本年の特別功労賞は、昨年亡くなられたアニメーターの金田伊功氏に贈られました。シンポジウムにはアニメーション監督のりんたろう氏とアニメ評論家の氷川竜介氏を招き、金田氏が日本のアニメーションや映画、ゲーム、特撮などメディア芸術のあらゆる分野に与えた多大な影響を振り返り、伝説とも呼ばれた「金田アニメ」が今後いかに受け継がれていくかを語っていただきました。
| 日 時 | : | 2月11日(木) 16:00~17:30(国立新美術館3F講堂) |
| 出 演 | : | りんたろう(アニメーション監督) 氷川 竜介(アニメ評論家) |

MAIN CHARACTER DESIGN:TETSUYA NOMURA
氷川:本日は金田さんともっとも一緒にお仕事をされていた、りん監督をお招きしています。りん監督から見て、金田さんはどんな方でしたか?
りん:変なやつでしたよ。アニメーターには変わった人物も多いんですが、なかでも金田くんは特別ポップな人でしたね。カリスマがありました。アニメーションというのは時間軸が勝負の世界なのですが、彼は時間の使い方が際立っていたんです。現在はデジタルが主流ですが、フィルムは1秒が24コマごとに区切られています。彼がその1コマにかける執念はすばらしかったですね。
氷川:コマの流れに、彼なりの独特のタイミングがあるんですよね。
りん:手塚治虫の『鉄腕アトム』の放映が始まったときから、制作時間もお金もないなかで、いかにコマを繋げて効率よく描いていくか、日本のアニメーションはそこからスタートしています。僕と金田くんは、2コマで一枚の絵を描く際に、1コマだけ白や黒ベタにしてしまったり、アブストラクトな絵が入ったりと、実験的な手法を何度も繰り返しました。それが結果として、絵を強調するためのサブリミナルな効果を生み出したんですね。空の1コマによって、何かが崩壊していくときやアクション・シーンでは、見る人に残像が残るような感覚をもたらしました。このやり方が当時のアニメーターに爆発的に影響を与えたんです。
氷川:展示会場では、金田さんが生前使われていた用具が展示されていますね。
りん:彼はフリーハンドで描かないんですよ。すべて雲形定規や直線定規を使って描くんです。キャラクターデザインに合わせたりしないので、作画監督は調整が大変でしたよ。それでも、だれも見たことがないフォルムを次々と生み出していた希有な人です。アニメーションって基本的には嘘の絵なんです。リアルに描けばいいというものではない。彼の場合はタイムシート上で1枚の絵が映像になったときのことを常に計算しているので、1コマ変わった構図があっても見せてしまう。その使い分けが明快でした。また彼は、監督や作品の意向によって縦横無尽にスタイルを変えてしまうんですね。

氷川:タイムシートのメリハリの付け方は日本独特の表現なんでしょうか。
りん:僕は先日までパリに行っていたんですが、みんな日本のアニメーションにとても憧れていますね。 日本人じゃないと表現できないものがあると思います。それは大げさに言えば、歌舞伎や俳句の五七五に現れるような、日本人独特の「間」の取り方や情感がDNAに刷り込まれているからではないでしょうか。
氷川:アニメーションは絵に命を吹き込むとも言いますが、ただコマを動かせばいいわけではなく、人間の心臓のリズムや呼吸に合わせて動かすことで絵が生きてくるんですね。金田さんの作品は何枚もコマを使って丁寧に描くシーンがあれば、1枚ではよくわからない絵もある。リアリティは感じられるけれど、実際の絵はリアルではないんですね。
りん:映像から生まれる相乗効果を頭のなかで計算していたと思います。その緩急自在のタイミングは抜群でしたね。CGで爆発のシーンをつくるときは、大抵そのリアリズムを求めると思うんですが、彼は爆発やビームなんかを生き物のように描いています。
氷川:雷やビームが龍のように描かれたシーンは、アーティストの村上隆さんも評価していましたね。日本画の様式美につながるものがある、と。当時の僕たちにとって、『銀河鉄道999』で人間の怨念や情念、死んだ人の魂がドロドロの炎となって表現された絵を観たときは衝撃でした。
りん:人の魂をいかに描くかは、何度も金田くんとディスカッションを重ねました。実験的なことを恐れなかったんです。ラフ画の段階からほとんどが金田くんの独壇場で、僕はストップウォッチを片手に、ここはもう少し長く、など調整を入れていきました。
氷川:時間芸術であるアニメーションの醍醐味でもありますね。時間軸の左右によって人間の感情が揺さぶられていくという。
りん:彼はカメラワークも抜群にうまかったです。最近ではカメラを機械として扱ってしまうため、無味乾燥なカメラワークばかりが目立ちます。実写でもそうですが、カメラワークのうまい人は生き物のようにカメラを使いますね。
氷川:『幻魔大戦』や『宇宙戦艦ヤマト』などは金田さんのエフェクト表現の集大成ともいえる作品です。キャラクターやストーリーだけでなく、エフェクトの部分に華を持たせ、集客の一因としたことも金田さんの功績ですね。また、『幻魔大戦』のあとは『風の谷のナウシカ』など、宮崎駿監督映画も手がけられています。エフェクトの話が中心でしたが、金田さんが手がけたキャラクターデザインはいかがですか?
りん:女性のラインを描くときはうれしそうにしていましたね。それでも、胸やお尻のラインは肉感的ではないんですよね。彼独特の軽やかな線があるんです。

氷川:金田さんは現実のルールに束縛されないような印象がありました。
りん:アナーキーな人でした。与えられた仕事のなかでも、自分の実験精神を生かし、自由奔放に表現していった。彼は不器用だったと思うんですよ。器用だったらもっと周囲に合わせて描けたのでしょうが、彼はその不器用さを凌駕する表現力を持っていました。
氷川:こうした金田さんの功績がなければ、アニメーション界で生まれる才能はもっと少なかったのではないでしょうか。
りん:たった1コマの、目に見えない部分にも命をかけていた。そこに彼の神髄があると思います。いまになって彼の表現を分析することはできますが、真似しようと思っても簡単にできることではないんです。いまの時代に危険なのは、機械に頼ってしまうことです。コンピュータは優秀なので、ある程度のことは表現できますが、それがいかに新しい表現なのかを考えなくてはならない。1コマにもっと違った表現が出てくれば、日本のアニメーションはおもしろくなっていくと思います。
氷川:金田さんを通して、アニメーションとは何なのかを教えられますね。今回の特別功労賞は、本来は未来に託して現在作品をつくられている方に贈ると思うんですが、今の日本のアニメーションやCG、特撮などあらゆるジャンルの表現すべてに「金田アニメ」が生きていることを評しての賞だと思います。
りん:昨年僕が監督した『よなよなペンギン』では、日本人が50年かけて培ってきた2Dアニメーションの表現や技術を生かし、すべてCGで手がけました。これは自分にとって新たな表現への挑戦でしたし、これからも挑戦しつづけたいんです。金田君は常にそうした新しい挑戦をしつづけた人でした。彼ともう一度、いままでとまったく違ったことをやりたいと思っていた矢先のことだったので、亡くなったのが本当に残念です。
氷川:これをきっかけに、若い方々にもアニメーションの楽しさを受け継いでもらえたらと思います。最後に一言、金田さん、どうもありがとうございました。
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