平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

[受賞者シンポジウム] アート部門

アート部門の受賞者のなかから、二人の女性外国人アーティストが登壇しました。ソニア・チッラリ氏の優秀賞受賞作『Se Mi Sei Vicino (If you are close to me)』はインタラクティブ・アート作品。仕切られた空間のなかでセンサーを内蔵したフロアに立つパフォーマーに触れると、周りのスクリーン映像が変化していきます。奨励賞を受賞したエフィー・ウー氏の『Super Smile』は、自演の映像作品。パンを食べたり歯を磨いたりといった日常生活のようすを演じながらも、常にカメラ目線で一瞬たりともまばたきをしない彼女に、鑑賞者は引き込まれます。作品を撮影したカメラマンも同席。アート部門主査の原田大三郎氏の司会のもと、シンポジウムは終始なごやかに進行しました。

日 時 2月8日(金)18:00-19:30 (国立新美術館3F講堂)
司 会 原田 大三郎(アート部門主査/多摩美術大学教授)
出 演 Sonia CILLARI (優秀賞『Se Mi Sei Vicino』オランダ)
Effie WU (奨励賞『Super Smile』ドイツ)

アート部門は海外からの応募者多数

まずは本年度のアート部門の応募状況を、司会(主査)の原田氏が報告しました。
「文化庁メディア芸術祭のなかでも、海外からの応募が一番多いのがアート部門です。今年度は、アート部門の応募総数は878点、うち336点が海外からの応募によるものでした。これは、おそらく国際的なコンペティションの中で、“文化庁メディア芸術祭”がかなり重要な位置を占めるまでに成長したということだと思います。審査の状況としては、5人の審査員はそれぞれに個性的で、自由な意見が飛び交いました。

今年は残念ながら、[静止画]と[ウェブ]のジャンルでは受賞作がありませんでした。審査委員の佐藤卓氏からは、静止画の応募作品には『パワーが足りない』という評価がありました。[ウェブ]は突出した作品がなく、アート表現として曲がり角にきている印象がありましたが、来年に期待しています。

c Envie de Tempete Productions

[映像]、[インタラクティブ]、[インスタレーション]の各ジャンルは応募数も多く、そのなかで大賞に選ばれたのが、ジャン・ガブリエル・ペリオ氏の『nijuman no borei』。非常にメッセージ性が強いドキュメンタリー作品で、まさに日本で起こったこと(広島の原爆投下)を海外の方が丁寧に作品化したことに対する尊敬の念が、一同にありました。原爆に関する問題は、現代に引き継がれるリアルタイムなテーマでもあります。社会的なメッセージがはっきりしすぎていることが議論になりましたが、最終的にはこの作品が大賞ということで、誰もが納得しました」

冷たいコンピューターと情熱との関係

c Sonia Cillari

つづいて受賞者の二人が、自己紹介と自身の作品のプレゼンテーションを行ないました。
優秀賞を受賞したソニア チラッリ氏はイタリア出身(オランダ在住)。最初は建築の勉強をしていましたが、「空間や生活のとらえかたがスタティックで客観的」なところに飽き足らず、エレクトロニック・アートの分野に転向したといいます。

 

「コンピューターは冷たいものかもしれませんが、自分に情熱があれば、美しいものを創ることができるのです」とチラッリ氏。たとえばキーボードのような制約の多いものの代わりに、ジェスチャーや行動によって、物事を起こすことを考えました。チラッリ氏にとって身体そのものをインターフェイスにするのは、自然なことでした。今回の作品も、そのひとつ。「皮膚が人の肉体と外部とを隔てる境界なのではなく、人と人の間には共有空間がある」という考えから、二人の人間が近づいたときの感覚を可視化しました。

チラッリ:「人生とはすばらしいものだと思っているので、作品づくりも、人生に近づければやりやすくなると考えています」

スーパー・スターは瞬きしない

c Effie Wu

台湾出身のエフィー ウー氏の作品『Super Smile』は、特殊なテクノロジーは使われていないのに、独特のインパクトがある映像作品です。カメラの前の彼女は5分間ちかく瞬きをしませんが、これは合成ではなく、実際に演じているそうです。
「テレビで文化庁メディア芸術祭が紹介されたときは、笑顔のはずの彼女の映像作品を、コメンテーターが『怖い』と言っていました」と、報告する原田氏。「あら、どうして? 私はフレンドリーにしたつもりよ」とユーモアたっぷりに切り返すウー氏。もともと演劇を勉強していた彼女は、ビデオ・アートを学ぶためにベルリンに渡りました。

『Super Smile』は「自画像」がテーマです。
ウー:「古典的な絵画や写真の自画像に登場する人たちは、常に完璧なポーズと衣装で、目線は必ずカメラ(こちら)を見ています。私はビデオをやっているので、自分の身体を使って、動く自画像を表現したかったのです」

テレビでミス・コンテストを見ていたとき、カメラの前で完璧な笑顔をつくっていた女性たちが、何かのときに、ふと笑顔を忘れたのがとても可笑しかった……そうした経験もあって、この作品が生まれたといいます。

アーティストたちの今後の方向性

最後に、二人の受賞者に対して、司会者や会場からの質疑応答の時間がありました。

「テクノロジーと作品づくりとの関係について、どのようなお考えをおもちですか?」

チラッリ:「メディアアートにおいては、テクノロジーがあまりにも先行している風潮があるようです。私は今回のような作品に必要だから、テクノロジーを使っているけれど、テクノロジーなしでうまくいくアイデアがあれば、それはきっといいアイデアだろうと思います」。

ウー:「私の作品は、カットなしのひとつの舞台のようなもの。今後も、身体を訓練することによる何らかの試みをしていきたいです。これは演技なのか編集されたものかと、鑑賞者に疑問を抱かせるようなものです」
※ ウー氏の映像作品には、特撮や合成などは使われていません

「お二人の今後の方向性について、お聞かせください」

チラッリ:「今までやったことのない方向性で、物語的なものを考えています。それは、愛に関するストーリーになるでしょう」

ウー:「今年、修士課程を終えたら、アーティストになりたいです。私はすでにアーティストなのですが、つまり、作品づくりで生計を立てたいと考えています」

会場にいた文化庁メディア芸術祭の主催者、文化庁の方からもアーティストたちに感想とお礼が述べられ、二人の作品に共通する「身体性の強さ」に触れました。両氏の今後の活躍への期待に、盛大な拍手が送られ、シンポジウムは終了となりました。

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