海外フェスティバルレポート

Arts Electronica 2009 レポート

左:中央広場 右:アルスエレクトロニカセンター

左:中央広場 右:アルスエレクトロニカセンター

開催地 オーストリア・リンツ
会場 アルスエレクトロニカセンター、OKセンター他
開催期間 2009年9月3日(木)〜9月8日(火)
URL http://www.aec.at/

ウィーンとザルツブルグの中間に位置するオーストリアの都市リンツは、ヨーロッパ最大のメディアアート・フェスティバルであるアルスエレクトロニカの開催地である。アルスエレクトロニカが30周年を迎える今年、リンツは欧州文化首都に指定された。欧州文化首都となった都市では、1年間にわたり集中的に各種の文化行事を展開する。2009年のリンツは、年明け1月に行なわれたアルスエレクトロニカセンターのリニューアルオープンで華々しくスタートが切られた。そのセンターを中心に、華やかで活気あふれるアルスエレクトロニカ2009のようすをレポートする。

■ ARS ELECTRONICA(アルスエレクトロニカ)とは?

アルスエレクトロニカは、今日では、リンツの町中を巻き込んだ一大フェスティバルとして世界中に知られるようになったが、1979年に単独開催ではなく「音楽祭」の併設イベントとして開催されたのが始まりだった。当時、これほど発展すると、だれが予想できただろうか。

現在は大きく分けて4つの部門がある。「アルスエレクトロニカ賞(Prix Ars Electronica)」というコンペティション。賞と連動した「フェスティバル(Ars Electronica Festival)」。優秀作品の常設展示や企画展などを行なう「センター(Ars Electronica Center)」。そして、新しいメディアアートを社会に実装するための創作活動を行なう「フューチャーラボ(Ars Electronica Futurelab)」である。毎年9月のフェスティバル期間中には、アルスエレクトロニカ賞の受賞式と作品展示、そして多くの関連イベントが開催されるため、一般に、アルスエレクトロニカといえばこの時期のフェスティバルを指すことが多く、世界中から来場者が集まってくる。今年の総来場者数は6日間で72,500人、アーティストやスピーカーは31ヵ国から800人、マスコミやジャーナリストは38ヵ国から565人で、来場者数は昨年から2倍以上になり、30周年にふさわしい結果を残した。

 多くの人でにぎわう広場

多くの人でにぎわう広場

会場内のメインギャラリー

会場内のメインギャラリー

■今年のテーマは「HUMAN NATURE」

今年のフェスティバルのテーマは「HUMAN NATURE(人間性)」それは、科学の進化による技術の向上が人類に与える影響について、真っ向から対峙し、アルスエレクトロニカが設立当初から続けてきたアートとテクノロジーと社会が相互につながる領域で生みだされていくさまざまな対話を主題とし、人間の根底にある好奇心を真摯に追求し、対話を続けていく姿勢を改めて提言している。このテーマに基づき、フェスティバル期間内には多くのカンファレンスが開催された。

自然を再認識するという意味を込めた「HUMAN NATURE」

自然を再認識するという意味を込めた「HUMAN NATURE」

展示風景

展示風景

「HUMAN NATURE」と題された4回にわたるカンファレンスの初回には、センターのメインギャラリーに登場した人間型ロボット『ジェミノイド』(ブログ参照)の開発者である大阪大学の石黒浩教授と、現在、世界のメディア研究を代表する理論家として知られるフンボルト大学のフリードリッヒ・キットラー教授によるプレゼンテーションとセッションが行なわれた。倫理感宗教感が異なるふたりの対談では、ロボットを分身と見なす事ができるのかといった観点に認識・意見の相違が明確になったが、両者の研究や提言をつくり上げてきたことを理解できる有意義な対談であったといえるだろう。

