平成19年度[第11回]文化庁メディア芸術祭
アート部門 審査講評

審査総評

文化庁メディア芸術祭においてアート部門が果たす役割

― 原田 大三郎(アート部門主査)

10年という節目を超え、文化庁メディア芸術祭が新たな旅立ちを迎える今年、応募数からみてもアート部門が果たさなければならない役割が大きいことは確かである。また海外からの応募が半数近くを占めるこの状況は、この部門が他の国際的なメディアアートの展覧会と肩を並べる存在となった証だ。さて今年の審査で議論になった点は、その作品が発するメッセージが明確な、そして強い社会性をもつことをよしとするかどうか?であった。これは個々の作品によって議論のポイントが変化するために、明確な答えを出すのは困難かもしれない。しかし、単なる最新技術の博覧会的様相から脱却するためには必要な議論である。そして何よりも必要なのは、そのメッセージがアートとしての視点をもちえているかという点であろう。

ジャンル審査総評

▼インタラクティブ・その他 ― 原島 博(東京大学大学院教授)

インタラクションは、メディアアートのひとつの本質であるが、単にコンピュータで制御された機械と双方向に情報をやりとりするだけでは作品にならない。「触ること」あるいは「参加すること」によって、そこに何が新しく生まれるかが重要なのだ。たとえば『複眼体験』では、小さな穴が多数あいた球体をかぶるだけで新たな不思議な体験が生みだされる。『Se Mi Sei Vicino』は、人と人が近づくと何が起こるか、その反応をみごとに可視化している。蛇口をゆるめるとため息が漏れる『ためいきまじり』は、単純ながら思わず笑ってしまうインタラクションである。技術力に加えて表現力、これからのインタラクティブアートには、ますますこれが要求されよう。

 

▼インスタレーション ― 長谷川 祐子(キュレイター)

今回は、シングル・スクリーンのプロジェクションを前提としたビデオ・インスタレーションが多かった。これは映像の部門と競合するところだが、あえて大きなスクリーンでの展示を要素とするということだろう。 『Hallway sculpture』のような階段を使ったサイトスペシフィックな作品から、一定の大きさの空間で、アミューズメントパーク的な楽しさを演出しようとする『Arctic Sanctuary』など、空間との関係に多様性がみられた。また、社会性をもった秀作として、移民の軌跡とアイデンティティを視覚化しようとした『seeker』、観光地のプリクラ撮影の設定のなかで参加者のヴィデオポートレイトを撮った『sight seeing spot』などがあった。『Camera Lucida』のように実験的な技法で、従来なかったイリュージョンを見せるものも健在だが、今後はより社会や歴史にも関わった作品が期待される。

 

▼映像 ― 原田 大三郎(多摩美術大学教授)

250作品を超える応募数が示すとおり、アート部門の中でも映像はバラエティーに富んだ作品が集まるセクションである。今回も同様で、プロ・アマや制作費の大小・手法など変化に富んだ作品が多数集まった。また同じ映像という括りはエンターテインメント部門やアニメーション部門にも存在するわけであるが、応募者があえてアート部門に出品してきたという意図を審査側も意識せざるをえない。そういう意味合いから作者の意図が時間という流れのなかでどのように明確に観客に伝えられているか、そしてその意図がアート的なフィールドにおいてどれだけユニークな視点をもちえているか、このような点が審査のポイントとなった。

 

▼静止画 ― 佐藤 卓(グラフィックデザイナー)

静止画からは、賞候補が出なかった。このことが今年の静止画部門全体のレベルを表している。そんななか、西村宜起の『空間観察』、SEO June SeokとPARK Jin Wanの『Visual Genealogy』、そしてFrode & Marcusの『lait, une couleur』、川島高の『ロサンゼルスのある一日の光景』は可能性を感じる作品として評価された。静止画部門において思うことは、今までにない新しい表現をしようとしても、ありとあらゆる手法が世の中にすでにあるので難しいように思う。新しい表現を探るという20世紀的アプローチよりも、むしろ今までにない文脈を見つけるという向かい方が、これからは正しいのではないかと思う。動画や合成やCGなどで何でもできる時代、動かない一枚の静止画の強さを見せつけるいい時期にきているのかもしれない。この静止画部門の今後に期待したいと思う。

 

▼ウェブ ― 原田 大三郎(多摩美術大学教授)

ウェブが存在しない日常を想像するのが困難な現代において、さまざまな社会的な活動におけるウェブの重要性を疑うものは、すでに存在しないだろう。特に商業活動においてウェブは多くの問題を内包しているが重要なインフラであることは確かである。そういう社会状況において、アートの世界におけるウェブのあり方とはいったい何だろう? この問題はここ数年、アート部門のウェブに投げかけられている問題だ。最初から世界に向けて開かれた窓をもったウェブ上で展開される、独り言のようなウェブ、また他のメディアで置き換えが可能なことをウェブ上で展開している作品。それらをすべて否定することはできないが、しかしもう一度ウェブのもつ有効性や特質を再考しなければならない時期ではないだろうか?

審査委員

原田 大三郎(多摩美術大学教授)

原田 大三郎1983年、筑波大学大学院芸術学部総合造形コース卒業。坂本龍一、安室奈美恵、小室哲哉、globe、LUNA SEAなどの国内外コンサートツアーやプロモーションビデオの映像演出、また映画のオープニング映像やVFXなどを担当。1993年、NHKスペシャル『驚異の小宇宙・人体2 脳と心』CG監督。1994年、第1回日本芸術文化振興賞受賞、マルチメディアグランプリ ‘94 MMA会長賞受賞。2001年5月より SHARP『AQUOS』VP制作。現在、多摩美術大学情報デザイン学科教授。

佐藤 卓(グラフィックデザイナー)

佐藤 卓1955年、東京都生まれ。グラフィックデザイナー。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザインを手がけるほか、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」等のVIデザイン、NHK教育テレビ『にほんごであそぼ』の企画・アートディレクション、東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTではディレクターを務めるなど、活動は多岐にわたる。

長谷川 祐子(キュレイター)

長谷川 祐子京都大学法学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長、芸術監督を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「スペース・フォー・ユア・フューチャー」(東京都現代美術館)、「マルレーネ・デュマス-ブロークン・ホワイト」(東京都現代美術館)、「ニュー・センソリアム」(MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター)、「メディア・シティ・ソウル」(ソウル市美術館)。

原島 博(東京大学大学院教授)

原島 博1945年、東京都生まれ。もともとは数学的な情報理論や通信方式論の研究者であったが、1985年頃からより本質的な人と人の間のコミュニケーションのしくみに興味をもち、ヒューマンコミュニケーション工学を提唱。顔学などの新しい学術領域の創出や、科学技術と芸術の境界にも強い関心をもつ。映像情報メディア学会会長、日本バーチャルリアリティ学会会長、日本アニメーション学会副会長などを歴任し、現在は日本顔学会会長でもある。

ヤノベケンジ(美術作家)

ヤノベケンジ1965年大阪府生まれ。大阪万博跡地近郊で育ちその「未来の廃墟」像をモチーフに作品を作りつづけている。放射線感知服『アトムスーツ』を身にまとい、チェルノブイリを訪れるなど、ユーモラスな形態に社会性のある強いメッセージを込めた作品群は国内だけでなく海外からの評価も高い。2003年「メガロマニア」(国立国際美術館)、2004年「子供都市計画」(金沢21世紀美術館)、2005年「キンダガルテン」(豊田市美術館)、2007年「トらやんの世界」(霧島アートの森、鹿児島)ほか。

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