
左:中国美術館外観 右:『Name is An Anagram』 Magdalena REDRIN
中国における現代美術の状況は、目をみはるものがあり、フランスの美術情報サイト「artprice.com」によると、市場規模は、アメリカ、イギリスに次いで世界で3番目にまで成長している。今後、メディアアートにおいても中国は躍進していくのだろうか?
2008年北京オリンピックの文化イベントとして、メディアアート展「SYNTHETICTIMES - Media Art China 2008(媒体中国2008)」が、6月10日から7月3日まで中国美術館で開催された。「文化庁メディア芸術祭」の映像作品が上映されることもあり、開幕式と内覧会に出席したのでレポートしたい。
| 開催地 | : | 中国・北京 |
| 会場 | : | 中国美術館 |
| 開催期間 | : | 2008年6月10日(火)〜7月3日(木) |
| URL | : | http://www.mediartchina.org/ |
■北京オリンピックの文化イベントとしてのメディアアート展

『Waves』 Daniel PALASIOS JIMENEZ
中国における最初のメディアアートの展覧会は、2002年に北京で開催した「日本媒体芸術作品展」であると言われている。これは、日中国交正常化30周年を記念して行なわれた文化庁メディア芸術祭の企画展であった。
その後、欧米のメディアアートフェスティバルの巡回展や、欧米のキュレイターによる企画展などが開かれるようになり、昨年8月には「文化庁メディア芸術祭上海展」、秋には北京と広州で「美麗新世界:当代日本視覚文化」展なども開催されている。
「SYNTHETICTIMES=合成時代」と名づけられた本展は、主催が中国唯一の国立美術館である中国美術館であり、実行委員会会長は中央美術学院のファン・ディアン教授、芸術監督/キュレイターにはザン・ガー氏と、主催、企画、運営のすべてを中国自らが担っており、このような形態での開催は、私が知る限りにおいてははじめてである。
開幕式のようす
6月9日の午後5時から始まった開幕式には、500名をこえる人たちが集まり、とても盛大なようす。来場者の顔ぶれも国際色豊かで、アメリカ、イギリス、オーストリア、オランダ、カナダ、スイス、ドイツ、韓国、日本などから、アーティストやキュレイター、リサーチャー、メディアアートセンターやフェスティバルのディレクターたちが大勢出席していた。式典は中国らしく挨拶が延々と続き、欧米からのゲストたちはすこしくたびれている気配も。内覧会を挟んで、映像展示を行なうサテライト会場でのレセプション、夕食会と続き、すべてのプログラムが終わったのは10時半をまわっていた。
■巨大な展示スペースに世界から集められた作品が一同に
中国美術館での展示は、屋内4千5百平米と屋外2千平米の、非常に大きなスペースを使っている。屋内会場だけでも、近年、国立新美術館で開催している「文化庁メディア芸術祭」の展示スペースの2倍以上にもなる。世界29カ国のアーティストの作品が、「身体を超えて」「感情的なデジタル」「組みかえ型リアリティ」「ここでも、そこでも、どこでも」の4つのテーマにそって展示されているが、作品ごとに割りあてられているスペースも広く、また作品の世界観を丁寧に見せようとしていて、非常に好感が持てるものであった。
展示作品は40点あまり。アルス・エレクトロニカをはじめとする欧米の有力なメディアアートフェスティバルで、この数年話題になった作品も多い。印象としては6、7割ぐらいがそのような作品であろうか。難解な作品は少なく、体感的で理解しやすい作品が多く選ばれていた。世界レベルのよりすぐりのメディアアート作品がずらりと並ぶのだからおもしろくないわけがない。日本だけでなく欧米でも、なかなかこれだけの作品が揃うことは少ないのではないだろうか。
『Touch Me』 blendid(Collective)
『THE PATH OF DAMASTES』
Jean-Michel BRUYERE
『Noplace』Marek WALCZAK, Martin WATTENBERG with Rory SOLOMON, Jonathan FEINBERG
特に興味を持った作品をいくつか紹介しよう。
『You can with the breeze-2』 Mariana RONDON (ベネズエラ)
まっくらな空間に、ぼんやりと人の姿らしきものが揺らいでは消えていく。よく見ると赤ん坊や、いろんな人が映っている。大きなシャボン玉が自動形成され、そこに映像を投影している。解説によると、シャボン玉を子宮にみたて、現実とバーチャルリアリティーの関係や、遺伝子組みかえの問題を提起しようという試みだそうだ。
『Sound Drawing』 Kichul KIM (韓国)
「音」の視覚化に取りくんだ作品。まっしろな紙のうえでペンを動かすと、その動きにともなって音がでる。複数の人が同時にかくと複雑な音になっていく。単純ではあるが「音を描く」という作者の意図するところを、大勢の人が楽しんでいた。
『56L』 Henrik MENNE (デンマーク)
機械から放たれるスプレーのりによってつくられる彫刻作品。温められたスプレーのりが、ファンを通じて細い糸状になり、さまざまな方向に吹かれていく。オートマチックにコントロールされた反復運動で、まっしろな立体作品が次第にできあがっていく。
『VORTEX』 Christoph HILDEBRAND (ドイツ)
社会的、経済的、科学的な意味を有する210枚のアイコンパネルを、幅21メートル高さ3メートルにディスプレイした作品。点灯して動くアイコンパネルは、さまざまな言語によるテキストとなり、鑑賞者個々に独自の世界観を語るというもの。
■日本からはエキソニモだけが出展
このような作品に混じって、中国人アーティストによる作品や、日本や韓国など、アジアからの作品も出展されている。個人的には、中国に来たのだから、中国人アーティストの作品をもっと見たかった、というのも正直な感想。
『Object B VS』とエキソニモ本人
日本からは唯一、エキソニモの『Object B VS』が出展。エキソニモによると、海外フェスティバルに出展していた作品を、キュレイターのザン・ガーが見て、声がかかったとのこと。日本人の作品が少なかったのは残念だが、サテライト会場である天安門東側の北京皇城芸術館では、「文化庁メディア芸術祭」の映像作品が上映された。中国では日本動漫(アニメーションとマンガ)の人気が高いので、今回の上映もきっと人気を集めることだろう。
■まとめ
『Walking Head』 Stelarc
全体としての感想は、最近見たメディアアートの展覧会のなかでも、規模的にも内容的にもすばらしかったのだが、何か物足りなさを感じたのも事実である。それは、多くの作品が海外のフェスティバルなどですでに評価を受けたものであり、中国自らが新たな枠組みやコンテクストを世界に向けてプレゼンテーションするという展覧会ではなく、あくまでも既存のメディアアートの範囲での優等生的な展覧会であったからだと思う。
ただ、そのようなことは彼らも重々承知のうえで、まずは中国の若い世代に世界レベルのメディアアートを体験させ、中国ならではのメディアアートをアピールしていくのは次の段階で、と、考えているのかもしれない。
阿部芳久(CG-ARTS協会)



