平成21年度[第13回]文化庁メディア芸術祭 受賞作品

アート部門

Nemo Observatorium
© Lawrence MALSTAF
優秀賞

Nemo Observatorium

インスタレーション

作者: Lawrence MALSTAF

(ベルギー)

MOVIE

※動作環境に関してはこちら

作品概要

白い微粒子が巨大透明シリンダーのなかを舞っている。鑑賞者は渦の真中の肘掛け椅子に座るか、外から眺める。嵐の目のなかは静かで安全だ。この壮大な瞑想マシンのなかで、微粒子が描く模様を追い、3Dピクセルの層を見つめ、轟く音に耳を澄ませる。めまぐるしく変わる環境のなかで静けさを見出すことに挑戦する訓練装置ともいえる。

作者プロフィール

Lawrence MALSTAF

Lawrence MALSTAF

1972年ベルギー生まれ、ノルウェー在住。映像と演劇の間で活動している。工業デザインと演劇を勉強したのち、動作、偶然、不安定な秩序に重点を置いたインスタレーションとパフォーマンスアートを行なっている。 個々の視聴者用に一連の知覚の部屋をつくり、また空間と方向性を扱う大規模な移動式環境も作成した。芸術と技術に対するWitteveen+Bos賞(オランダ)、Ars Electronica(オーストリア)Golden Nica賞を受賞。

受賞コメント

私はリンツで行なわれたアルスエレクトロニカで文化庁メディア芸術祭を代表する人々と会いました。メイン広場にある文化庁メディア芸術祭のパビリオンを訪れる機会があり、芸術祭の賞について情報を得ることができたので、運を試しました。リンツでインタラクティブアート部門のゴールデンニカ賞を受賞した2、3ヵ月後の同じ年にまた別の賞をいただき、驚きました。

今回は日本での私の最初のプロジェクトですが、実行委員会のプロ意識には感心しました。展示内容もまたヨーロッパで経験していることとは明らかに異なりました。ヨーロッパのほとんどのフェスティバルはエンターテインメントの世界とつながりをもつことに関心がありません。ゲームは受け入れられるようになっていますが、それはアートと同列に置くことができる創造芸術の形としてというよりは、むしろ文化的社会学的現象としてです。私たちはアートとエンターテインメントを真に分離したままにしようとし、しばしば「Art」と大文字で書き、そしてその差異をはっきり定めようとするのです。個人的には、私はカテゴリーや定義にはあまり興味はありません。私が興味を持つのは創造の質であり、私は工業機械見本市とか科学研究所に行っても、山に行っても、私の小さな息子と話しても、そう、芸術展からもまた、インスピレーションをもらえるのです。

贈賞理由

透明の円筒の中央に椅子があり、鑑賞者が座ってスイッチを押すと、気流により大量の発泡スチロールの粒で可視化された竜巻が起こる。円筒の内側の面を滑るように激しく回転する発泡スチロールの粒は、鑑賞者にはぶつかることがなく、そのダイナミックな動きが描き出す模様を、体感しながら鑑賞することができる。自然現象をモチーフにし、物理的な演算を使用したりする作品の多くが、それらを音楽やCGをつくる際の有機的な変数として安易に利用しているのに対して、この作品ではあくまで現象そのものを切り出して単純明快に提示しているところに、新鮮さと力強さがある。そこにはコンセプトや理屈を超えて、とりあえずそのなかに入ってみたいという、好奇心を刺激されずにはおられない魅力がある。また、洗練されたアートとしての側面だけではなく、どこか昔のSF映画のセットや遊園地のアトラクションを彷彿とさせるような、懐かしさも感じさせる。

8つの質問

Q1
「作品をつくりたい」と思ったのは、どんなことがきっかけでしょうか?
A1
1996年のとても厳しい冬、私はノルウェーの北部のスカイディという小さな村の家にいたのですが、大渦についてのエドガー・アラン・ポーの小説を読んだのです。
Q2
現在、おもに使用している創作ツールは何ですか?
A2
標準的な機械工作場からの様々な道具、溶接機械など。プロジェクトにおいてはモーターやアクチュエーターを制御するのによくDMXを使います。
Q3
作品に対して、最も重視されているところはどこですか?
A3
不安定な秩序、予測不能、エントロピー、繰り返し、それからインスタレーションの一部としての鑑賞者の存在。
Q4
創作活動を通して、持ちつづけているテーマは何ですか?
A4
身体的な経験を通じて感情やアイデアを伝える事。
Q5
テクノロジーを使った表現や、メディアという伝える手段をどのように考えて創作されていますか?
A5
テクノロジーはコミュニケートする手段にもテーマにもなりえます。テクノロジーは現代的素材を含み、たいていかなり無意識にではあるけれど日常生活で私たちが扱うものです。実際、私は運動を作品にしていて、さまざまな場所や展覧会で再現しなくてはならないし、また長い時間作動させなくてはならないので、テクノロジーが必要なのです。でも、テクノロジーを使わずに自然の資源やエネルギーだけを使うことはとてもよい課題だと時々思います。
Q6
ダンサーと仕事をしたことで、動く肉体の力を発見したこと、そして視聴覚を超える共感覚的経験としてのコミュニケーション。
A6
ヤン・シュヴァンクマイエル
Q7
今後どのような作品を創作していこうと考えていますか?
A7
私の究極的ゴールはスチール、プラスチック、コンピュータを一切使わずコミュニケートする非物質的な経験を創り出すことです。おそらくこれを達成するのは不可能ですが、少なくとも最小限まで減らし単純にしたいと思います。
Q8
あなたにとって「創作する」ということは何でしょうか?
A8
それは周囲や私の内の世界に対する興味から始まります。精神と感覚をオープンにしたままこの現実について学ぶ実践なのです。初めてのことのように日常的な事や現象を観察しようとすることです。