
左:メイン会場のシンガポール経営大学(SMU) 右:会場のSMUや博物館が集中するシンガポール市街地
| 開催地 | : | シンガポール |
| 会場 | : | シンガポール経営大学、シンガポール国立大学、南洋理工大学、 シンガポール国立博物館ほか |
| 開催期間 | : | 2008年7月25日(金)〜8月3日(日) |
| URL | : | http://www.isea2008singapore.org/ |
■多様な文化圏からメディアアートの専門家が集う国際学会
電子芸術の国際的シンポジウムISEA(International Symposium on Electronic Art)が2008年シンガポールにて行なわれた。本大会は毎年欧州・北米・アジアなどの都市を巡回している。参加者のほとんどは発表者・展示出品者・企画関係者であり、オセアニア、アジアを筆頭に、南北アメリカ、ヨーロッパ各国からアート&テクノロジーの分野で活動するキュレイター、研究者、教育者、技術者、ミュージシャン、アーティストなどが一堂に会した。
本大会は、7月25日から8月3日にかけての基調講演、シンポジウム、ワークショップ、交流イベント、公募展、各国のキュレイターが企画したパートナー展示やパフォーマンスなどのイベントと、コアとなる7月26日から30日までの学会発表とで構成されている。学会の発表内容としては、メディア社会学やメディアアート史、インタラクティブアートやVRなどの技術系の論文やアートプロジェクトのデモなどが多い。メイン会場のシンガポール経営大学の教室等で各30分、約300本の発表が同時進行し、聴衆と発表者の顔がお互いに見えるようなアットホームな雰囲気で行なわれた。
公募展会場のシンガポール国立博物館はシンガポール経営大学に隣接し、パートナー展示もほぼ徒歩圏内で開催。また、シンガポール政府の補助金もあり、遠隔地の講演会場への送迎バス、入場無料・市民開放型の展示、大会開催前からのアーティスト・イン・レジデンスのサポートや、連日の学会会場での軽食ビュッフェ&ドリンク提供など、小規模な国際学会としては非常にホスピタリティが行き届いた印象であった。

伝統的な人形劇からバーチャル人形劇へ〜実験的なワヤン・クリッのMR技術についての報告(Semi RYU, Stefano FARALLI, Paolo BOTTONI, Anna LABELLA)

草原真知子氏(早稲田大学)による日本のデバイスアートに関する研究発表。岩井俊雄、クワクボリョウタらの商品化された作品を紹介

国立博物館講堂で行なわれた、山口情報芸術センターの福田幹氏+ダムタイプの藤本隆行氏によるプレゼンテーション
■ISEA 2008 公募展
シンガポール国立博物館で行なわれた公募展(ISEA 2008 Juried Exhibition)では、アーティスト・イン・レジデンスの成果である16作品が展示された。今回の大会テーマは5つ、「Locating Media, Reality Jam, Wiki Wiki, Ludic Interfaces, and Border Transmissions」である。方向的には、音や匂いや脳波、ボディー・ランゲージなどを使った新しいインターフェース、VR/MRによる没入型技術、現実と空想、作者と観客の越境(オープンソース&ユーザー参加)、メディア・地域・分野間の越境によるプロジェクトをご想像いただければよいかと思う。これらのテーマにそった企画書によって選定されたアーティストたちは、シンガポール国立大学に3ヵ月間滞在し、地元の各分野の研究所の技術協力を得ながら作品制作を行なった。

レジデンス拠点のシンガポール国立大学

シンガポール国立博物館

ISEA 公募展風景(国立博物館B1F)
フィリピンのTad ERMITANOによる『Quartet』は、観客が指揮台の上で特定のジェスチュアをするとビデオセンサーによって4つの民族楽器が指示通りのペースで自動演奏するインスタレーション。日米を拠点に活動する鳥光桃代(TORIMITSU Momoyo)の『Smile :-), Wear It Like a Costume!』は、観客の顔を認知し、さまざまなニュアンスの笑顔をアニメーションで自動生成する装置。シンガポール国立大学の顔研究グループの技術協力と、シンガポール人の笑顔パターンを収集・分析した成果が活きている。
また、レジデンスの特徴として、地域社会に根ざした作品も多く、『Does it make scents to have fun?』(マカオのMei-Kei LA)では、ガラス瓶の画像をクリックすると市内のさまざまな場所の匂いが出てくる仕掛けがあり、シンガポールの水の供給問題を扱った『Sourcing Water』(日本在住のGeorg TREMMEL, 福原志保, 長尾陽介)、海岸からシンガポール市街地にかけてのサウンドスケープが画面と共に出てくる『Run Silent; Run Deep』(オーストラリア拠点のNigel HELYER, Dr Daniel WOO)などがこれに該当する。これらの参加アーティストによるプレゼンテーションも会期中に行なわれ、大会の目玉イベントとなっていた。

