海外フェスティバルレポート

ARS ELECTRONICA 2006 レポート

2006年8月31日から9月5日まで、オーストリアのリンツで「ARS ELECTRONICA 2006」が開催されました。今年で27回目を迎えたARS ELECTRONICA は歴史ある世界最大のメディア芸術の祭典です。今年のテーマは「SIMPLICITY - the art of complexity - 」(簡潔さとアートの複雑さ)と題して作品展をはじめ、シンポジウム、カンファレンス、ライブイベントが行なわれました。
開催地 オーストリア・リンツ
開催期間 2006年8月31日(木)~9月5日(火)
URL http://www.aec.at/de/festival2006/index.asp
PRIX ARS ELECTRONICA(コンテスト)は、コンピュータアニメーション、インタラクティブアート、デジタルミュージック、ネットビジョン、デジタルコミュニティー、U19フリースタイルの6部門で構成され、世界71カ国から3,177作品の応募があり、国際的な審査委員たちによって6作品のゴールデンニカ(最優秀賞)と、12作品のAward of Distinction(優秀賞)、73作品のHonorary Mentions(佳作)が選ばれました。

また、 CG-ARTS協会では「Japanese Animation」と題して、第9回文化庁メディア芸術祭優秀作品の上映を行ないました。
■受賞式
ブルックナーハウスで行なわれるPRIX ARS ELECTRONICAの受賞式。通称「GALA(晩餐会)」と呼ばれ、多くの招待客が正装で集います。授賞式の模様はオーストリア放送協会で中継され、毎回趣向を凝らしたライブパフォーマンスを織り交ぜて行なわれます。今年は九州大学の馬場哲晃さんと、 UCLAの川島高さんといった若い日本人アーティストのライブパフォーマンスが会場をわかしていました。また、プレゼンターにベネトンの広告写真で有名なイタリアのオリビエーロ・トスカーニ氏を迎えるなど国際色豊かな式典でした。

受賞作品の中に日本人アーティストの作品も多く、「ネットビジョン」部門では、エキソニモの『The Road Movie』が、ゴールデンニカを見事獲得しました。
他の部門のゴールデンニカの受賞作品は「U19フリースタイル」部門で、最年少受賞した地元リンツ出身の13歳から15歳の4人組の作品『Abenteuer-Arbeitsweg』。2年がかりで完成させた、レゴブロックによる短編アニメーションです。
「コンピューターアニメーション」部門ではドイツの学生チーム制作の『458nm』が受賞。こちらの作品はSIGGRAPHでも審査委員特別賞も受賞するなど、今年のCG関連の賞を席巻しそうな勢いです。
「インタラクティブアート」部門ではアメリカのPaul DeMarinis氏による『The Messenger』、「デジタルミュージック」部門ではフランスのEliane Radigue氏の『l'ile re-sonante』。「デジタルコミュニティー」部門ではスペインのネット企業www.zexe.net/barcelonaの『canal*ACCESSIBLE』が受賞しています。
■メディア芸術祭の上映
今年も文化庁メディア芸術祭の優秀作品上映を「Japanese Animation」と題してOKセンター内のアニメーションシアターで2回上映しました。

約90分の上映プログラムは第9回の受賞作品の中から日本人の若手作家の作品を中心に、 アルスエレクトロニカとも協議して決めています。

「Japanese Animation」の上映は2003年からはじまり、今回で4回目となりますが、すっかり人気のプログラムとして定着しています。約200席ほどの会場は満席で大勢の立ち見の観客を迎えての上映となりました。一つ一つの作品に対しての大きな反応は、日本のアニメーション作家たちへのリスペクトが感じられました。

遅れて会場に到着した来場者の中には残念ながら入場することが出来ずに会場を後にした方も多くみられました。せっかく足を運んでいただきながら、観ていただくことができずに残念です。来年からは会場ロビーでのDVD上映など、入場出来なかった方々にも作品に触れることが出来るよう工夫していきたいと思います。
■音楽イベント
アルスエレクトロニカの魅力のひとつは音楽イベントが充実しているところです。
会期中には、音楽とデジタルアートの融合をライブ形式のコンサートで体感するイベントが数多く催されます。音楽のジャンルは、クラッシックから電子音楽にいたるまで多岐に渡っています。

