平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

[テーマシンポジウム] なぜ、日本のマンガは世界を征したのか?

テーマシンポジウム「なぜ、日本のマンガは世界を征したのか?」では、東京大学大学院教授の浜野保樹氏と手塚プロダクション代表取締役の松谷孝征氏が登壇。マンガ家の里中満智子氏を司会に迎え、世界におけるマンガ市場の現状や、日本のマンガに対する評価とその背景、さらに各国の取り組みやマンガ業界の今後の課題などに関して意見を交わしました。

日 時 2月15日(金)18:00-19:30 (国立新美術館3F講堂)
司 会 里中 満智子 (マンガ家)
出 演 浜野 保樹 (文化庁メディア芸術祭運営委員/東京大学大学院教授)
松谷 孝征 (手塚プロダクション代表取締役)

国内メディアコンテンツ市場の中心へ

海外の若者たちに支持され、新たな日本のポップカルチャーとして世界の共通語になりつつある「マンガ」。今回のシンポジウムでは、まず浜野氏が国内におけるマンガを取りまく現状を紹介するところから始まりました。雑誌・コミックなどあらゆる年齢層にわたってマンガが提供され、さらにアニメ、ゲーム、TVドラマ、映画といったマンガ原作のメディアミックス化が活発な日本では、メディアコンテンツ市場においても「マンガ」は中心的な役割を担う存在へと成長しています。

浜野:「2006~2007年の国内映画興行ランキングにおいてベストテンの約1/3がマンガ原作の作品です。これはいかにマンガのストーリーとキャラクターが魅力的かという間接的な証拠だと言えます。また、日本は出版部数の4割以上がマンガという世界一のマンガ市場。日々大量のマンガが発表され、多くの読者が作品に触れているからこそ、日本のマンガは高いクオリティを生みだしているのではないかと思います」

世界を駆ける「MANGA」

つづいて浜野氏は欧米・東アジアにおけるマンガ市場の概要についても説明。近年、日本のマンガは各国で急速にタイトル数・出版部数を伸ばしており、とくに韓国・香港・台湾などの東アジアでは市場の上位を日本マンガが占有している状況にあります。またアメリカでは小学館・集英社といった大手出版社による流通の整備で、以前はコミック専門店でしか扱っていなかったマンガが一般書店でも販売されるようになり、毎月およそ100タイトル以上のマンガが発売される欧州最大の市場・フランスでは、2004年に日本マンガの売上げが自国のコミック「バンド・デシネ」よりも上まわったことから「MANGA(マンガ)」というジャンルを新設。そしてイタリア・ドイツなどでも急速に市場が拡大されていることが報告されました。

浜野:「日本のマンガは国際的なマーケットを拡大しつつあり、各国のコミック売上げのほぼ上位を占めているという状況にあります。最近では自国の文化を守るため、フランスでは「バンド・デシネ」、アメリカでは「グラフィック・ノベル」、韓国では「マンファ」という呼称を使い、政府主導で「マンガ」という単語を使わないようにしようという動きも出てきているほどです」

日本のマンガはなぜ発展したのか?

そのなかで問題となったのが「海賊版」について。長年にわたって手塚作品のコンテンツ管理を行なってきた松谷氏は「マンガ作品は正規のルートで流通するまでに手間と時間がかかってしまうので、どうしても最初は海賊版になってしまう」としながらも、「世界各国にこれだけ影響を与えているのだから、送り手としてはきちんとした中身を届けたい」とコメント。

また30年ほど前に双葉社から発売されたバンド・デシネやアメリカンコミックの日本語版が全く売れなかったという事例を紹介しながら、日本のマンガが高度に発展した理由を「大手出版社がマンガ雑誌を創刊」「編集者・マンガ家のモチベーション」「日本アニメの普及」「手塚治虫の存在」だと解釈。さらにマンガが“日本の文化”として国内でも認められつつあるのは、「日本のマンガのすばらしさを、むしろ海外の人が発見してくれたからなのでは」と考察を述べました。

松谷:「日本では大手の総合出版社がマンガ雑誌を出したことが大きな力になりました。これは世界でも類を見ないことです。海外では大抵、マンガ専門の出版社なんですね。そこで一般見識をもった編集者が関わることで、それなりの節度とさまざまな見識がマンガに加えられました。また昔はマンガは軽く扱われていたために編集者もマンガ家もある意味“劣等意識”をもっていて、それが作品へ向かう力になったとも言えます。

また海外でマンガが普及した理由にはTVアニメの存在も外せません。海外ではアニメが認知されてからマンガを出版するという流れがあり、たとえば1963年に『鉄腕アトム』のTVアニメが始まると同年にはアメリカで、その後50カ国以上の国々で放送されました。あとはやはり、マンガの表現能力を広げた手塚治虫の存在が大きかったと思います」

マンガをいかにして後世に残すか

さらに日本と海外のマンガ家の違いについて「海外ではマンガ家というのは画家の一カテゴリーで、完璧な絵が描けて、それをデフォルメできる人がマンガ家になっている。日本のマンガ家はストーリー重視で、絵は下手でも魅力的ならいいんです。自分にとって可愛いと思うもの、素敵だと思うキャラクターとは何かを自問自答しながら表現してきたという違いがあります」と里中氏。

手塚治虫から表現の幅が広がった日本のマンガは、次々と新しい才能が自己表現の手段としてマンガを選び、実験とチャレンジ精神をもって独特の世界観やキャラクター表現を発展させていったという歴史の流れがあるのです。そのことを踏まえて里中氏は今後の課題となるのが「過去の作品の保存・管理」だと指摘。浜野氏も「自国のマンガ文化があるフランスやアメリカでも“老朽化”という同じ問題を抱えている。この分野でも日本がリードして研究と保存のありかたを提案してほしい」と強調してシンポジウムは終了しました。

里中:「109名のマンガ家へアンケートを行なった結果、1950年代の原画保存率は41%で、そのうち良好なものは19%。さらに現在でも湿度・温度管理されている原画はわずかに5%という回答でした。とくにマンガの原画は劣化が激しく、個人で管理するには限界があります。かつて江戸時代の多くの浮世絵が流失したように、マンガもこのままでは過去の貴重な作品が失われてしまうかもしれません。デジタルアーカイブ化や、保存・管理の研究についても国をあげて取り組んでほしいと思います」

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