平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
シンポジウムレポート

[受賞者シンポジウム] マンガ部門

優秀賞を受賞した『鈴木先生』の武富健治氏と奨励賞『天顕祭』の白井弓子氏を迎えてマンガ部門シンポジウムが行なわれました。マンガ部門主査のモンキー・パンチ氏および審査委員のしりあがり寿氏の司会のもと、それぞれの作品の制作背景について語り合うとともに、白井氏をはじめとする自主制作による作品の現場、ネットの普及で変わってきている「作家と読者のつながり」についても 意見を交わしました。

日 時 2月11日(月・祝)13:30-15:00 (国立新美術館3F講堂)
司 会 モンキー・パンチ(マンガ部門主査)、しりあがり寿(マンガ部門審査委員)
出 演 武富 健治(優秀賞『鈴木先生』)
白井 弓子(奨励賞『天顕祭』)

死刑制度のあり方を真摯に問う『モリのアサガオ』

シンポジウム当日は登壇予定だった郷田マモラ氏が残念ながらスケジュールの都合で欠席となり、郷田氏の大賞受賞作『モリのアサガオ』について司会のしりあがり寿氏より紹介されました。死刑囚と新人刑務官の交流を描いたこの作品を、しりあがり氏は「“死刑制度”という重いテーマを真摯に描いている」と評価。またモンキー・パンチ氏は「スティーヴン・キングの『グリーンマイル』を思い出す作品。執筆にあたり、かなり取材されたと聞きました。マンガを読む年齢層が広がっている現在、現実世界を舞台にした作品では“嘘”を描くわけにはいかなくなっている」と語り、本年度は大賞作品が審査委員全員一致で決定したあと、ほかの受賞作品の選考については意見が分かれ議論も白熱したことも報告されました。

© 郷田マモラ / 双葉社

しりあがり:「審査員の基準や見方がそれぞれに違い、選考には侃々諤々(かんかんがくがく)がありました。そのなかで大賞を受賞した『モリのアサガオ』は重いテーマを真摯に描いていて、描き手が主人公と一緒に悩みながら死刑の是非について問う作品。マンガの悪いところとして皆が欲しいメッセージをわかりやすく適当に合わせて読者に送っていくだけだと言われることもありますが、この作品は一見するとわかりにくい。でも読み込んでいくと、じつにすばらしい作品でした」

苦悩する中学教師の姿を描く『鈴木先生』

© 武富 健治 / 双葉社

そして本年度の優秀賞を受賞した『鈴木先生』は、ありふれた中学校を舞台に担任教師・鈴木先生の奮闘を描く作品。クラスで巻き起こる一見ささいな事件を、鈴木先生の深い苦悩を通して緊張感のある人間ドラマにまで迫らせる演出について武富氏は「演劇的なリアリティを求めている」と説明しました。

武富:「よく質問で取材をしているのかと聞かれますが、じつは『鈴木先生』は“取材をしない”というコンセプトで作品づくりをしています。格好良く言えば現代の大人たちを含めた我々の問題を中学校という劇場に置きかえて、寓話(ぐうわ)として提示しているんです。テレビなどを通した情報はバイアスがかかった意見が多いように思えるので、むしろそういった情報に疑問を投げかけるかたちで個人としての想像力を駆使しようというか。ドキュメンタリー的なリアリズムではなく、写真に撮っただけでは出てこない部分でのリアリティみたいなものを浮かびあがらせる。そういったものは逆に“創作”という手法をフルに生かしたほうがいいと思いまして。今回の作品では、多少演劇みたいな雰囲気も含めて自分の頭のなかだけでつくりあげるようにしています」

自主制作で初の長編に挑んだ『天顕祭』

© 白井 弓子

「汚い戦争」によって毒素を国土にばらまかれ、その毒素を若竹で浄化させようとする「ある国」の地域。その土地に伝わる祭りの主役に選ばれた少女の運命を描く『天顕祭』は、奨励賞を受賞した白井氏の自主制作作品。審査員が何よりも驚いたのは「絵」の完成度の高さでした。「なぜプロのマンガ家にならないの?」というしりあがり氏の質問に、「これまで長編を描いたことがなかったので、とにかく描きあげようという気持ちがあった」と答える白井氏。また次回作の構想について「未来の“えげつない戦争”で、理不尽な状況におかれた女性たちの懸命に生きる姿を描きたい」という白井氏に対し、しりあがり氏は「いまの生々しい問題を、SF的にかぶせてテーマにするのが好きなのかも」と分析する一幕もありました。

白井:「『天顕祭』は日本のようで日本でない、未来の世界が舞台。これまで長編を描いたことがなかったので、最後まで描けるかどうかもわかりませんでした。それにプロの編集者から見ると私の描くものは“女の子が可愛くない”とか、キャッチーなものが不足しているみたいで。それならプロとして持ち込むよりも、とにかく描きあげようという気持ちでつくりました」

そのように語る白井氏は自主制作マンガの展示即売会「コミティア」で作品を発表しています。観客席側にいらっしゃったコミティアの中村代表からは「新鮮で個性的な作品が出展される、創作物の発表の場」と説明があり、それに対して漫画アクションの染谷編集長が「コミティアを新人マンガ家を見つける貴重な場として活用している」と答えるという、新たなマンガ作品が発掘される現場について語られる貴重な場面も見られました。

自主制作漫画誌展示即売会 コミティア
http://www.comitia.co.jp/

「作家と読者との距離」はどう保つべきか


さらに会場からの質疑応答へと移ると、来場者から「読者の反応をどう受けとめるか」という質問が飛び出しました。インターネットの掲示板や個人のブログなどの普及により即座に読者の反応を確かめることができる現在、作家と読者との距離はより緊密になりつつあります。「ネットは資料と趣味。自分の知りたいことだけを見るというか、そんなに左右されないようにしている」というモンキー・パンチ氏と「(ネットの情報は)資料としての価値は高い。出版社や編集者は分析をしたほうがいいと思うが、作家はあまり気にしないほうがいいのでは」と提言するしりあがり氏。それに対して武富氏と白井氏は積極的にネットに関わっていることを語り、最後にしりあがり氏より「マンガは世の中にたくさんありすぎて、知らないままで終わってしまう作品も多い。文化庁メディア芸術祭をきっかけに、2人の作品にも目を向けてほしい」という挨拶でシンポジウムは終了となりました。

武富:「僕は自分の名前でネット検索をかけて褒め言葉を探すというのが執筆中のいちばん身近な気分転換。雑誌に連載されているとリアルタイムですぐ反応が返ってくるので、読者にどんなことが伝わっていないのかがすぐにわかる。その意見を取り入れたりもしますので、じつは結構役に立てていると思います。若いころマンガは自分ひとりで完成したものを届けるものだと思っていたんですけど、ネットで読者の反応をチェックしながら連載をやっていると、本当にライブ感を感じます。厳しい意見でめげることもありますが、やっぱり基本的には力になっていると思います」

白井:「『天顕祭』の感想で「和風ナウシカ」と評してくれた読者の方がいました。感動した部分をすっきりと書いてくれると、やっぱりうれしいですね。描き手はわりと頭が混沌とした状態でつくっているところがありますので」

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