海外フェスティバルレポート

Ars Electronica 2005 レポート

■ 最も歴史のあるメディア芸術の祭典

アルスエレクトロニカはオーストリアのリンツで毎年9月上旬に開催しているメディア芸術の祭典で、リンツとオーストリアの放送局ORFが主催している。

リンツはもともと鉄鋼産業の盛んな都市であったが、1979年に新たな産業振興や町の活性化を目的として世界で初めての大規模なメディア芸術の祭典「アルスエレクトロニカ」をスタートさせた。1987年には優秀作品を顕彰するアルスエレクトロニカ賞(Prix Ars Electronica)が始まり、1996年にはメディアアートの美術館でもありメディアテクノロジーの研究機関でもあるアルスエレクトロニカ・センターが設立されている。

リンツはドナウ川沿いにある人口20万余、ウィーン、グラーツに次ぐ第三の都市で、オーストリア最大の工業都市であるとともに伝統的な街並も残している。宗教改革の時代にはケプラーがここで天文観測に従事し、モーツァルトがリンツ交響曲を作曲している。日本でいうと、つくば市と同じくらいの人口だ。
■ アルスエレクトロニカ2005
文化庁メディア芸術祭は平成9年度より日本国内で毎年開催しているが、平成15年度からは、メディア芸術全体の発展と世界への日本文化の発信に資することを目的として、海外メディア芸術祭への出展に関する支援事業を行っている。その一環として2003年から、アルスエレクトロニカでも文化庁メディア芸術祭優秀作品の上映会を行なっている。

フェスティバルの構成を大きく分けると、「受賞式」「作品展」「アニメーションフェスティバル」「カンファレンス」「イベント」となる。これらがリンツ市内の美術館や、博物館、音楽堂、大学、公園、広場など十数ヶ所で行なわれるのだ。

開催地 オーストリア・リンツ
開催期間 2005年9月1日(木)?9月6日(火)
URL http://www.aec.at/
Brucknerhaus
リンツ生まれの音楽家ブルックナーの名を冠した音楽堂。 受賞式やカンファレンスはここでおこなわれる。
  Ars Electronica Center
メディアアートの美術館であり研究機関でもある。
■ 受賞式


コンテストは「コンピュータアニメーション」「インタラクティブアート」「デジタルミュージック」「ネットビジョン」「デジタルコミュニティー」「U19」の6部門からなる。今回は71ヶ国から2,975作品の応募があった。部門一つひとつを見ても、対象とする範囲がとても広いことがわかる。

受賞式はドナウ川沿いにある音楽ホール「ブルックナーハウス」で行なわれ、テレビでも放送される。趣向を凝らした演出で受賞式そのものがとても楽しめるものになっている。進行の合間にはさまざまなパフォーマンスが行なわれるが、インタラクティブアート部門では岩井俊雄がプレゼンターを務めるとともに、新作「TENORI-ON」を実演して観客を楽しませた。司会者からの「なぜゲーム機用に作品を発表しているのか?」の問いに対して、「音楽にはCD、映像にはDVDという流通させるための形態がある。インタラクティブアートを流通させるものが今まではなかったが、ゲーム機がそれになりうるのではないか」とのコメントが印象に残った。

■ カンファレンス
Hybrid Symposium I Drivers and Patterns of Hybridity Derrick der Kerckhove (CA)
 

アルスエレクトロニカの大きな魅力の一つに、カンファレンスがある。受賞者によるプレゼンテーションや、今回のテーマ「HYBRID Living in paradox」について、世界中から集まった科学者やアーティストが議論をくり広げる。先端技術の論文発表のようなものは少ないが、「テクノロジーの発展とアートの関係」「テクノロジーの発展と社会の関係」など考えさせられる内容は多い。

9月4日の「Lecture of the curators of the Animation Festival」では、文化庁メディア芸術祭の紹介をする機会が与えられ、現状や今後の方向性について話をした。

■ 作品展

受賞作品展「Cyber Arts」、企画展示「Hybrid Creatures」、アルスエレクトロニカ・センターでの常設展示、学生作品展である「Campus」などが市内のあちこちの会場で行われる。数年前に日本でもブームになった美少女CGを扱った展覧会には驚いた。