なかでも、ドナウ川沿いで行なわれる野外コンサートは毎年、大勢のリンツ市民も楽しみにしている恒例のイベントです。今年はユニセフ60周年との共同企画でオランダ人のソングライター、ヘルマン・フォン・ベイン氏のオリジナルで制作し、世界の子ども達へのメッセージを世界中の寓話や舞踊を交えて熱唱しました。

レントス美術館では日本人ピアニストとビデオミュージックアーティストとのコラボレーションステージが行なわれました。
ブルックナーハウスのホールではリンツ交響楽団とビデオアーティストとが協演し、地元の観衆からも大きな喝采を送られていました。
■カンファレンス
フィーチャー・アーティストの一人、ジョン前田氏がモデーレートした「シンプルシティ・シンポジウム」ではプロダクト・デザイナー、PC開発者、キュレーター、ロッククライマーなど広い分野からのゲストを迎え、コンピューター技術と私たちの生活について議論されました。

また、各部門の受賞者と審査委員によるフォーラムも行なわれました。コンピューター・アニメーション部門のバーチャル・エフェクト・カテゴリーでは、『SPAWN』のマーク・デッペ監督の司会で、3組の受賞者が受賞作品とその制作過程について語りました。技術的な苦労話や裏話など、映像制作者にとって興味深いフォーラムとなりました。
日本からは『惑星大怪獣ネガドン』で入賞した粟津順さんとプロデューサーの角南一城さんが参加。ネガドン制作の舞台裏を披露しました。フォーラム終了後の質疑応答でも多くの質問が粟津さんに集まり、日本のアニメが大好きなマーク・デッペ監督自身も『ネガドン』を高く評価されていました。
■展示1(ブルックナーハウス)
アルスエレクトロニカのメイン会場となるブルックナーハウスの1階と2階ロビー部分では、“SIMPLICITY”をテーマにした作品展示や、ワークショップが開催されていました。
1階入り口部分に展示されていたAram Bartholl氏の『Random Screen』はキャンドルを利用した変化する壁面スクリーンです。コンピューター技術が目立つメディア芸術作品の中でキャンドルの熱と風を利用した作品は逆に新鮮な驚きを与えてくれました。
また、同じ作者の『Papierpixel』もオルゴールの針のように紙に穴を開け、その仕様でさまざまな模様を描き出すスクリーンです。
両作品とも今回のテーマ“SIMPLICITY”にマッチした作品であったと思います。
■展示2(レントス美術館)
ブルックナーハウスに隣接する近代的な建物はスイス人建築家ウエーバー&ホーファーの設計による斬新なボックス型。世紀末芸術として有名なオーストリア出身のグスタフ・クリムトやエゴン・シーレなどのクラッシクモダン絵画を中心とした常設展示をはじめ、常に注目を集めつめる特別展示も人気のリンツのランドマークともいえる近代美術館です。
こちらでは、今回のフィーチャー・アーティストである、ジョン前田氏の作品が展示されました。
■展示3(アルスエレクトロニカ・センター)
来場者がメディアアートを体験する未来型ミュージアム兼、研究ラボ施設。常設展に加え、今回の応募作品からアルスエレクトロニカ・センターの視点で選ばれた作品や、「U19のフリースタイル」入選作品が展示されています。これらの作品はこれから1年間常設で展示されます。
日本からは今回のフィーチャー・アーティストの1人、岩井俊雄さんの作品をはじめ、串山久美子さんの作品や、前回のメディア芸術祭で推薦作品に選ばれた青木孝文さんの『Virtual Brownies』や、九州大学の馬場哲晃さんの『Freqtric Drums』が展示されていました。
U19フリースタイルの展示では今回 最年少でゴールデンニカを受賞した作品をはじめ、若い新鮮な発想力と溢れる才能に驚かされる作品を観ることができました。
■展示4(OKセンター)
OKセンターではサイバーアーツの受賞作品の展示を行なっています。30日の初日には州知事を招いてのオープニングセレモニーが開かれ、会場には受賞した多くのアーティストも顔を見せていました。
『The Road Movie』で、ネットビジョン部門のゴールデンニカを受賞したエキソニモの二人をはじめ、インタラクティブ部門Honorary Mentionsを受賞した『vexations』の毛利悠子さんと三原聡一郎さん。メディア芸術祭アート部門大賞を受賞した東京大学のアルバロ・カシネリさんの『Khronos Projector』も人気を集めていました。
■展示5(キャンパス)
アルスエレクトロニカのイベントの一つで、アートとテクノロジーの統合をはかるメディアアート教育をおこなっている学校の紹介を行うのが「Campus」です。毎年、世界中から一つの教育機関が選ばれ、学生や卒業生、教師による作品展をリンツ美術工芸大学がホストし開催されています。
今年はフィンランドのヘルシンキ大学アート&デザインメディアラボが選ばれました。展示の中心は4つのリサーチグループによるデジタル技術の向上やデジタルツールの普及によるライフスタイルの変化をテーマに行われました。

