平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 アート部門 審査講評

部門総評

原田 大三郎 (アート部門主査/多摩美術大学教授)

12回を迎えた文化庁メディア芸術祭のアート部門は1,000作品を超える応募作品が集まり、実にエポックメイキングな年となった。この応募数は文化庁メディア芸術祭の全体の応募数の約半数を占めている。また海外からの応募数が400作品近くもあるというのも特徴的だ。この事実はアート部門が国内だけに留まらず、海外からも注目されているという証しであろう。今回、審査において気になった点は国内からの応募と海外からの応募との、作品コンセプトにおけるベクトルの差異である。そもそも芸術作品とは、その作家のパーソナルな問題意識が起点となって紡ぎだされていくものであるが、そのベクトルが内(個)へ向かうのと、外(社会)へ向かうのとでは、最終的にはその作品の在り方が変わってくる。海外からの応募は圧倒的に社会との関係を問うものが多かった。一概にどちらのベクトルが正しいとは言えないが、海外からの応募のなかに、世界的に著名な公募展において受賞した作品が多数含まれていることを考えると、この文化庁メディア芸術祭の審査基準というものが、世界に問われているという思いが強くなる。

ジャンル講評

▼インタラクティブアート ― 原島 博(東京大学大学院教授)

インタラクティブ作品に接して、いつも思うことがある。作者はいったい何を訴えたいのかと。訴えるものは必ずしも哲学的な思想でなくてもよい。徹底的に楽しさ、あるいはユーモアを追求したものであってもよい。背景となっている科学の不思議さを、あたかも魔法のように表現したものであってもよい。そこに作者なりのメッセージがほしい。 今回の応募に関して言えば、海外からの作品に、例えば『touched echo』のようにメッセージが明確なものが少なからずあった。これに対して国内からの作品は、こぢんまりと小さくまとまっている印象を受けた。それは国民性なのだろうか。それともインタラクティブ作品に対してある種の先入観があって、それが作品に影響しているのであろうか。そろそろ思いきった作品が出て欲しい。それを痛感した審査であった。

 

▼インスタレーション・その他 ― 長谷川 祐子(キュレイター)

今回のインスタレーションは全体に力作が多かった。映像にかかわるものが主ではあったが、『Oups!』 などの楽しい参加型のインタラクティブな展示から、ミュンヘンのBMW美術館のためのキネティックなインスタレーション―銀のボールが精妙なコントロールで上下し、三次元のイリュージョンをつくりあげていく作品など、テクノロジーの粋を尽くした洗練された展示作品も含まれていた。またパフォーマンス作品として『サーチエンジン』はネオダダやジョン・ケージ的な前衛スタイルを継承しながら、ランダムに出力される楽譜を次々に弾きこなしていくピアニストのパフォーマンス性と情報にまつわる現代的なアイロニーがうまく融合していた。今回はローテクからハイテクにいたるまで、人間的で、見るものの情動に訴えるものが多かった気がする。また海外からの応募者の秀作が多かったのもこの部門の特徴であろう。

 

▼映像 ― 原田 大三郎(多摩美術大学教授)

映像とは、“時間”という問題がひとつの重要な要素となった表現である。観客はある時間、作品が映しだされるスクリーンの前に、たたずむことを強要される。その体験がいろいろな意味において、観客にとって有意義であるならば幸いなことだ。さて今回の映像部門の印象としては、デジタル的表現とアナログ的表現を組みあわせ、作者独自の映像的なテクスチャーを追及しようとしている姿勢が見える作品が多数あったという点だ。特にこの傾向は国内応募作品において顕著で、日本のテクノロジーに対する新しい繊細な感覚の息吹を観ることができ、心強い。いっぽう海外応募作品は、ビデオアート的な実験映像が、多数応募されてきた。日本ではすでに死語となった感が強いビデオアートであるが、脈々と生きつづけ、新しい作品を産みだしている現状に海外の骨太さを感じることができた。しかし、ほとんどの応募作品に対しての共通の印象は、やはり時間の問題だ。その作品を構成している時間は、それに接する観客を拘束するに値する、ある価値を与えているだろうか?より一層の吟味を期待する。

 

▼静止画 ― 佐藤 卓(グラフィックデザイナー)

