

去る8月に開催された、ブラジルのメディアアートフェスティバル「FILE Sao Paulo 2008」にて、ネットアートプロジェクト『Archidemo-Architecture in Metaverse』の展示とシンポジウム講演を行なった渡邊英徳氏のレポートをお届けします。
| 開催地 | : | ブラジル・サンパウロ |
| 会場 | : | SESI Art Gallery |
| 開催期間 | : | 2008年8月5日(火)〜8月31日(日) |
| URL | : | http://www.file.org.br/ |
■急成長中のエネルギーに満ちた都市、サンパウロ

「FILE」(Electrical Language International Festival)は、ブラジルで開催されるメディアアートフェスティバルです。サンパウロ・リオデジャネイロ・ポルトアルグレなど、ブラジルの大都市を巡回して開催されます。今回、私はサンパウロで開催された「FILE Sao Paulo 2008」に参加しました。
サンパウロは非常に大きな都市で、大サンパウロ圏の人口は約1,100万人以上。しかも、さらに増え続けているといわれています。地震のない土地柄から、多数の高層ビルが新旧とり混ぜて森のように立ちならんでいますが、その足元には路上生活者が多数生活しています。また、仮設トイレが多数立ちならぶ広場など、東京の街なみに慣れた眼にもまさに“異国”。急成長中のエネルギーに満ちた都市でした。
また、ガイドのかたが言うには、ブラジルは“人種差別がまったく存在しない”国とのこと。確かに、市内の憩いの場であるイブラピエラ公園で、さまざまな人種の若者たちが一緒にピクニックを楽しむようすが印象的でした。ポジティブな“分け隔てのなさ” “こだわりのなさ”がこの国の人々の強みなのかも知れません。これはFILEフェスティバルの魅力にそのまま繋がっています。
サンパウロには、約62,000人の日本人が居住するリベルダーデ(日本人街)も存在することから、特に日本人にとってなじみのある都市ともいえます。実際、宿泊したホテルのフロントのかたも日本語OKで、それほど不自由なく過ごすことができました。とはいえ、ブラジルの大都市圏、特にサンパウロは治安が決してよくないという事前情報もあり、少々緊張しつつ会場に向かいました。
■“遊んで”楽しめる和やかな雰囲気に包まれたメディアアートフェスティバル

会場はSESI Art Gallery。市内の目抜き通りであるパウリスタ大通りに面し、サンパウロ美術館のほぼ向かい側に建つ、モダンな雰囲気の建物です。平日の昼間にもかかわらず、老若男女問わず、かなりの数の人が来場していました。
FILE Sao Paulo 2008では、ネットアート展示の「FILE media art」、インタラクティブアートを展示する「FILE installations」、ゲーム展示の「FILE games」、各国からアーティストが集まり講演を行なう「FILE symposium」、そして映像祭である「FILE Hypersonica」が同時に開催されました。期間は8月5日〜8月31日までと、かなり長期にわたるフェスティバルです。
ワンフロアの会場全体にわたって、「FILE media art」、「FILE installations」の作品群が展示されています。「FILE media art」のネットアート作品群はPCで実際に体験することができます。私の出展作品『Architecture in Metaverse』は、ここで展示されていました。
インタラクティブアートの展示である「FILE installations」のコーナーで注目を浴びていたのは以下の2作品。松尾高弘さん(日本)の『FANTASM』、そしてJulio OBELLEIRO + Alberto GARCIA(スペイン)の『The Magic Touch』です。
『FANTASM』は、ARS ELECTRONICAやSIGGRAPH 2008でも展示された作品。赤く発光するボールの動きに連れて光の蝶が舞い踊ります。この作品が持つ日本的で静かな雰囲気は、現地の人々の人気も集めていたようです。
「FILE media art」のネットアート作品群紹介のようす
『FANTASM』 松尾 高弘
『The Magic Torch』 Julio OBELLEIRO + Alberto GARCIA
『The Magic Torch』は、光を放つトーチを振りまわすことで、スクリーン上に宇宙空間やキャラクターなど、さまざまな映像がインタラクティブに展開していくコミカルな作品です。こちらも2006年のARS ELECTRONICAで展示されていましたが、2年の時を経て、さらに色々なギミックが加えられていました。
以下は、会場内のようす。日本のメディアアートフェスティバルと比べて、来場者の皆さんが笑顔で(中には大笑いしながら)楽しんでいるようすがとても新鮮でした。