フリードリッヒ・キットラー教授

フリードリッヒ・キットラー教授

来場者も巻き込み、盛りあがったセッション

来場者も巻き込み、盛りあがったセッション

また、昨今、クラウドコンピューティングという言葉を耳にするようになったが、インターネットの社会的な意義を問い直すクラウドシンポジウムも開催された。さらに、今年は節目となる年ということで、記念イベント・展示も多く準備され、さまざまな分野の専門家が異なる視点でアルスエレクトロニカ30年の歴史を振り返るヒストリートークが開催された。全部で8回のトークのうち、6回目のトークには、来年2月に東京都現代美術館にて開催される『サイバーアーツジャパン アルスエレクトロニカの30年』の担当キュレイター、森山朋絵氏が参加。近年のアルスエレクトロニカでは、日本人の参加者が目立つが、その要因とも言える貴重なエピソードが写真資料とともに紹介されていた。(ブログ参照) また、会期中にはライブイベントも催され、毎年そのゲストには注目が集まっている。今年は、デジタルミュージックシーンで異彩を放ってきた池田亮司氏とサウンド・アート界の重鎮カールステン・ニコライ氏によるライブが行なわれた。伝統的な建築様式のホールで、池田亮司の持ち味であるパルス音やノイズ、周囲が振動するほどの低音を使ったサウンドと、数字やドットで構成された映像が次々と展開された。(ブログ参照) これらの会場だったブルックナーハウスでは、授賞式とガラパーティー、「HUMAN NATURE」展が開催されただけでなく、30周年を回顧する特別展示も行なわれており、本来、展示を目的とした場所ではないにもかかわらず、アルスエレクトロニカの中枢機関としての役割を担っていた。

カンファレンスが開催されれた扇形のコンサートホール、ブルックナーハウス

カンファレンスが開催されれた扇形のコンサートホール、ブルックナーハウス

アルスエレクトロニカの30年の歩みを伝える展示

アルスエレクトロニカの30年の歩みを伝える展示

■コンペティション「Prix Ars Electronica」

「Prix Ars Electronica」と呼ばれるコンペティションは、1987年より開催されている。今年は、世界68ヵ国3,017作品の応募があり、そのなかから国際的な審査委員によって8作品の「Golden Nicas(最優秀賞)」と、13作品の「Award of Distinction(優秀賞)」、70作品以上の「Honorary Mentions(栄誉賞)」が選ばれた。賞名の通り、最優秀賞には金色のニケ像(ゴールデンニカ)が手渡される授賞式は、アルスエレクトロニカのハイライトである。受賞作品の一部がサイバーアーツ2009展としてOKセンターで展示され、今回はハイブリッドアート部門とインタラクティブ部門の受賞作品が中心だった。 ここで、ゴールデンニカを受賞した8作品を紹介しよう。

コンピュータアニメーション部門

『HA'Aki』
Iriz Paabo (スウェーデン/カナダ) / National Filmboard of Canada
http://www3.nfb.ca/webextension/haaki/

カナダの国技であるアイスホッケーをテーマにした短編アニメーション作品で、タイトルは”hockey”の発音になっている。“animbits”という独特の視覚表現を用いながら、映像とサウンドが同時進行で制作された。カナダ出身でありながら作者はアイスホッケーの大ファンというわけではないが、1960年代から70年代に活躍したスター選手からインスピレーションを受け、アイスホッケーに対する新しい解釈をこの作品で提示している。

デジタルミュージック部門

『Speeds of Time versions 1 and 2』
Bill Fontana (アメリカ)
http://resoundings.org/

町全体を舞台に音の彫刻をつくりだしたプロジェクト。音源はロンドンのビック・ベンの鐘の音だ。この時計塔に設置されたマイクロフォンを基点として、周辺の住宅の屋根に設置されたマイクロフォンとでネットワークを構築し、秒速1116.4フィートで進む音を拾いあげる。基点より遠ざかるほど遅れて捉えられる音を組みあわせることで、ロンドンの町を音で感じることができる。

ハイブリットアート部門

『Natural History of the Enigma』
Eduardo Kac (アメリカ) with his scientific partners Neil Olszewski, Department of Plant Biology and Neil Anderson, Department of Horticultural Science, University of Minnesota, St. Paul, MN
http://www.ekac.org

これは、新たに制作された種を作品としている。作家自身のDNAをツクバネアサガオのDNAと入れ替えることで、新しい生命体をつくり出した。ツクバネアサガオにとっては異物と認識される染色体を移植し、それが認識されたことで、生命体が誕生したと見なしている。

インタラクティブアート部門

『Nemo Observatorium』
Lawrence Malstaf (ベルギー), Courtesy Galerie Fortlaan 17 - Gent (ベルギー)
http://www.fortlaan17.com/eng/artists/malstaf

この装置は、ビニールの円筒と5台のファンを使用し、サイクロンをつくり出す。なかに入ると人は混乱しながらも夢中になってしまう。数千もの細かなポリスチレンが宙を舞い、まさに台風の目にいる感覚を得ることになる。周囲を舞うポリスチレンに気を取られる取られないに関らず、嵐の中は実は落ち着いた環境が作り出されている。作家は、急速に変化する世界にいながら、冷静さを保とうとする意識を迫力ある方法で隠喩することに成功している。

