
第12回文化庁メディア芸術祭では、世界のメディアアート・フェスティバルを紹介する「Media Art in the World」の一環として、各フェスティバルの優秀作品の上映のほか、フェスティバルディレクターによるプレゼンテーションを開催。今年で30周年を迎える、ヨーロッパ最大のメディアアート・フェスティバル、アルス・エレクトロニカ(オーストリア)で企画を担当する小川秀明氏が、同フェスティバルの運営形態と理念、この1月にオープンした新アルスエレクトロニカ・センターの概要を解説しました。
| 日 時 | : | 2月4日(水) 13:00~14:30(国立新美術館3F講堂) |
| 出 演 | : | 小川 秀明(アルス・エレクトロニカ/アーティスト&クリエイター) |
アルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)は、1979年に設立された会社組織です。オーストリアのリンツ市が100%出資しており、大きく分けて4つの部門から成りたっています。
まず、ひとつめは、「アルス・エレクトロニカ賞(Prix Ars Electronica)」というコンペティション。ふたつめは賞と連動した「フェスティバル(Ars Electronica Festival)」で、毎年9月の第1週に開催されています。3つめは「センター(Ars Electronica Center)」で、優秀作品の常設展示や企画展などを行ない広く一般に公開しています。そして4つめは、新しいメディアアートを社会に実装するための創作活動を行なう「フューチャーラボ(Ars Electronica Futurelab)」です。
さて、アルスのあるリンツ市は、ヨーロッパの中心に位置した小さな街ですが、都市デザインの一環として、新しい技術をアートと統合する場を構築していきました。なぜなら、同市はウィーンとザルツブルクという伝統的な都市の中間にあるため、観光面で生き残り、都市としての独自性を確保するためには、新たな方策を打ちだす必要があったのです。
リンツは、例年フェスティバルの時期になると、街自体が新たな文化を創造する実験場になります。アルスは、その中心として30年の歴史を刻み、2009年にリンツ市は、「欧州文化首都」に選定されました。新しい文化やテクノロジーを、アートや社会と融合させようというアルスの試みが評価された結果だと思います。市民にも芸術を楽しもうという姿勢があり、子どもから老人まで、「センター」を遊び場にしているんです。そんななかで、アルスはさらに充実した活動を行なうため、この1月に従来の「センター」を大幅に改修した、新アルスエレクトロニカ・センターをオープンするに至りました。
続いて、新しいアルスエレクトロニカ・センターについて説明します。開設にあたり、アーティスティック・ディレクターであるゲルフリート・シュトッカー(Gerfried STOCKER)をトップにしたコンセプトチームが結成され、私はそのうちのひとりとして、企画と準備にかかわりました。
このセンターでは、大きく3つのコンセプトを掲げています。ひとつは、メディアアートを、開かれた形で人々に紹介してくこと。ふたつめは、テクノロジー・アート・人・社会の関係が変化していくなかで、それを受けいれる態勢をつくり、新たなトピックを探していくこと。3つめは、メディアアートのグローバルな拠点形成です。
アルスエレクトロニカ・センターのファサード(外装/正面のデザイン)には、80万個のLEDが備えられており、ピクセル単位で色を制御することができます。つまり、この美術館自体がオープンソースであり、さまざまな情報とインタラクトして、コンテンツを入れかえることも可能なのです。夜のセンターは、LEDの発光で、日中と違った表情を見せます。オープニングイベントでは、色彩豊かで華やかな演出にも注目が集まりました。
館内には、3,000平方メートルの展示スペース、研究開発機関が1,000平方メートル、セミナーや会議のためのスペースが400平方メートル、飲食のスペースが650平方メートルあり、屋外イベントに対応できるプラザも1,000平方メートルという規模です。また、入り口近くのパブリックエリアには、企画展とは別立てで常設展示が行なわれており、現在はジュリアス・ポップ(Julius Popp)の『bit flow』、河口洋一郎さんの『40Fish』などが公開されています。そのほか、フロアごとに、メディアアートの基本要素を詩的な世界観で見せる『Poetry of motion』、16メートル×9メートルの大規模なVRシアターを実装し、新たなメディア環境をつくり上げた『Deep Space』などの施設が備わっています。
地下のメインギャラリーは、「New Views of Humankind(人類の新しい視点)」というテーマで構成しました。アルスはこの10年、コンピュータやインターネットなどのデジタルテクノロジーが可能にする、新たなインターフェースを提案してきましたが、次の段階として、バイオテクノロジー、遺伝子工学、神経科学など、人間により深くかかわる不可視の領域にもイメージを広げています。このスペースは、アーティストのために実験場となるプラットフォームを提供し、来場者が遊ぶように楽しむことができるのも特徴です。
アルスはほかのフェスティバルとは異なり、非常にユニークな拠点が形成できています。つまり、「センター」で展示とともに実験を行ない、センターに併設された「フューチャーラボ」でメディアアートのテクノロジーを社会に実装するための研究を行なう。そして、「フェスティバル」で作品が集い、「アルス・エレクトロニカ賞」でそれを評価し、記録していくのです。
日本の皆さんからすると、まず賞があって、フェスティバルがあって……というイメージかもしれませんが、アルスのプライオリティは、いま申しあげた順になっています。いずれにしても、これらすべての活動がスムーズに連携した組織というのは、世界に類を見ないと思います。
アートとテクノロジーの関係は、今後“コンビネーション(結合)”から“フュージョン(融合)”という新しい段階に移行し、政治や建築など、さまざまなものをダイナミックに変えていくでしょう。今後もアルス・エレクトロニカは、「Art, Technology, and Society」をテーマに活動し、新たな流れのなかで、大きな役割を果たせればと考えています。
![平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 インタビュー 平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 インタビュー](/festival/2008/images/h1_repo_interview.gif)


