海外フェスティバルレポート

Kuala Lumpur Design Week 2010 レポート

■クアラルンプールデザインウィークとは

シンガポールを挟んで東西に位置するマレーシア。 年間平均気温が約30度の熱帯雨林気候の国。 その首都クアラルンプールでは2009年より、クアラルンプールデザインウィーク(KLDW)が開催されている。

左:マレーシア国立美術館 右:展示会場の様子

左:マレーシア国立美術館 右:展示会場の様子

開催地 マレーシア・クアラルンプール市内
会場 マレーシア国立美術館・ペトロナスタワー
開催期間 2010年5月1日(土)〜16日(日)
URL http://www.kualalumpurdesignweek.com.my/2010/

文化庁メディア芸術祭は、5月1日から16日まで開催されたクアラルンプールデザインウィークで作品紹介をする機会に恵まれた。 2007年には、シンガポールで文化庁メディア芸術祭シンガポール展を開催したが、 マレーシアでメディア芸術祭を作品とともに紹介するのは初めての機会となる。

今年で2回目となるクアラルンプールデザインウィーク(以降KLDW)は、2009年から始まったデザインイベントで、 クアラルンプール市協力のもと、市内数か所に分かれた会場で展示、ワークショップ、カンファレンス、フォーラムなど、 様々なイベントが開催される。デザインという言葉に関連する分野は広いが、KLDWでは“Visual Communication”をテーマに、 アニメーションや、グラフィック、キャラクターといったジャンルを取り上げる。若手クリエイターの育成を考慮し、 関心を持ちやすいジャンルを意図的に集めているとも言える。

■マレーシア国立美術館での展示

文化庁メディア芸術祭の作品展示会場となったのは、マレーシア国立美術館である。 中心地から車で10分ほどの場所にあるこの美術館は、マレーシアが独立した翌年、1958年に設立された。 現在の建物は90年代末の移転後のものであるということだ。3階の建物中央には吹き抜けがあり、螺旋を描く通路が異なるフロアを結んでいる。 各フロアには2つの展示室があり、近現代の美術、デザインをテーマに企画展が開催されている。

TOKYO VISUALIST の展示風景

TOKYO VISUALIST の展示風景

文化庁メディア芸術祭の展示には、3階の一室の半分が割り当てられた。 もう半分では、「Tokyo Visualist」の展示が行われた。「Tokyo Visualist」とは、東京とNYのキュレーターが選出した 日本人アーティストを紹介した日英バイリンガル書籍で、Tokyoから世界に向けて日本人アーティストを発信することを意図している。 この書籍に掲載されたVisualistの中から、6名が会場で紹介された。「Tokyo Visualist」に呼応するように、 偶然にもメディア芸術祭の作品の選出のテーマも「東京」であった。テーマを東京としたのは、いくつかの理由がある。 現地の来場者の思い浮かべる東京のイメージは、映像や写真といった伝達媒体を通じてある程度、具体的であることを想定し、 作品内の東京と個々のイメージを比較しながら興味を持つことが出来るような作品を選んだ。 また、文化庁メディア芸術祭の存在自体を認識してもらうには、実際の開催地である東京のイメージがその手掛かりになるのではと考えた。 一方で東京をモチーフにしている作品を選ぶことで、作家によって異なるそのイメージを発見してもらいながら、メディア芸術祭の受賞作品、 推薦作品の多様性も見せることを意図した。

右上 『東京コンポジション』岡崎真理子 左上 会場入口 右下
『Urbanized Typeface : Shibuya08-09』山口崇洋 左下 『Green Island』田口亮

展示スペースの一角には、メディア芸術祭情報スペースとして、第13回文化庁メディア芸術祭の開催のようすを紹介したほか、 ストーリーマンガの受賞作品と推薦作品をあせて25タイトルを単行本で展示した。

ストーリーマンガ作品の展示

ストーリーマンガ作品の展示

展示作業には、地元の学生がボランティアとして関わってくれた。大変、真面目なスタッフたちで、 彼らの尽力でスムースに展示作業を進めることが出来た。驚いたことに、スタッフは3ヶ国語を話すことが出来る。 マレーシアの公用語はマレー語であるが、多民族国家のため、マレー語の他に、共通の言語として、英語そしてそれぞれの民族の母国語が使用される。 実際にスタッフはマレー語、中国語、英語の3ヶ国語を話すことが出来た。英語が障壁になって、活動が制限されがちな日本の作家のことを考えると、 3ヶ国語を使いこなせるのは羨ましく感じるとともに、本人たちは意識をしていないようだが、英語と中国語が話せるということでのアドバンテージを考えさせられた。 スタッフのおかげで、展示作業も順調に進み、予定通りの展示会場が出来上がった。