展示作品の一つ『Emotional Talking』の作者は学生CGコンテストで受賞されたこともある水谷理人さん。現在はヘルシンキ大学でメディアアートを教えられているそうです。かつての学生CGコンテスト受賞者との出会いに驚きつつ、現在の活躍が嬉しかったです。
■郊外へ~聖フロリアン修道院~
今回の目玉企画は、「聖フロリアン修道院」での1日だけのアルスエレクトロニカです。郊外の歴史ある修道院施設内で展示やコンサート、シンポジウム、ワークショップが開催されました。
朝、ブルックナーハウスに集合し、チャーターバスでリンツ市郊外の丘陵に建つ聖フロリアン修道院へ。ここの付属の教会はアントン・ブルックナーが幼少時代に少年聖歌隊として、また青年時代を教員、オルガニストとして過ごした教会で、パイプオルガンの真下にある地下の霊廟にブルックナーは眠っています。現在の専属オルガニストによるブルックナー楽曲のパイプオルガン演奏も行なわれました。
他にも重厚なバロック建築の美しい建物の中でのデジタルミュージック受賞作品の演奏や、レクチャー、ワークショップなどが行なわれました。フィーチャー・アーティストである岩井俊雄さんのワークショップには、会場に入りきれない程の聴取が集まり、大盛況でした。通常の会場とは違うオープンな雰囲気で行なわれた他の多くのレクチャーなども、より活発な意見交換が交わされていました。
■ 地域に密着したフェスティバル
アルスエレクトロニカは、コンベンションセンターで開催されるのではなく、リンツ市街にある美術館や博物館、音楽堂、広場などを会場にして開催されます。野外でのパフォーマンスをはじめ、期間中はリンツの街の至る所でメディアアート作品に触れることが出来ます。市民が集う旧市街地の中央広場には特設のテントが設置され、オープンな環境で作品を楽しむことが出来ます。

川島高さんの作品『Takashi's Season』は日が暮れてからこちらの広場で実演されました。日本の四季を影絵で表現した作品には多くの地元の人たちが足をとめていました。なお、川島さんは、『Open the Blind」という作品が、前回のメディア芸術祭で推薦作品に選ばれています。

また、アルスエレクトロニカの会期中にはワイン祭りが開かれます。旧市街の路地に所狭しとテントの屋台が立ち並び、様々なワインを楽しむことが出来、連日大勢の地元の人々でにぎわいます。

■2011年サイバーアーツセンターが大阪にオープン
9月1日ブルックナーハウスで大勢の報道陣を迎えて記者発表が行なわれました。内容はアルスエレクトロニカ・センターと関西テレビ放送が提携し、2011年に大阪駅北側の再開発区域にサイバーアーツ・センター(仮称)を建設するというものでした。また、2007年冬からはアルスエレクトロニカの協力のもと、大阪でのメディアアートフェスティバルの開催も予定しているとのことでした。
■まとめ
今年で27回目を数えたアルスエレクトロニカ。30周年に向けて更なるステップを歩み始めているようです。2009年にはリンツに新たなアルスエレクトロニカ・センターのオープンも決定し、リンツが世界のメディアアートの拠点として着実に足場を固めつつあることを実感しました。
同時に自由なメディアアートの祭典から、街をあげての一大イベントに成長した現在、主催・運営などにも政治的な思惑が垣間見ることができます。今年の受賞式が受賞者よりもスポンサーを紹介することに大きく時間をさかれたのもその一例ではないでしょうか。

アルスエレクトロニカがますます大きなイベントに成長するなか、いかにアート本来の自由な空気を保つことができるのかが今後の課題かもしれません。
アルスエレクトロニカの未来像についてフェスティバルディレクターのゲルフリード・ストッカー氏にもインタビューを行ないました。詳細は後日レポートする予定です。

レポート 湧井 まいこ(CG-ARTS協会)

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