『Quartet』 Tad ERMITANO

『Smile :-), Wear It Like a Costume!』
鳥光 桃代

『Run Silent; Run Deep 』
Nigel HELYER, Dr Daniel WOO
■市外数ヵ所で開催されたパートナー展示
オーストラリアのキュレイターが選んだ「Experimenta Play ++」展(会場:Sculpture Square)では、「Ludic Interfaces(遊び心のあるインターフェース)」というテーマで選ばれたインタラクティブアート作品5点が展示され、どれもほほ笑ましさや親密さの感じられる作品群ばかりであった。
『ZiZi the Afffectionate Couch』(Stephen BARRASS, Linda DAVY, Robert DAVY, Kerry RICHENS)は、なでると飼い犬のようにクゥクゥ鳴くファーのソファ、『The Shy Picture』(Narinda REEDERS, David MACLEOD)は、その名の通り、額に入った古風なファミリーポートレート風の白黒映像に観客が近寄ると、映像のなかの人物が部屋に逃げ隠れ、離れてしばらくすると恐る恐る出てくる仕掛けがある。『Charmed』(Priscilla BRACKS, Gavin SADE, Matt DWYER)は、小さな丸みのあるディスプレイに、街や住宅やキャラクターのイラストが映し出され、デバイスを動かしたり画面に触れたりすると見えるエリアやサウンドが変わるもの。オープニングパーティーでは、作品と戯れる小さな子どもから大人の観客までが途切れない状態がつづいた。

『Charmed』
Priscilla BRACKS, Gavin SADE, Matt DWYER

『The Shy Picture』
Narinda REEDERS, David MACLEOD
ニュージーランドからは「Cloudland:Digital Art from Aotearoa New Zealand」と題する展示がギャラリースペースThe Substationで行なわれた。Aotearoaとは“白く長い雲”を意味するマオリ語で、ニュージーランドの別称でもある。Alex MONTEITHの『Composition for farmer, three dogs and 120 sheep』は、草原で放牧された羊を延々と撮影したパノラマ映像と立体サウンドが流れ、その壮大なスローライフぶりに癒される映像インスタレーション。
Len LYEはニュージーランドでは非常によく知られた現代美術作家で、フィルムに直接プリント・ペイント・スクラッチをした映像作品『Free Radicals』を出品した。福岡生まれでニュージーランド育ちのYAMADA Kentaroはマイクとその音にさまざまな表情で反応するポートレート映像で構成された『Listening Heads』を出品。本展示はAotearoa Digital Arts(ADA)というアーティスト団体がニュージーランド政府機関・財団および関連大学からの支援を受けて運営している。

『Composition for farmer…』 Alex MONTEITH

『Listening Heads』 YAMADA Kentaro
■南洋理工大学におけるプログラム
会期半ばの7月27日(日)だけは、メイン会場のシンガポール経営大学からハイウェイで40分くらいの距離にある、南洋理工大学(Nanyang Technological University)のアート・デザイン・メディア学部でプログラムが実施された。一般の論文発表のほか、「著作権とクリエイティブコモンズ」、「タイのメディアアートとデザイン」、「メディアアート教育」など、テーマごとのフォーラム、アーティストのためのオープンソース言語ワークショップ、そして南洋技術大学メディアイノベーション研究所による興味深い展示「Demo−Graphics」が開催されていた。メディアアート教育に関するフォーラム「At the Crossroads of Media Arts & Science and Technology 21世紀の教育はどうあるべきか?」では、オーガナイザーたちがワークショップ形式で観客を小グループに分け、テーマごとの討論をまとめるという形式で展開。国際色豊かな顔合わせで、2時間に渡って議論がくりひろげられた。
夕方に講堂で行なわれたLawrence LESSIG(スタンフォード大学ロースクール教授、クリエイティブコモンズ理事)による基調講演「The Proper(and Essential)Place for Copyright」では、You Tubeからのパロディ映像を多用したスライド&辛口トークが会場に大うけしていた。全体にリベラルな考えかたを推す趣向が強いのもこの学会の特徴であろう。

南洋技術大学(NTU)

Lawrence LESSIGの基調講演

メディア芸術教育フォーラム
■まとめ
今回ISEAに参加した印象は、非常にクロスカルチャーでオープンマインドな雰囲気である。そもそもシンガポールという場自体が多民族国家で、英語を武器にアジアのIT産業拠点として東西をつなぐハブになっており、さらにISEAの中心メンバーやレジデンスアーティストをはじめ、発表者の多くがグローバルに活動する研究者やつくり手であることにも起因している。北米出身でシンガポールや香港の大学で教鞭をとる専門家、アジア系アメリカ人研究者、故国を飛びだして活動するアーティスト、多国籍コラボレーションのプロジェクトチームなどが、それぞれのアイデンティティや文化的資産、専門的なバックグラウンドを尊重しながらも、新しいメディアでグローバルな表現を試みているようすが壮観できる貴重な場であった。
2009年のISEA国際大会は北アイルランドのベルファストで開催されることが決定しており、その地の状況に根ざした熱い議論が展開することが予想される。大会ごとに国際委員会が組織され、新たな公式サイトが開かれるため、今後の情報については以下を参照されたい。
ISEA(主催団体Inter-Society for the Electronic Arts)公式サイト: http://www.isea-web.org/
ISEA2009(次回開催予告)公式サイト: http://www.isea2009.org/
畑中 朋子(アート&メディアリサーチャー)