デジタルコミュニティー部門

『HiperBarrio』
http://hiperbarrio.org

“HiperBarrio”は、ふたつの組織から成る若者向けブログコミュニティ。当初、コロンビアのメデジンにて、Alvaro Ramirezによるビデオを使ったブログ制作のワークショップとJuliana Rincon およびJorge Montoyaによるメディアワークショップの提案があった。最終的には、それがメデジンの公立図書館とのコラボレーションとして実現、ブログ制作、ワークショップ、イベントを組織していくことになった。地域に焦点を当てながら、世界に向けて情報を発信していくことで、“HiperBarrio”はさまざまな活動を地域とその外へ広げることを可能にした。

メディアアートリサーチアワード部門

『Eye hEar: Music, Art, Film & the Culture of Synaesthesia』
Simon Shaw-Miller (イギリス)
http://hiperbarrio.org

本年度のメディアアートリサーチ・アワードは、美術史家でロンドンのBirkbeck College講師であるSimon Shaw-Miller氏の“Eye hEar: Music, Art, Film & the Culture of Synesthesia”(目と耳−音楽、芸術、映像、文化の共感覚)に贈呈された。

音楽の視覚的な側面を緻密で包括的に論じている。特に19世紀初頭から20世紀のさまざまな分野におよぶ共感覚の概念を明らかにしている。さらに同氏は、どのような違いが、そうした異なる分野を包括した内容を理解するのに用いられるかという方法を提唱しており、特に効果的なのは、綿密なケーススタディと、視覚および音響要素の美的感覚の違いに関する理論的な調査の組み合わせだとしている。百科事典的ともいえるアプローチは、さまざまな時代やジャンル、そして哲学に対する知識の幅広さを証明している。この論文は、2002年にイェール大学より出版された“Visible Deeds of Music”を発展させたもの。美術史家が音楽をどう“観るか”という主題を検証した特殊な論文である。通常は、芸術、音楽学、メディア研究、哲学といった複数のテーマを含むことは難しいが、彼の手法はこうした多様な分野を包括する研究を可能にしている。

u19部門

『In den Tiefen』
Matej Petrek (オーストリア)

偶然にも自分のパソコンにCinema 4Dのソフトを見つけ、試しにモデリングをしてみると、アニメーションをつくってみたくなったという。これは、そんなきっかけで作られた短編アニメーション作品だ。3匹の深海魚が主人公となり、どこかにあるといわれるビック・ライトを探す物語。

ネクストアイデア部門

『Open_Sailing_Crew』
http://www.opensailing.net

多分野の専門家が参加するオープンソースを使った国際的なプロジェクト。環境破壊や温暖化など、現在直面している問題を克服し、魅力的な未来を想像しようと、次世代に向けて地球で生きていくための海に浮かぶ生活空間、実験区間の開発を提言。



■アルスエレクトロニカセンターのリニューアル

1月にリニューアルオープンしたアルスエレクトロニカセンターは、展示施設も大幅に拡張され、フロアごとに常設展や企画展を行なっている。今回のフェスティバルにあわせて開催された「デバイス・アート・プロジェクト」では、クワクボリョウタ氏や児玉幸子氏など、文化庁メディア芸術祭の歴代受賞者の名前を見つけることができる。「デバイス・アート」が西洋の文脈ではまだ馴染みがないことを前提に、筑波大学の岩田洋夫教授が次のようにカタログに定義している。

  • 1.デバイス自体がコンテンツになる。
  • 2.作品がプレイフルで、積極的に商品化される。
  • 3.道具への美意識といった、日本古来の文化との関連性がある

日本国内でも、デバイス・アートという言葉は聞きなれないが、海外のこうしたフェスティバルで、はっきりとした提言などを積み重ねることによって国際的な周知が広がっていくだろう。メディア芸術祭も、「デバイス・アート」を含めたメディア芸術の定義を提示していく必要性を再認識した。
センターの特徴として、会場のいたる所で、親しみのある手描きドローイングによるサインを見つけることができる。このドローイングは、アルスエレクトロニカに従事している小川絵美子氏によるものだ。最先端技術の表現方法を推奨するセンターのなかで、愛着を感じるハンドドローイングがやわらかな彩りをそえており、こういった部分で日本人の活躍を知れることは大変嬉しいことである。

