海外フェスティバルレポート

SICAF 2005 レポート

2005年8月11~16日にソウルのCOEX(Convention & Exhibition 展示場・国際会議場・オフィスビル・ホテル・ショッピングモールなどを含む広大な複合施設)を主会場として開催された、SICAF2005(SICAF, Seoul International Cartoon and Animation Festival)に「文化庁メディア芸術祭」のブースを出展し、会場を取材した。その状況をレポートしたい。

開催地 韓国・ソウル「COEX」
開催期間 2005年8月11日(木)~8月16日(火)
URL http://www.sicaf.or.kr

漫画・アニメーションの文化と産業の振興をはかるため、1995年より開催されているこのイベントは、今年で9回目。韓国の漫画・アニメーションのプロデューサー、制作者、研究者、出版社などそれぞれの団体から組織された、SICAFの実行委員会によって主催されている。主催者からは今回の来場者数は75,444人と発表があった。とくに2003年からはソウル市の全面的な支援を得て、アジア最大規模のイベントに育っているという。

SICAFは展示会・見本市(Exhibition Convention)、映画祭(Animated Film Festival)、プロモーション・プラン(SPP, SICAF Promotion Plan)という3つの分野から構成されている。主会場のCOEXの他にも、別会場(ソウル・プラザ)でのイベントなどが計画されており、特別プログラムとして、「RYAN」のChris Landreth氏、新海誠氏と「BIRTHDAY BOY」のSejong Park氏によるワークショップなどが紹介されていた。ちなみに新海氏は「雲のむこう、約束の場所」で本年度映画祭のFeature Film部門にて特別賞を受賞している。

SICAFの概要については、昨年もブース出展と上映会を行なっており、そちらも参照していただきたい。

 SICAF 2004 レポート
■展示会・見本市
 
オープニングは開場前から観客が列をなし、虎の"Bummy"や唐辛子の"Tangko"といったキャラクターたちも参加してにぎやかに開幕した。会場であるCOEX、コンベンション・センター1階のパシフィック・ホールは、10,400平米程もある天井の高い広大な会場で、そこに100あまりのブースが設置され、関連する展示が行なわれている。

会場は広いが、ゾーニングは明快で歩きやすい。ガイドマップによると、メインテーマ/アワード/スペシャル/グローバル/インキュベータ(若手育成)/スチューデント/ワークショップとなっている。もうすこしざっと整理してしまうと、特集展示、学校の紹介、企業による出展、その他にわけることができるだろう。
■特集展示
今年は韓国の独立記念60周年にあたり、展示もそこに重点がおかれている。会期が光復節(8月15日)を含むよう設定されたのもそのためだろう。会場のパシフィック・ホールに入るとすぐ、独立門を模したような門が置かれ、その左右と奥に特集展示が展開されている。会場には日本による占領時代の抵抗を示す漫画や、日本の総理大臣を揶揄(やゆ)したような作品もあり、日本人にとっては居心地が悪いところもある。
メインテーマ・ゾーンは、漫画とアニメーションで解放60年の歴史を紹介するもので、「漫画による独立の歴史」、「抵抗の漫画」、「漫画による独立の英雄」、「歴史的人物の風刺画」という側面から展示されている。政治的な漫画の歴史をたどるとともに、今の子どもたちにとってなじみが薄くなりかけている民族の英雄をキャラクターとして物語化・作品化することで、生き生きとした存在に感じさせようとする意図が語られていた。子どもにとって身近な漫画やアニメーションを用いることで、解放の歴史の重要性をより印象的に伝えることができるという教育的効果がうたわれている。その他特集展示では、歴史漫画の立役者である李斗号(LEE Doo-Ho, 1943年生)の回顧、近年における漫画・アニメーション資料の保存活動の紹介などが行なわれていた。
メインテーマ・ゾーンの奥に、若手作家の作品を展示・上映して紹介するインキュベータと、グローバル・ゾーンがある。後者にはSICAFと提携関係にある国外のイベントや機関・企業などが出展しており、アングレーム国際漫画フェスティバルなども紹介されていた。その一角に文化庁メディア芸術祭のコーナーを設けた。
メディア芸術祭のブースは1台のプラズマ・ディスプレイに15席ほどの小さなものだが、過去の受賞作から抜粋した質の高い映像作品を、ゆっくり観ることができる。観客の滞留時間は長めで、ときには立ち見も出るほどだった。学校紹介のエリアに近いこともあってか、映像表現に興味を持っているとおぼしき若い観客が多い。昨年の文化庁メディア芸術祭では、韓国からの応募が格段に増えており、こうした観客の中からもクリエイターが育っていくのではと期待される。
■学校紹介
このエリアには30ほどのブースが出展しており、韓国に漫画やアニメーションを学べる学校が多くあることに気づかされる。工学・技術系から美術系に至るまで、展示はバリエーションに富んでいる。前者はパネルによるシンプルな展示や技術のデモンストレーションが中心で、研究発表の色彩が強いのに対し、美術系学校の作品展示はまるで学園祭のように手作り感たっぷり。壁を黒く塗ってしまって照明の効果を生かすとか、作品をすべて壁ののぞき穴から見せるとか、アイデアと個性を競い、凝った展示がされていて興味深かった。観客とのコミュニケーションの一環として、学生や作家が観客の似顔絵を描くコーナーも会場内のあちこちで見かけた。
■企業出展
同じ会場内にあるのだが、上記の展示とはまったく違った雰囲気で、アニメーション関連、漫画の出版社、ゲームやフィギュアなど遊具の展示、さらにはプリンタやグラフィックのアプリケーションの紹介など、関連業種がつめ込まれている。端のほうでは、漫画画材やオモチャ屋まで出展しており、少々雑多な印象もある。漫画やアニメーションの作品は日本から翻訳されているものも多く見受けられた。現在流行している作品がほとんどタイムラグなく紹介されているようだ。

