
欄干に肘をついて耳に手をあてると、骨伝導という仕組みによって爆撃機の音が伝わって聞こえてくる。第12回文化庁メディア芸術祭アート部門の優秀賞に選ばれた『touched echo』。昨年のアルス・エレクトロニカで、本作品を目にした人もいるかもしれません。作者のマルクス・キーソン氏に受賞作品制作の背景やメディア芸術祭の感想などを伺いました。
――どのような経緯で文化庁メディア芸術祭を知りましたか?
まだ学生だったころ、僕らのコミュニティにはメールのニュースレターがあって、いつも教授たちからメディア芸術祭に応募するよう呼びかけるメールが送られてきていたんです。2005年に初めて応募したときに、審査委員会推薦作品に選ばれて、作品(『Roermond-Ecke-Schonhauser』)が映像で展示されました。

――ここ1年でたくさんの作品を制作されたそうですが、なぜ『touched echo』を応募作品に選んだのですか?
昨年もメディア芸術祭を訪れたのですが、そのとき、大賞を受賞した広島の原爆についての映像『nijuman no borei』を目にしました。そして、歴史的な悲劇に対する共感がここ日本にもあるのだと感じました。だからこそ、『touched echo』も意義のある作品であり、メディア芸術祭にふさわしいと思ったのです。
――『touched echo』を制作しようという最初のアイデアはどこから思いついたのでしょうか。
まず、ドレスデン市(ドイツ)から、ドレスデンについての作品を制作するための助成を受けたことがきっかけです。そこで実際にドレスデンへおもむき、街を歩きまわりました。そこで目にしたのは、あらゆる人々が柵によりかかって風景を眺めている光景でした。何枚もの写真を撮って、家に帰ってそれらの写真を目にしたとき、この作品を思いついたんです。彼らが柵によりかかる姿が出発点となりました。人々はおそらくいまはもう存在していない過去の何かを眺めているのではないかと考え、そこにメッセージ性を与えられるような芸術的な仕組みを考案しました。
――この作品に関して、ヨーロッパと日本の鑑賞者の反応に何か違いはありますか?
日本の人たちのほうがより多くの時間をかけてこの作品を体験していると思います。たとえば、アルス・エレクトロニカで展示したときよりも、長く柵に肘をついて鑑賞している人々が多いのです。「ああ、この作品はわからないから、もう行こう」ということがありません。そういう意味では、日本の人々のほうがより興味を示してくれているようです。
――いままで日本で展覧会に参加したことはありますか? 今回、日本のスタッフと一緒に展示作業をしてどうでしたか?
映像ではなく実際の作品の展示は今回が初めてなので、とても嬉しく思っています。日本のスタッフには、非常にプロ意識を感じました。オープンの前にこれほど早く準備が整うフェスティバルに参加したことがありません。また、僕がとてもすばらしいと思ったのは、さまざまなサポート体制が敷かれていることですね。
――文化庁メディア芸術祭には、アートだけでなく、エンターテインメントやアニメーション、マンガといった、実にさまざまな作品があり、これはある意味でサブカルチャーをある種のアートとしてとらえる日本独自のスタイルとなっています。このような多様な作品を含むメディア芸術祭について、どのような感想を持ちましたか?
メディア芸術祭はある意味でトランスメディアーレ(ベルリン)の対極にあるものだと思っています。なぜならトランスメディアーレはとても政治性や批判性が強く、難解な作品が多いからです。反対に、メディア芸術祭は、特にマンガ部門など、日本のいまの文化を反映しているのでとても興味深いです。また日本ではエンターテインメントとしてゲームがとても重視されています。しかしドイツでは、ゲームは子どものためのものだという意識があり、踏みこんでいく興味の対象にはなりません。しかし、僕はどちらのフェスティバルも独自の特徴があるので、気にいっています。大切なのは、フェスティバルの個性なのです。いろいろな場所で開催されるフェスティバルに参加して、さまざまな作品を目にしたいですね。
――あなたの作品について聞かせてください。今後、どんな作品を制作する予定ですか
昨年から、モノとしての作品を多く制作してきました。いま考えているのは、ソフトウェアの発展をもう1度見直して、コンピュータ上でプログラムを用いた作品へ戻ることです。おそらく初めはモノとして設置する作品にはならないでしょうが、ここ2、3年の間に起ったことを見直してみたいと思っています。
――それはテクノロジーに目を向けるということでしょうか。たとえば、アートとテクノロジーの関係性についてはどのように考えていますか?
ちょうど先月、アンディ・ウォーホルに関する本を読んだのですが、20世紀はどちらかというと広告とアート、マスプロダクションとアートが融合したのだと感じました。21世紀は科学とアートが融合して、人々はより科学に興味を示し、また科学者も単なる数字や図式ではなく、より直観的に理解するようになるでしょう。科学に直観を導きいれることは重要だと思いますし、僕はアーティストとして科学に特別な興味を抱いているので、そうした側面から科学を見据えています。
――最後に、アーティストになりたいと思っている若い人たちへメッセージをお願いします。
僕もそれほど長い間制作をしているわけではないので何とも言えませんが…(笑)。常に毎日の生活に目を向けて、人々が日々行なっているさまざまな状況を見つめることが大切だと思います。そしてそこに存在する何かに深く入りこんで、何かをつかみ取ることに意義があるのではないでしょうか。
![平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 インタビュー 平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 インタビュー](/festival/2008/images/h1_repo_interview.gif)