静止画全体として、さまざまな方向性を持った多様な表現が見られ、その点では見応えがあったが、現代社会を風刺するような、あるいは社会への強いメッセージを持った作品は『OUTSIDE』以外、出会えなかった。そういう意味でも私個人として、『OUTSIDE』がただひとつ秀逸だったと言って過言ではない。おもしろい表現や試みが、やはり現代の社会とどうつながるのかを、もう少し考えてみてはどうだろうか。おもしろいことをすることそのものが目的化すると作品は弱くなる。つかみ所がなく混沌としている現代社会では、目が覚めるような鋭い切り口を見せてもらいたい。アートの力で、それをやらずしてほかでできるのだろうか。現代のテクノロジーを使えば、うまい作品はできて当たり前で、作品に向かう以前の社会に対する問題意識があるのかどうかが問われる。自分が一番問題意識を持っていることへ向かうのが正しい方向だろう。強い問題意識を社会に対して持っていない者が、強いメッセージを持った作品など作れるわけがないのである。つまりアートは、自分をどこまで追い込むことができるかが問題で、作家の生き方そのものがそこに表れてしまい、そこからは逃れられない。

 

▼Web ― 宮島 達男 (東北芸術工科大学 副学長)

今回、Webは感動できる作品が極端に少なく、結果、優秀賞にひとつも残らないという事態になってしまった。確かに、このジャンルはメディアの性格上、ネット環境+モニター上で見なければならないという制約があり、ほかのジャンルに比べ、五感をフルに刺激することが難しい。しかも、WebはプログラムとCGで構成していく故に、小さくまとまってしまう傾向がある。ここに、スケール感が出ない原因があると思う。今回のノミネートのなかでは、Carolien HERMANS の『BODY IN BITS AND PIECES』が肉体を感じさせたが、動画やインタラクティブ性がもっとあればよかった。また、Jorn EBNERの『(the tender indifference)』はポップアップ機能を駆使し、おもしろいが、それが出てくるタイミングや音にスピード感がほしかったし、その写真内容の批評性が薄かったのが残念だった。いずれにしても、アート部門におけるWebというジャンルの在り方を考える時期に来ているように感じた。

審査委員

原田 大三郎(多摩美術大学教授)

原田 大三郎1983年、筑波大学大学院芸術学部総合造形コース卒業。坂本龍一、安室奈美恵、小室哲哉、globe、LUNA SEAなどの国内外コンサートツアーやプロモーションビデオの映像演出、また映画のオープニング映像やVFXなどを担当。1993年、NHKスペシャル『驚異の小宇宙・人体2 脳と心』CG監督。1994年、第1回日本芸術文化振興賞受賞、マルチメディアグランプリ ‘94 MMA会長賞受賞。2001年5月より SHARP『AQUOS』VP制作。現在、多摩美術大学情報デザイン学科教授。

佐藤 卓(グラフィックデザイナー)

佐藤 卓1955年、東京都生まれ。グラフィックデザイナー。「ニッカ・ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」などの商品デザインを手がけるほか、「金沢21世紀美術館」「国立科学博物館」などのVIデザイン、NHK教育テレビ『にほんごであそぼ』の企画・アートディレクション、東京ミッドタウンにある21_21 DESIGN SIGHTではディレクターを務めるなど、活動は多岐にわたる。

長谷川 祐子(キュレイター)

長谷川 祐子京都大学法学部卒業。東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長、芸術監督を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「ネオ・トロピカリア」「スペース・フォー・ユア・フューチャー」(東京都現代美術館)、「マルレーネ・デュマス-ブロークン・ホワイト」(東京都現代美術館)、 「ニュー・センソリアム」(MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター)、「メディア・シティ・ソウル」(ソウル市美術館)。

原島 博(東京大学大学院教授)

原島 博1945年、東京都生まれ。もともとは数学的な情報理論や通信方式論の研究者であったが、1985年頃からより本質的な人と人の間のコミュニケーションの仕組みに興味をもち、ヒューマンコミュニケーション工学を提唱。顔学などの新しい学術領域の創出や、科学技術と芸術の境界にも強い関心をもつ。映像情報メディア学会会長、日本バーチャルリアリティ学会会長、日本アニメーション学会副会長などを歴任し、現在は日本顔学会会長でもある。

宮島 達男(東北芸術工科大学 副学長)

宮島 達男1957年、東京都江戸川区生まれ。1986年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。1988年、ヴェネツィア・ビエンナーレに、アペルト部門で招待され、デジタル数字の作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの展覧会を開催している。1993年、ジュネーブ大学コンペティション優勝(スイス)。1998年、第5回日本現代芸術振興賞受賞、ロンドン・インスティチュート名誉博士。