだと思います」

――展覧会の企画のために、ビジネスとの関係を広げていくお考えがありますか?

パク:「これはソウル国際メディアアートビエンナーレでのキュレーションとも関係してくるのですが、アートとして作品が成立しているかどうかがまず重要であると思います。たとえば、ビデオやコンピューターといったメディアを使った商業的な表現(広告など)がいわゆる『アート作品』として展示されている『メディアアート』より優れている場合があるのです。つまり、メディアを使った作品がまず『アートとして』成立していることによって、その価値を考えていけるのだと思います」

ザン:「ビジネスとの関連では、ふたつの側面があると思います。作品自体が売れることと、アートをつくるための技術がビジネスにつながる可能性です。そして、企業が展覧会のスポンサーとして参加する場合には色々なモチベーションがあるかと思います。会社としてのステータスを確立するためであったり、アートを通じて技術や表現の限界に挑みたいという気もちです。私はアートがビジネスでの成功につながることに賛成ですし、そういった試みに関しても考えていこうと思います」

パクさんの「メディアアートにできること」の原題を掲げたいという思い、ザン・ガーさんの自国の文化のプロモーションや啓発に対する強い使命感、それぞれに印象深いお話でした。司会の長谷川氏は、こうしたパネリストをむかえた今回の意義を語りつつ、次のようにシンポジウムをしめくくりました。

長谷川:「質の高いメディアカルチャーが発展している日本において、今後どういうフィールドバックをしていけるのか、また、ともにこうしたプロジェクトを立ち上げていければということを、関係者のひとりとして願ってやみません」

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