ちばてつや(マンガ部門主査/マンガ家)
「マンガ」の世界はいま、大きな曲がり角に来ている、と言われて久しい。若い読者はパソコン、携帯電話、ゲームなどなど新しい興味の対象が次々現れて、雑誌や単行本も出版すれば右肩上がりで売れるような、ある意味バブル時代が終わったのは事実だろう。しかし、そのパソコンや携帯、ゲームの世界にこれまでにない新しいマンガ表現が、新しいキャラクターたちがたくさん生まれ、育ち、活き活きと息づきはじめていたのだ。今回のマンガ部門の選考会では、それらの新ジャンルの作品にたくさん出会えて楽しかったし、さらにこれまでの紙媒体の作品たちもまだまだ元気だし、内容も表現もとても充実していて例年にない大豊作。マンガ界の曲がり角の行く先は、広く大きな豊穣の世界が開けて見えて、とても心強い選考会であった。
▼ストーリーマンガ ― 永井 豪(マンガ家)
候補作はバラエティーあふれる傑作揃いで、大賞、優秀賞を選びだすのは至難の技だったが、ピアニストの頂点を目指す少年たちの成長とクラシック音楽のすばらしさを、詩情豊かに、ドラマティックに描いた『ピアノの森』が、長時間の議論の末、大賞に選ばれた。同じくクラシックをテーマにした『マエストロ』との激しい競り合いの結果だった。
優秀賞には、洋服業界の熾烈な競争と人物描写の見事さがすばらしい『Real Clothes』、民俗学の伝奇、伝承を、大胆な仮説と推理で解く知的なおもしろさの『宗像教授異考録』、著者独特の不可思議世界が楽しい『栞と紙魚子』、多数の登場人物を纏める構成が大きな感動を呼ぶ『マエストロ』が選ばれたが、どの作品も大賞に相応しい完成度とおもしろさで、あらためてマンガ文化の底の深さ、スケールの大きさを感じさせられる審査会となった。
▼コマ・自主制作・Webマンガ ― 藤本 由香里(明治大学准教授)
昨年度は、文化庁メディア芸術祭への入賞をきっかけに商業出版された作品がふたつ出た。奨励賞を受賞した白井弓子『天顕祭』(自主制作作品)および、2年続けて推薦作品となった今日マチ子『センネン画報』(Webマンガ)である。ふたつとも、市場でも非常に好評をもって迎えられ、それが呼び水となったのか、今年度のマンガ部門の応募総数はなんと前年比37%以上の伸びを記録した。
しかし、残念ながら今年は、応募数のわりに突出した作品や斬新な作品が少なかったように思う。そのなかで、一コママンガの『Cartoon 2008』は、どれをとっても達者な、安定した力が評価された。また、Webマンガの先進国である韓国の作家が描いた『ヤクゼン! 韓国美少女の挑戦』は作品として抜群のおもしろさ。ほかに、版画で描かれたマンガ作品『NEKO NO HANGA』の風合いや、『かきなぐり漫画』のギャグセンスを評価する声もあった。Webマンガは、Webならではの手法と、内容のおもしろさをどう相乗させていけるかが鍵だろうか。
ちばてつや(マンガ家)
1939年1月11日、東京築地の聖路加病院で生まれる。同年11月に朝鮮半島を経て、1941年1月旧満州・奉天(現中国・遼寧省瀋陽)に渡る。1945年終戦。翌年中国より引揚げる。1950年、友人の漫画同人誌「漫画クラブ」に参加。1956年、単行本作品でプロデビュー。1958年『ママのバイオリン』で雑誌連載を始め、1961年『ちかいの魔球』で週刊少年誌にデビュー。おもな作品に『1・2・3と4・5・ロク』、『ユキの太陽』、『紫電改のタカ』、『ハリスの旋風』、『みそっかす』、『あしたのジョー』、『おれは鉄兵』、『あした天気になあれ』、『のたり松太郎』など。社団法人日本漫画家協会常務理事。
しりあがり寿(マンガ家)
1958年静岡市生まれ。1981年多摩美術大学グラフィックデザイン専攻卒業後、キリンビール株式会社に入社し、パッケージデザイン、広告宣伝などを担当。1985年単行本『エレキな春』でマンガ家としてデビュー。パロディーを中心にした新しいタイプのギャグマンガ家として注目を浴びる。1994年独立後は、幻想的あるいは文学的な作品など次々に発表、マンガ家として独自な活動を続ける一方、近年ではエッセイ、映像、ゲーム、アートなど多方面に創作の幅を広げている。2006年より神戸芸術工科大学先端芸術学部教授。
永井 豪(マンガ家)
1945年9月6日石川県輪島市生まれ。幼少の頃よりマンガ・映画・落語・冒険小説に親しみ、石ノ森章太郎氏のアシスタントを経て、1967年『目明しポリ吉』(ぼくら/講談社)でデビュー。翌年『ハレンチ学園』(少年ジャンプ/集英社)が連載開始となり、たちまち大ブームになる。以後、現在に至るまで、幅広いジャンルの作品を発表しつづけている。代表作には『ハレンチ学園』『デビルマン』『マジンガーZ』『バイオレンスジャック』『キューティーハニー』など多数。2005年度より大阪芸術大学キャラクター造形学科の教授に就任。2006年、いしかわ地域づくりサポーターに就任。2007年、マンガ家生活40周年を迎える。
藤本 由香里(明治大学准教授)
1959年熊本県生まれ。東京大学教養学科卒。明治大学国際日本学部准教授。評論家。筑摩書房の編集者を経て、2008年4月より現職。専攻はマンガ文化論。コミック・女性・セクシュアリティなどを中心に評論活動を展開している。講談社漫画賞、手塚治虫文化賞の選考委員でもある。日本マンガ学会理事。著書に『私の居場所はどこにあるの?―少女マンガが映す心のかたち』『快楽電流』『少女まんが魂』『愛情評論』など。
わたなべまさこ (マンガ家)
東京都生まれ。1952年、『少公子』でデビュー。集英社、小学館、講談社、双葉社、秋田書店、創美社、宙出版、ぶんか社などに連載短編を執筆。現在、双葉社「jour」に『金瓶梅』連載中。1971年、第16回小学館漫画賞『ガラスの城』。2002年日本漫画家協会賞文部科学大臣賞。2006年旭日小綬章。現在、創造学園大学芸術学科教授。
![平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 審査講評 平成20年度[第12回]文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 審査講評](/festival/2008/images/h1_man_shinsakouhyou.gif)