OKセンター
受賞作品展である「Cyber Arts」が行われる美術館。
   

インタラクティブアート作品を中心に、個人的におもしろかった作品を紹介する。
インタラクティブ部門で特別賞を受賞したTheo Jansen(NL)の「Beach Animals/Strandbeest」は、樹脂製のパイプでくみ上げられた巨大な作品。複数の足を複雑に動かしながら進むその姿は、「風の谷のナウシカ」に出てくる蟲のようであった。
Garnet Hertz(CA)の「Cockroach Controlled Mobile Robot#2」はその名の通り、生きたゴキブリの操作によって動くロボット。車輪の前に障害物があるとLEDが光り、ゴキブリは6本の足で懸命にトラックボールを転がして光とは逆の方に動こうとする。

Marnix de Nijs(NL)の「Run Motherfucker Run」は巨大なルームランナーで、実際に体験するとスクリーンのなかにトリップしそうになった。

三上晴子と市川創太の「gravicells」は、地球上の重力とそれに対する抵抗力を表現した作品。センサーが内蔵されたスタジオ内を移動することにより、視覚的に重力を体感できる。メディアアート本来のおもしろさが味わえる作品である。

全体の印象としては、先端技術を駆使して新しい表現を追求するような作品は少なかったように思う。メディアアートの魅力というものは、一般的な現代美術とは違ったところにあるはずなのに、現代美術的なまとまりを見せる作品が多くなっているのはどうしてだろうか。

■ アニメーションフェスティバルと文化庁メディア芸術祭の上映
Fallen Art
Tomek Baginski / Platige Image (PL) Golden Nica Computeranimation / Visual Effecs Source: Tomek Baginski / Platige Image

インタラクティブアートやネットアートに強いArs Electronicaであるが、映像分野にも力を入れている。アニメーション部門には約450作品の応募があった。
最優秀賞には、Tomek Baginski氏(ポーランド)の「Fallen Art」が選ばれた。
棟のてっぺんに立つ士官は、下級兵士に飛び降りるように命じる。飛び降りた兵士は地面に激突して死亡。別の上官はその死にざまを写真に撮る。この行為をくり返す上官の目的は何か。謎と驚きを盛りこんだ短編作品である。



日本からは小柳祐介氏の「都市東京」と早川貴泰氏の「Kashikokimono」という若い2人の作品が入選したが、これらはいずれもCG-ARTS協会主催の「第10回学生CGコンテスト」でも受賞している。

CG-ARTS協会では、この夏「Ars Electronica」や「SIGGRAPH」など5つの海外フェスティバルで、「文化庁メディア芸術祭」の作品上映をおこなった。
上映作品は、若手日本人のインディペンデント系の作品を中心として、それぞれのフェスティバルサイドとも調整しながら決めてきたが、日本の若いアーティストに対する評価はいずれも高かった。
上映会においても定員を大幅に越えることも多く、作品ごとに拍手や笑いの渦につつまれていた。
■ まとめ

Ars Electronicaから始まったメディア芸術の祭典も世界に数多く生まれている。スペインの「sonar」、ドイツの「Transmediale」、オーストラリアの「Multimedia Art Asia Pacific」、韓国の「Media City Seoul」、そして日本の「文化庁メディア芸術祭」など。いずれの国も映画以降の新しいメディアを対象に、それらの文化振興だけでなく産業的な振興も視野に入れて積極的に展開している。
そのような状況のなかで、Ars Electronicaは先導的な立場を維持しながらも発展を続けている。規模こそ年々大きくなっているものの、手づくりを感じさせる部分がまだ残っており、スマートでないところもあるかわりに、人と接する部分をとても大切にしてコミュニティーを広げていこうとする気持ちが伝わってくる。

今回の来場者数の公式発表は下記の通り。人口20万人ほどの地方都市に世界中からこれだけの人たちが集まってくるのは、単にフェスティバルの内容のよさだけでなく、主催者の情熱や、来場者に対するホスピタリティーや、充実したコミュニティーによるものなのだろうと思う。

Linzer Klangwolke
9月3日にドナウ川で行われた大規模なミュージカル。9万人が集まった。
<来場者数>
Ars Electronica 2005(9/1?9/6) 33,000人
Linzer Klangwolke(9/3) 90,000人
アーティスト&科学者 453人(26カ国)
ジャーナリスト 532人(35カ国)

阿部 芳久
CG-ARTS協会 文化事業部部長