鈴木 伸一(アニメーション部門主査/アニメーション監督)
今年の応募は総数346本。今年の特徴としては短編部門によいものが多く、それにくらべて長編部門は突出したものがなく、大賞も短編部門の『つみきのいえ』がすんなりと決まった。地球温暖化を巧みに取りこんだ不気味な静けさのなかに、ひとり家に住み続ける男、去っていった家族の思い出をしみじみ綴る味わい深い描写の優れた作品であった。優秀賞、奨励賞は議論をつくした上の決定であったが、やはり短編作品が多数を占めた。長編部門から優秀賞に選ばれた『カイバ』は、シュールな内容と新鮮な画面のOVAであり、どちらかといえば短編作品に近いテイストを持った作品といってもいいだろう。入賞はしなかったが短編作品のなかには優れたものが多かった。日本のテレビアニメの業界は経済的な問題で若い人が定着しにくい世界だと聞く。しかし、個人で活動する短編のアニメーション作家には、確実に若い人が増えていることを実感する年になった。
▼長編(劇場公開・TV・OVA) ― 幾原 邦彦(アニメーション監督)
最終審査の過程で、このジャンルからは「今年は受賞該当作品なし」という厳しい声もあったが、審査を終えて改めて気がついたことがある。『カイバ』『スカイ・クロラ』『ヘルズ エンジェルス』『ソウルイーター』『空の境界』『墓場鬼太郎』。驚くなかれ、これらの作品はすべて“彼岸”が舞台である。「死者と生者を分ける川辺」が2008年のキーワードだったようだ。「彼岸とは、我々が暮らすこの世界のことだ」、あるいは「生きているのか、死んでいるのかわからない」とでも言っているのか。「死を意識することは、生を感じること」とだれかが言っていた。いま、アニメはそこなのか?なかでも『空の境界』を選に入れるか否かで意見が分かれた。「新しい」と捉えるか、「過去作品の引用にすぎない」と見るか。喧々諤々、「次の機会まで判断を待とう」ということで今回は選を外した。どうやら“彼岸作品”の審査は、審査員まで彼岸に連れて行ったようでモヤモヤした気分が残った。
▼短編アニメーション ― 木船 園子(アニメーション作家)
デジタル技術の成熟でプロもアマチュアも同じ土俵で戦える武器を手にし、アニメーションはバラエティに富んだ豊かさを呈している。短編として応募された223作品からは際立って強く熱く訴えかける作品はそれほど多くなく珠玉作22本がすんなりと選ばれたが、大賞・優秀賞3本・奨励賞を出すという驚きの結果となった。『つみきのいえ』は芸術性と心に響くテーマ性がみごとに融合した入魂作で審査員文句なし一致の大賞。卓越したCG技術で独創的な世界を構築した『KUDAN』。手づくり刺繍の温かさを感じさせる『DREAMS』。注目すべき多くの若い才能にも出会えた一方で哲学の視覚化に挑戦した『こどもの形而上学』、ほのぼのした世界を高い技術力で見せる『ニャッキ! ふみきり』『ギンガムチェックの小鳥』。これらアニメーションへの愛と執念とチャレンジ精神を持ちつづけるプロのクリエイターにもエールを贈りたいと思う。
鈴木 伸一(アニメーション監督)
長崎市生まれ。中学時代から「漫画少年」などに投稿、1955年上京、マンガ家仲間とトキワ荘に住む。1956年『フクちゃん』の横山隆一主宰の「おとぎプロ」に入りアニメーターの道へ、『ふくすけ』や日本初のテレビアニメ・シリーズ『インスタント・ヒストリー』の制作に従事。1963年、藤子・F・不二雄、藤子不二雄Ⓐ、石ノ森章太郎、つのだじろう、赤塚不二夫らと「スタジオゼロ」を創立。『おそ松くん』『パーマン』などを制作。ユネスコ・アジア文化センターの『ミナの笑顔』ほか4本をマレーシアのラットと共同監督。ほかに自主作品『ひょうたん』など。日本アニメーション協会副会長、杉並アニメーションミュージアム館長。
幾原 邦彦(アニメーション監督)
1964年生まれ。1985年京都芸術短期大学卒。1986年、東映動画に入社。1992年、TVアニメ『美少女戦士セーラームーン』シリーズに演出として参加。1993年、映画『美少女戦士セーラームーンR』監督。1996年、東映動画を退社。1997年、TVアニメ『少女革命ウテナ』企画・原作・監督。1999年、映画『少女革命ウテナ・アドゥレセンス黙示録』監督。2005年、OVA『トップをねらえ2!』の絵コンテ。2007年、TVアニメ『のだめカンタービレ』のOPアニメーション。ほかに、小説、マンガ原作など。2006年、アパレルメーカー・BABY, THE STARS SHINE BRIGHTとコラボレートして『ノケモノと花嫁』を発表。
木船 園子(アニメーション作家)
東京造形大学在学中の1979年、木船徳光とIKIFというユニットを組み8ミリ、16ミリフィルムによる自主制作アニメーションの制作をはじめ、実験アニメーションや映像インスタレーションなどの制作発表を続ける。80年代終盤より、CGアニメーション制作に携わるようになり、1997年に3DCGをおもとしたアニメーション制作会社IKIF+を設立。1995-97年、NHK教育プチプチ・アニメ『ぶーばーがー』を制作。2006年『立喰師列伝』の3D監督、2007年『映画ドラえもん のび太の新魔界大冒険』、2008年『映画ドラえもん のび太と緑の巨人伝』のOPアニメーション担当。日本アニメーション協会、日本アニメーション学会理事、東京工芸大学教授。
野村 辰寿(アニメーション作家)
三重県出身。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業、株式会社ロボットに入社。CMディレクターとして活動後、フジテレビ『ストレイシープ』をきっかけに、『ジャム・ザ・ハウスネイル』『ネコのさくせん』TVアニメシリーズ『ななみちゃん』ネトアニ『Moon Boon』など、さまざまなアニメーション作品を手がける。現在、同社キャラクター・アニメーション部Animation studio CAGEに所属。オリジナル作品や、CM、テレビ番組、Web、絵本、イラストレーションなど幅広く活動中。
樋口 真嗣(映画監督)
1965年東京都生まれ。高校卒業後、自主制作映画団体DAICON-FILM(後のGAINAX)に参加。1995年、『ガメラ大怪獣空中決戦』の特技監督を務め、日本アカデミー賞特別賞他、受賞。1996年、テレビシリーズ『新世紀エヴァンゲリオン』に 絵コンテ、脚本で参加。ほか、『ドラゴンヘッド』『CASSHERN』『NINNIN忍者ハットリくん劇場版』など、 あらゆるジャンルで活躍。2005年3月には初の長編監督作品『ローレライ』が公開。2006年7月『日本沈没』、2008年5月『隠し砦の三悪人』公開。
![平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 審査講評 平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 審査講評](/festival/2008/images/h1_ani_shinsakouhyou.gif)