先端テクノロジーを活かしたアート作品を展示するコーナー「FILE Innovation」は、SIGGRAPHのE-techに相当します。そのなかで私がもっとも楽しめた作品は、Steger produção de efeitos especiais ltda.(ブラジル)による『Simulador de Ondas e Simulador de Turbilhao』(波のシミュレータと回転のシミュレータ)でした。
テーマそのものはとても専門的。しかし、体験した来場者はみな、つい笑ってしまう楽しい作品となっています。見た目といい音といい、まるで、透明な洗濯機のなかを覗いているような体験でした。
会場にいるスタッフは、さすがブラジルというべきか、たいへんフレンドリー。来場者がぼーっと立っていると、必ずにこやかに話しかけ、作品の楽しみかたをナビゲーションしてくれます。会場全体が和やかで楽しげな雰囲気に包まれていて、来場者も“美術展示の鑑賞”というよりは“遊園地に遊びにきている”ような感覚で楽しんでいました。子どもたちも、はしゃぎながらまさに“遊んで”います。
こんなにいきいきとしたアートフェスティバルを、1ヵ月間ゆったりと、しかも無料で楽しむことができるブラジルの人々をとてもうらやましく感じました。



■熱っぽい雰囲気につつまれたシンポジウム
開場前のシンポジウム会場
展示を楽しんだあとは、「FILE Symposium」に参加です。シンポジウムは展覧会と同じSESI Art Galleryの上階にて行なわれます。
シンポジウム会場はそれほど広くはなく、上階にある割にアンダーグラウンド(?)な雰囲気。ブラジルでは基本的にポルトガル語以外通じない(なんと、SESI Art Galleryの受付でも英語が通じない)のですが、FILEのスタッフはみな英語が堪能なので、会場前の打ちあわせもスムーズに行なえました。
しばらくすると開場し、あっという間に8割がた席が埋まりました。階下の展示会場とはうってかわって、来場者は真剣そのもの。公園と同じく、さまざまな人種の来場者が同席しているようすが興味深いです。各発表者は20分プレゼンテーション+10分質疑応答=合計30分のもち時間で講演します。
Agnus VALENTE氏による発表のもよう
右の画像はブラジルのAgnus VALENTEによる『Aesthetic and political intervention in the Digital City: VENDOGRATUITAMENTE.COM』の発表。内容はかなり専門的で高度でしたが、来場者はとても熱心に聞きいっています。シンポジウムはどの発表においても、10分の質疑応答の時間がきっちり無くなるほど、積極的な質問が飛び交い、熱っぽい雰囲気でした。また、会場では同時通訳が用意されており、レクチャーの内容をポルトガル語と英語で聞くことができるようになっています。

シンポジウムのようす
当日のシンポジウムでは日本人参加者として慶應義塾大学先導研究センター特別研究助教授の徳久悟さんと私が参加しました。
徳久さんは『Nervixxx: An entertainment system for VJ performance with EMG and EEG』を、私は『Archidemo: Architecture in Metaverse』をそれぞれ発表しました。
■まとめ
FILE Sao Paulo 2008の会場は決して広くはなく、展示作品の数もそれほど多くありません。また、最新の作品ばかりが集められているわけではなく、過去にSIGGRAPHやARS ELECTRONICAなど欧米諸国で発表された作品も含まれています。しかし、スタッフと来場者がつくりあげている温かい空気、華やいだ雰囲気は、特に日本から訪れた私にとって新鮮で、好ましく思えるものでした。
そこにあるのは、会社帰りや学校帰りに気軽に立ち寄り、笑顔で楽しむメディアアートの空間でした。日常のなかに無理なく存在しており、きどった展覧会とはまったく異なる“アートの場”がつくられています。今後、日本で開催されていくアートフェスティバルにも、この空間を輸入してみたいものだ、と強く感じました。この記事をお読みになったみなさんも、機会があればぜひ、地球の反対側で開かれる「FILE」の空間を訪れてみてください。
渡邉 英徳 (フォトン代表/首都大学東京准教授)
※渡邉氏はこちらでFILEの作品やシンポジウムのようすを動画で公開しています。