■文化庁メディア芸術祭リンツ展 JAPAN GAME/JAPAN ANIMATION

メディア芸術祭は2003年よりアルスエレクトロニカと提携し、例年アニメーション上映を実施しているが、今年は30周年記念ということで、リンツの中心にある中央広場ハウプトプラッツでサテライト展を行なった。日本のメディア芸術を広く知ってもらうため、前述のデバイス・アート・プロジェクトを念頭に置きつつ、文化庁メディア芸術祭ウィーン展とは志向が異なる内容を提示すること、そして会場となる公共広場の特性から世代を問わずだれもが楽しめる環境を提供することを考慮し、エンターテインメント部門からゲーム作品の優秀作品を紹介。日本のゲームの礎を築いた1980年代の作品群から最新作を、その歴史をひも解くドイツ語パネルとともに展示した。

とりあげたのは『スーパーマリオブラザース』、『ゼビウス』、『ドンキーコング』、『パックマン』、『太鼓の達人』、『PixelJunk Eden』, 『RezHD』『モンスターハンターポータブル 2nd』、『大乱闘スマッシュブラザーズX』、『WiiSport』 、『ワールドサッカー ウィニングイレブン2010』、『New スーパーマリオブラザーズ』の13作品。

予想をはるかに超える来場者を迎え、6日間の総来場者は15,899人となった。公共広場という立地と、無料イベントであったこと、そしてフェスティバル会期中の町中の盛り上がりが相乗効果となり、多くの人々が日本のゲームに触れ、楽しめる機会を提供できたことを非常に嬉しく感じている。アルスエレクトロニカの一環として開催された「JAPAN GAME」は、アートフェスティバルの一部としてゲームの展示を行なったため、これまでゲームとアートを結びつけることがなかった多くの来場者にとって、ゲームの魅力や高い表現技術だけでなく、ゲームの捉え方自体を変えるきっかけを提供できたことは大きな成果であった。

サイバーアート展が開催されていたOKセンターの上映施設では、アルスエレクトロニカの受賞作品のほか、本年度のSIGGRAPHやメディア芸術祭の上映プログラムも含まれており、昨年に続いて、第12回メディア芸術祭アート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門より、13作品約1時間のプログラムを紹介した。アニメーションだけではなく、CM作品なども入ったバリエーションのあるプログラムに、会場からは笑い声もあがり、好評を博した。

リンツ展の会場となった特設テント

リンツ展の会場となった特設テント

テント内での展示のようす

テント内での展示のようす

■その他関連イベント

アルスエレクトロニカの対岸にあるレントス美術館では、会期に合わせてSEE THIS SOUND展(2009年8月28日-2010年1月10日)が開催されていた。タイトルの通り、音をテーマに、メディアアートの先駆的なナムジュンパイクや具体美術協会の田中敦子、オノヨーコの作品など、20世紀に制作された音に関する世界中の作品をたっぷりと堪能・体験できる贅沢な展覧会だった。
毎年、世界中からひとつの教育機関を選び、学生や卒業生、教師陣によって作品展が開催されるキャンパス展。今年は、「IMPETUS(衝撃)」というタイトルで、マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボによる開催だった。MITメディアラボには、現在30ものリサーチグループがあるが、その先駆的なプロジェクトは世界の注目を集めている。MITメディアラボで学ぶ学生による展示作品はバリエーションに富み、今後の可能性を感じさせた。

「SEE THIS SOUND」展が開かれたレントス美術館

「SEE THIS SOUND」展が開かれたレントス美術館

音に関する作品を体感できる展覧会

音に関する作品を体感できる展覧会

■まとめ

市民とのつながり。これが、アルスエレクトロニカ30周年の成果だと感じるほど、市民との距離が密接なフェスティバルという印象を強く受けた。「JAPAN GAME」の運営に携わったウィーンの大学に通う学生たちは、夏休みを利用しながらアルスエレクトロニカに参加していた。理由は明快だ。「年に一度、新しいものと人が、世界中からリンツに集まってくる」。若者にしっかりと定着しているその意識の礎は、この30年、市民を巻き込んできたことで着実に築かれている。最先端技術と表現という世界を先駆するメディアアートの発信地でありながら、地域に根ざし、市民に愛される活動を積極的に行なっているというすばらしい側面をもつアルスエレクトロニカ。定期的に開催されるメディアアート関連のフェスティバルは世界中に点在するが、常設のセンター施設はまだ少ないため、アルスエレクトロニカセンターはモデルケースとして各国の関係者が注目している。2009年、リンツが欧州文化首都になったことを契機に、リニューアルされたアルスエレクトロニカセンターは、これからのモデルケースにふさわしい、新たなる歴史に向けての一歩を踏み出したのである。

町中がアートに染まる

町中がアートに染まる

ライトアップされた中央広場

ライトアップされた中央広場

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