■カンファレンスやフォーラム

会期中に開催されたカンファレンスやフォーラムでは、国外から招聘されたゲストによるプレゼンテーションやディスカッションが行われた。 日本からのゲストとして、最新のクリエイターを紹介するバイリンガル雑誌+81を主催する山下悟氏やデザイナーで 「Tokyo Visualist」で紹介されている稲葉英樹氏、『トーフ親子』というキャラクターがアジア各国で人気を集めているデビルロボッツなどが参加していた。 現地に入って、改めて日本からのゲストが多いことに驚いた。 主催者によると今年は、日本からのゲスト多く呼んだ年で、来年は別の国に注目して招聘を考えているということであった。 毎年パートナー国を変えて、徐々に世界的なフェスティバルへと成長させていこうということであろう。 開催初日の5月1日に「BUSINESS OF DESIGN」と題したフォーラムがマレーシア国立美術館にある講堂で開催された。 ここでは、CG-ARTS協会の脇本厚司が文化庁メディア芸術祭のプレゼンテーションを行い、 その後作品展示を行なった山口崇洋さんにも 作品紹介をして頂いた。

マレーシア国立美術館以外でも、ペトロナスタワーの4階にあるギャラリー・ペトロナスでは 「NOVA-Exploring the New Media」という企画展が開催され、日本人作家のHAROSHIやデビルロボッツの作品や活動が紹介、展示された。 キャプススクエアというショッピングエリアの一角を使用して、地元の学校やクリエイターによるブース出展が行われていた。

キャプススクエア概観

キャプススクエア概観

■クアラルンプールデザインウィークの意義

ギャラリー・ペトロナスには、閲覧用の図書室がある。 アートに関する国内外の雑誌の閲覧を中心とした、小さな図書室に入って驚いたのは、蔵書の分類方法である。 大まかに時代は分かれているが、国やジャンルが分かれていない。伝統的な芸術の文献というと西洋や中国、日本というマレーシア以外の文献になってしまう。 しかも混在して並べらえている。もちろん、これが典型例ということではないが、文化的な現状を垣間見れたような気になった。 マレーシアの文化には、ネイティブの文化、イギリスによる植民地時代の文化、そこに移民をしてきた民族の文化が混ざりこんでいる。 そして、独立を遂げたのが50数年前。 マレーシア自体の歴史が短く、クリエイティブな土壌が未熟であることをKLDW主催者は意識している。 若手のクリエイターの育成を念頭に、クリエイティブな分野をマレーシアに根付かせ、独自の文化や表現を産業と繋がるデザインという分野で、 これから作り出そうという意欲がこのKLDWからは感じられた。

■まとめ

文化庁メディア芸術祭では、メディアアートやアニメーションに特化したフェスティバルへ参加はこれまでにも実施してきたが、 デザインイベントへの参加は初めてとなった。 今回、KLDWで紹介した作品はアート部門から選ばれた作品であったが、デザインのカテゴリーで見ても、楽しんでもらうことが出来たようで、 KLDWの来場者、および関係者にすんなりと受け止められていた。ビジュアル制作のコンセプトに客観性を備えていたからであろう。 これまでメディア芸術祭が扱ってきた作品が多様であるからこそ、このようなセレクションが可能になったといえる。 KLDWが目指す、若手の育成のためにも、メディア芸術祭のクオリティーの高い作品や制作背景を紹介し、その協力をしていきたいと思う。

展示会場

展示会場

来場したことをきっかけにその興味が広がるような情報を提供することは、フェスティバルの使命である。 世界中で開催されるイベントやフェスティバルの情報を来場者、利用者に的確に伝えてゆくためにも、 主催者同士のネットワーク作りが今後さらに重要になってくるだろう。 文化庁メディア芸術祭は今後も、様々な切り口を提示していくことで、国内外のフェスティバルとの連携を強め、 来場者にとって有意義なフェスティバルにシフトしていきたいと思っている。

細川麻沙美(CG-ARTS協会)

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