田中 秀幸(エンターテインメント部門主査/アートディレクター)
この部門では、異なるメディアをプラットホームとする作品をひと括りに審査してきた。始めはどうやって審査をしていくのか正直なところ戸惑った。しかしいざ審査をしてみると、ごった煮状態の審査が反対に既存のジャンルのなかの理論だけで評価するのでは見えてこなかった評価の方向を見せてくれたように感じている。
技術の進歩によって、かつてないほどの変化があらゆるエンターテインメント作品に起こっている時代のなかで、制作者は“新たな作品と人との関係”という新しい課題を与えられているように感じられる。
今回大賞に選ばれた『TENORI-ON』はその作品としてのすばらしさや楽しさは当然のことながら、プロジェクト自体が象徴的で革新的であり、また、このプロダクトを使って新たな作品が生まれる可能性までもが作品のなかに含まれている。ほかの受賞作品も同じように表現のおもしろさにとどまらない何かを持っているものばかりとなったのは偶然ではないと思う。
▼ゲーム・遊具・キャラクター・その他 ― 水口 哲也(プロデューサー)
今年の傾向は、ズバリ“身体性”。映像や音による表現美というよりも、触る、動かす、魅せる、というような作品が審査員たちの注目を集めた。これも時代の移ろいなのか、人間の本能や欲求の揺り返しなのか。電脳的になっていくメディアや表現が多いなかで、またさらに、次の時代の予感を楽しみにさせてくれそうな、そんな作品に恵まれたのではないかと思う。ゲーム部門の受賞が多かった昨年に比べて、今年は他のジャンルの存在感が増した。エンターテインメント部門の大賞を受賞した『TENORI-ON』がこの部門から選出されたことにも大きな意味がある。今後の文化庁メディア芸術祭の未来を考えると、何かの予兆を感じさせるおもしろい年となった。
▼映像 ― 田中 秀幸(アートディレクター)
Web、ゲームなど、新たなメディアが技術的な進歩によって表現力を増していき、映像的な表現を取り込んでいくなかで、ゲームのオープニング映像やWeb上の映像表現などはますますハイクオリティー化していく傾向にあります。そんななか、CM、ミュージックビデオ、テレビ、アニメーションなど以前から映像表現を主体としてきたジャンルのクリエイターやスタッフの基本的な映像表現力のレベルの高さが逆に目立つ結果となったのではないかと思います。
Webやゲームなどのジャンルのプロフェッショナルの委員の方々と映像の審査をしていくのは新たな目で映像作品を見ることができ、映像表現の新たな価値を考える機会になったのではないかと思います。今後の自分自身の作品制作の大きな参考にもさせていただきます。
▼Web ― 福井 信蔵(クリエイティブディレクター)
今年度の応募も、剪定されずに伸びきった盆栽のごとく、どの視点から見るべきかわからず、同時にどこから見ても何もないという作品が多かったのは残念である。コンセプトだけが立派だったり、ひとりよがりの表現に始終したり、単に最新技術に飛びついてみたり、一発芸を羅列したり。それを「これはメディア芸術です」と言われても困る。それらをふるい落とし、コンテンツ表現に優れたもの、独自性の高いもの、チャレンジがあり、美しく、楽しく、驚きのある秀逸な作品を選出して最終審査会で審議した。今年度は時代を反映してか、携帯を連動して新たなコミュニケーションを成立させようとする企画が多く見られたが、そうした複合型の作品群を凌駕して『FONTPARK 2.0』が優秀賞に選ばれた。“体験の質の高さ”が鍵となってこの作品が選出されたのは意味深い。また、今年度も企業の広告キャンペーンの応募が多かったが、なかでも環境意識を啓蒙する『driveeverydrop.com』と、そのCMの『Drop』は秀逸であった。結果的に賞に至らなかったが、映像とWeb両部門の最終審査で上位に残り、高く評価されたことをつけ加えておきたい。
田中 秀幸(アートディレクター)
1962年静岡県生まれ。1984年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。株式会社フレイムグラフィックス代表。キャラクターやグラフィックデザインに加え、PV・CMのディレクションなど、映像制作を幅広く手がけている。おもな作品は、『GIANT BRA』ラフォーレ原宿CM(2001ADC制作者賞)、『OH!スーパーミルクチャン』アニメ、『The Rising Suns』石野卓球PV、『JR-SKIキャンペーン』JAPAN SNOW PROJECT TVCM(2005ADC賞)、『企業CM』SoftBank TVCM(2007ADCグランプリ)、2005ACCベストアートディレクション賞 受賞など、多数。
河津 秋敏(ゲームデザイナー)
1962年熊本県生まれ。1987年スクウェア(当時)入社。『ファイナルファンタジー』、『ファイナルファンタジーII』(ファミリーコンピュータ)の開発などに携わり、ディレクターとして『魔界塔士Sa・Ga』(ゲームボーイ)を制作。以降、すべての『サガ』シリーズを手がける。2003年、『ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル』を発表し、文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門大賞受賞。
福井 信蔵(クリエイティブディレクター)
1959年神戸市生まれ。アパレル出身の経験を生かし、ファッションブランドの広告やブランディングを多数手がけた後、独立。1994年ウェブデザインを独学で開始。2000年、デザイン集団「ビジネス・アーキテクツ」を設立。数々のグローバル企業にWebを軸としたクリエイティブサービスを展開。2005年、同社を退社。2008年、グローバルなコミュニケーション戦略を実装するSG&A設立。1995年ロンドン国際広告賞、1995年GRAPHIS DESIGN、1999年Web Design Award金賞、2003年One Show Gold、2004年One Show Bronze、2005年Communication Artsなど、国際的なデザイン賞を多数受賞。
桝山 寛(コンテンツ・プロデューサー)
1958年生まれ。慶應義塾大学卒業後、NYで映像制作を学ぶ。帰国後フリーで映像・ゲーム制作に携わる。2001年以降の関心は「マネー」。おもな仕事は『信用ゲーム展』(ICC/メディアート展示/客員学芸員)、『マネースマート』(角川書店/書籍)、『マネースマートtypeR』(シンフォレスト/PCゲーム)、『M.I.Q.』(講談社/マンガ原作)など。
水口 哲也(プロデューサー)
1965年生まれ。日本大学芸術学部卒業。2003年キューエンタテインメント株式会社を設立し、現在同社代表取締役CCO。『スペースチャンネル5』、『Rez(レズ)』、『ルミネス・音と光の電飾パズル』などのゲームをはじめ、音楽ユニット『元気ロケッツ』など、さまざまな領域でプロデュース活動を続けている。2007年に行なわれた『Live Earth』では、東京会場のオープニングアクトをホログラムにより演出。『Rez』は2002年アルスエレクトロニカで、インタラクティブアート部門Honorary Mention、文化庁メディア芸術祭特別賞などを受賞。2006年、全米プロデューサー協会に『Digital 50』の1人に選出される。
![平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査講評 平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 エンターテインメント部門 審査講評](/festival/2008/images/h1_ent_shinsakouhyou.gif)


