平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

[受賞者シンポジウム] エンンターテインメント部門-2

エンターテインメント部門受賞者シンポジウム-2には、優秀賞を受賞した『気づいていますか。』(映像作品)の田中英生氏、同じく『DAYDREAM』(ウェブ作品)の勅使河原一雅氏が参加。エンターテインメント部門審査員からウェブ部門担当の福井信蔵氏、映像部門担当の田中秀幸氏を司会に迎え、両受賞作品の魅力を掘りさげるとともに、エンターテインメントの新たな可能性について話し合いました。

日 時 2月16日(土)13:30-15:00 (国立新美術館3F講堂)
司 会 福井 信蔵 (エンターテインメント部門審査委員/クリエイティブディレクター)
田中 秀幸 (エンターテインメント部門審査委員/アートディレクター)
出 演 田中 英生 (優秀賞『気づいていますか。』)
勅使河原 一雅 (優秀賞『DAYDREAM』)

固定概念から解放された作品を評価したい

まずは、映像作品の選考基準についての話がありました。今年度は、エンターテインメント部門の総応募数が219作品におよび、「観るだけでも膨大な時間がかかった」(福井氏)。審査にあたった田中秀幸氏は、「本数もさることながら、アート、アニメーション、マンガという他の部門があるなかで、エンターテインメント部門としてどんな指針にもとづいて審査すべきかという点を意識した」と語ります。同部門には、VFX、CM、ミュージックビデオ、映画、ショートフィルムなど、ボーダレスに作品が集まります。選考会では、とくに各ジャンルの固定概念から解放された作品が求められていました。

田中秀幸:「たとえばCMであれば、放送するメディアによって、収録時間や表現内容にさまざまな制限がかかる。しかし、その固定概念を飛びだし、新しい可能性をつくりだしているものが生まれはじめています。文化庁メディア芸術祭としては、そうした“飛びこえた作品”にスポットを当てたいと思いました」

広告の枠を飛びこえた、新しいショートムービー『気づいていますか。』

BMW Japan, Corp.
© BMW Japan, Corp.

そうした選考を経て、映像作品として唯一優秀賞に輝いたのは、ビー・エム・ダブリュー株式会社が企画し、ウェブ上で公開されたショートムービー『気づいていますか。』。“車えらびに熱心な主人公が、いつもの通勤路でただならぬ気配を感じ、その後も身の回りで奇妙なできごとが起こる”というホラー映画風の趣向で、「これまでのテレビCMとは違ったスタイルで、新たな広告表現を成しとげた」(田中秀幸氏)と高く評価されました。制作者の田中英生氏は、「通常の車のCMでは、“車体を常に画面に入れる必要がある”など、非常に制約が多い。それが取りはらわれたのは、自由だからこそ逆に難しい挑戦だった」と語ります。

BMW Japan, Corp.
© BMW Japan, Corp.

田中英生:「このシリーズで登場した車種は、BMWユーザーの中でも若い顧客層がターゲットになっています。だから、刺激的なものをつくらなければ目を引くことができない。その中で企業イメージを崩さず、おもしろいことに挑戦しようと考えた結果、ホラー映画風にすることに決めました」

福井:「海外のスタッフ・チームを使ったことで、質の高い“映画”に仕上がっています。トーン&マナー(ビジュアル表現で感覚的な「調子」と「態度」)が高いレベルで保たれており、日本ではできなかった作品ですね」

優れたウェブ作品は、ユーザーに新しい経験を与える

つづいて、一昨年が47作品、昨年が53作品、そして今年は77作品と、年々応募数を伸ばしているウェブ作品の選考基準に話が進みました。インターネット上の作品については、動画上にユーザーの感想コメントが流れる『ニコニコ動画』に代表されるような、インターフェース自体のおもしろさを評価すべきか、完成されたひとつのコンテンツを評価すべきか、という点で議論がなされたそうです。田中秀幸氏は、「『ニコニコ動画』に代表される新たなプラットフォームには、ウェブの革新への驚きやおもしろみを感じる」とする一方、「一表現者としては、インタフェースだけを取りだして評価すべきかどうかは悩ましい」と語りました。

福井:「さまざまな議論がありましたが、今回は、ウェブ本来の魅力である “ユーザーに新しい経験を与えたかどうか”というところで、作品としての革新性を重視しました」

田中秀幸:「これからも“ウェブ作品とはどういうものであるべきか”と、しっかり考えていく必要があるでしょうね」

ユーザーとの新たな交流を実現した『DAYDREAM』

© 勅使河原一雅

議論を呼んだウェブ作品の選考において、「満場一致に近いかたちで選出された」(福井氏)という『DAYDREAM』。この作品は、日本とロンドンに店舗を構える帽子の製造ブランド「Weave Toshi」のウェブサイトで公開されたもの。画面上にはボタンもスクロールバーもなく、カーソルを回すことにより、映像の進行を操作し、商品である帽子を立体的に見ることができます。先端技術を駆使した作品の応募が目立ったなかで、“操作と閲覧の融和”に特化し、独自の体験を生みだした点が高く評価されました。制作者の勅使河原氏は、ユーザーに気づきの喜びを与えるため、「操作法を説明しすぎず、ある意味で不親切さを残した」と語ります。

勅使河原:「ユーザーに何かをさせなければ、ウェブコンテンツは成立しません。これがゲームであれば、難しい操作をして、感動を得るために頑張りますよね。ウェブサイトでは、そこまで難しい操作を要求することはできない。しかし簡素化すれば、ただ一方的に見せるだけの映像作品になる。だからこそ、映像とゲームの中間に位置する中途半端さを追求したいと考えたんです」

福井:「『DAYDREAM』は審査段階で、とくにゲーム部門の審査委員が驚いたアイデアサイトでした。いろんな角度から撮った帽子の写真が、連続して流れ、魅力的な見せ方をしている」

田中秀幸:「親切につくりすぎないことで、作り手とユーザーのコミュニケーションが生まれる。そこに人間味を感じます。バランスを取りすぎていないからこそ、絶妙なおもしろさがあるのだと思います」

自由な発想で、受け手を楽しませる作品を

文化庁メディア芸術祭への応募総数が年々増加するなか、エンターテイメント部門の応募数の伸びは顕著で、前年度よりも約1.4倍の応募がありました。映像作品・ウェブ作品を題材に、エンターテインメントの新たな可能性に迫った今回のシンポジウム。その最後には、福井氏から次のような提言があり、来年度のさらなる発展を期待させました。

福井:「エンターテイメントは、いわば何でもありの世界です。アートを目指した作品でもいいし、衝撃を与え記憶に残るようなものもいい。明確な目的をもって制作した結果として、最後には“おもしろいか、おもしろくないか”“受け手を楽しませることができるか”という点がもっとも重要となってくるでしょう」

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