小学生ぐらいの子どものお目当てはやはりゲームで、ディスプレイの前は終始にぎわっていた。カードゲームはこちらでも流行っているようで、
コンピュータゲームのものもあり、子どもたちが机をはさみ差し向かいでカードゲームに興じる姿も会場のそこここで見かけられた。


別のブースでは、いわゆる萌え系キャラクターの着ぐるみが観客と記念写真を撮っている。会場内ではコスプレで闊歩(かっぽ)する観客も何人か見かけた。こういうイベントでは通例なのかもしれないが、会場の隅にコスプレ用の更衣室が用意されていたのには驚いた。
■映画祭
COEXの地下には広大なショッピングモールがあり、そこに位置するシネコン「MEGABOX」で映画祭が開催されていた。開催6日間の間に、4つのシアターで126という数多くのプログラムが上映される。シアター入口では上映プログラムのキャラクターを集めたコーナーもあり、こちらも記念撮影の観客でにぎわっていた。

シアターでは映画祭で受賞した16作品も公開される。受賞は4部門に分かれ、それぞれ大賞を受賞したのが、Feature Film部門はAron GAUDER(ハンガリー)の「The District!」
http://www.NYOCKER.hu/)、Short Film(プロフェッショナル)部門はIgor KOVALYOV(ロシア)の「Milk」、同じくShort Film(学生・卒業生)部門がOury ATLAN, Thibaut BERLAND, Damien FERRIE(フランス)の
「Overtime」(http://www.annecy.org/home/index.php?Page_ID=752&film_id=20050132)。
TV& Commissioned部門とInternet部門は特別賞等のみで、大賞については該当なしだった。受賞作はウェブ上でも紹介され、その上映スケジュールからも各作品の概要を見ることができる。大賞だけ見てもわかるように、受賞作は韓国・アジアに偏らず国際色豊かだ。

 http://sicaf.or.kr/Eng/board1/view1.php?board_id=news_eng&num=35

上映スケジュールには、冒頭に挙げた新海誠氏の受賞作や、同じく本年度TV& Commissioned部門で審査員特別賞を受賞した、西郡勲「彩 -SAI-(前編)~廻る、巡る、その核へ」、ほかにも水崎淳平「陽だまりの詩」、「GONZO TV Special」といったプログラムを日本からの出品として見つけることができた。
■プロモーション・プラン
COEX内のコンファレンス・センターで開催された。投資家に対して、アジア圏の漫画やアニメーションの新しいプロジェクトを紹介する場として設けられており、映像のプレゼンテーションと、商談のためのスペースなどからなっていた。
■SICAF実行委員会との提携
8月11日には、SICAF実行委員会と文化庁メディア芸術祭事務局であるCG-ARTS協会が正式に協定を結び、互いのフェスティバルの発展に協力していくことを約束した。SIGGRAPH、ARS ELECTRONICAに続き、CG-ARTS協会にとって3つめの協定になる。
■まとめ
子どもの遊びから大人のビジネスに至るまで、異質な要素が幕の内弁当のように盛りあわされ、活気あるさまを見ることができた。韓国語のみの表示も多く、言葉のハンデを抱えながら限られた部分のみの取材ではあったが、それでも韓国におけるこの業界の活況は強く感じられた。学生が展示や運営に大きく関わっており、また投資家への配慮など、将来への発展を意識していることもうかがえる。韓流ドラマや映画が広く受け入れられたように、漫画・アニメーションも国際的に実力を発揮するためのポテンシャルをたくわえているようだ。

野口玲一

文化庁 芸術文化調査官

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