海外フェスティバルレポート

SIGGRAPH 2005 レポート覧

2005年7月31日から8月4日まで、ロサンゼルスのコンベンションセンターにて、「SIGGRAPH2005」が開催された。SIGGRAPHは、アメリカで開催されるCGとインタラクティブ技術についての国際的な学術会議で、今回32回目の開催となる。
学術会議ではあるが、論文発表やシンポジウムといったものだけでなく、アート展、映像フェスティバル、見本市なども加わり規模と広がりを持っている。
今回は81ヶ国の科学者、アーティスト、教育関係者など29,122名が参加し、見本市には250社以上が出展した。

会場 アメリカ・LA「コンベンション・センター」
会期 2005年7月31日(日)〜8月4日(木)
URL http://www.siggraph.org/s2005/
CG-ARTS協会では、コンピュータアニメーションフェスティバルの特別プログラムとして「文化庁メディア芸術祭優秀作品上映=Japanese Animation」を3日間に拡大して行なったほか、ブースを設けて様々なプロモーションを展開した。

なお、SIGGRAPHを主催しているACM SIGGRAPHは、ACM(The Association for Computing Machinery:1947年に創設された世界初にして最大のコンピュータ学会)の下部組織であり、2001年にCG-ARTS協会と提携関係を結んでいる。
■ジョージ・ルーカスが基調講演

今年の最大のトピックスといえば、ジョージ・ルーカスの基調講演が行われたことである。
会場の正面入口にX-ウィング・ファイターのレプリカが飾られ、コンピュータアニメーションフェスティバルやスペシャルセッションなど、さまざまなところで「スター・ウォーズ」を目にした。
その基調講演は8月1日に行なわれた。

「僕はストーリーテラーで実はコンピューターパーソンじゃない。テクノロジーは僕の表現したいことを可能にしてくれる大切なミディアム。デジタルテクノロジーは現代の新しいアートのミディアムフォームでしかなく、今までの主要なメディアムと何も変わらない。感情を表現することも、彫刻でも何でもできる。大切なのは、デジタルテクノロジーをフィルムの教育システムに有効的に取り入れること。残念ながら今のフィルムの教育システムはスター・ウォーズより500年は遅れている。何事にも常にチャレンジする姿勢が大切。」と雄弁に語るルーカスからは、アーティストらしい尊厳が感じられた。さらには「A.I (人工的知能)は、テクノロジーを大きく変え、特にゲーム業界を改革する。ゲームとしゃべれてゲームもしゃべり返す、というところまでたどりつきたい。今後は、映画業界よりもアクセスしやすいテレビ界で活動していくだろう。日本やインドなどでアニメーションのコミュニティーをつくっていきたい。」 と今後のビジョンについても語った。ルーカスフィルムによってサンフランシスコに開設される、話題のレターマンデジタルアーツセンターについては「業界の企業、人々が、同時に同じことを作業できるように。」と構想を紹介し、フィルム業界へ貢献し続けるルーカスへの喝采で、会場内は拍手でいっぱいとなった。

東京大学大学院の西田友是教授がアジア初の“Coons賞”受賞
ルーカスの基調講演に先立ち、東京大学大学院の西田友是教授への「Steven A. Coons Award」(以下Coons賞)の贈呈が行なわれた。Coons賞は1983年に創設され、2年に1度CG界に大きな業績を残した研究者1名にのみに与えられる賞。今回の西田教授の受賞は、アジアの研究者として初めてであり、歴代12人目となる。

西田教授は、1970年代よりCGアルゴリズムの研究を行なっている、日本の現役CG研究のパイオニアの一人。70年代は、ラインプリンタかXYプロッタで描画を行なった時代であり、これらの装置による「風雅の技法」というCG作品が有名である。
またコーネル大学のグループとはまったく別に、ラジオシティ法に相当するアルゴリズムをほぼ同時期に開発、1985年春に世界に先がけて日本語で論文を発表し、中前栄八郎教授(広島大学)との連名で同年夏のSIGGRAPHでも発表している。
その後も自然界の光線状況を表現する多くのアルゴリズムを発表し、それらの功績によって今回のCoons賞が贈呈された。
 Steven A. Coons Award http://www.siggraph.org/awards/
 西田教授 http://nis-lab.is.s.u-tokyo.ac.jp/~nis/
コンピュータアニメーションフェスティバル
コンピュータアニメーションフェスティバルでは、応募作品の中から審査委員によって高い評価を得た作品が上映される。特に高い評価を得た作品が「Electronic Theater」で上映され、選考作品の全体は「Animation Theater」でジャンル別に紹介される。
ジャンルは、映画のメイキングやダイジェスト、ゲームのオープニングムービー、CM、プロモーションビデオ、インディペンデント系の短編作品と多種多様。科学的な作品や学術的な映像も対象としているのが学会らしいところである。

今回は27ヶ国から560作品の応募があり、「Electoronic Theater」では25作品、「Animation Theater」では43作品が選ばれた。日本からは5作品が選ばれ、第8回文化庁メディア芸術祭アート部門推薦作品「Dice」(赤山仁氏)、同祭エンターテインメント部門優秀賞「YKK AP Evolution」(尹剛志氏・井口弘一氏)が入賞した。 最優秀賞には、Shane Acker氏(アメリカ)の「9」、審査委員賞には、Tomek Baginski氏(ポーランド)の「Fallen Art」、Eric Castaing氏(フランス)らによる「La Migration Bigoudenn」が選ばれている。これら受賞3作品のうち2作品は学生によるもので、「学生作品の質が驚くほど高い。また、海外からの応募作品も多く、特にフランスからの応募作品の質が高かった」(アニメーション審査委員チェア/Samuel Black氏)。
Shane Acker 氏がUCLAの在学中に制作を開始し、4年半をかけて完成させた「9」は、早くもTim Burton 監督による長編映画化が決定されている。「見るたびに新しいことを発見するまれに見る作品。審査委員は、作品の内容はもちろんの事、何重にも盛りこまれているレイヤーの複雑さや、精細さにとても感動した。Ackerは、すばらしい作品のアイディアだけでなく、モデリング、テクスチャーリング、ライティング、アニメーションも監督している。何度もくり返し見てもらいたい作品」(Samuel Black氏)。
プレゼンテーションの場では、Shane Acker氏が、学校で教えていたことや建築の学位を取得したことなどが自分のアニメーション制作に大変役立っていること、最後の3ケ月は睡眠時間を削ってレンダリングの作業に追われたことなどを話した。最後に「as you get better, you'll see more.」 (上達すればするだけ、たくさんのことが見えてくる)としめくくり、アニメーターとしての献身的な姿勢に感銘を受けた。

ここ数年、大手プロダクションによる大規模な商業ベースの作品に負けず、個人や学校などのインディペンデント系の作品が多く選ばれる傾向にある。これは学校が業界へ存在感をアピールするために組織力で作品づくりを行なっているためと、審査委員が、ストーリーテリングや表現面なども評価ポイントとして重視しているためではないかと思われる。
特別プログラムで文化庁メディア芸術祭優秀作品上映
昨年に引き続き、アニメーションフェスティバルの特別プログラムとして「文化庁メディア芸術祭優秀作品上映=Japanese Animation」を行なった。
第8回文化庁メディア芸術祭のアート部門、エンターテインメント部門、アニメーション部門の映像作品の中からSIGGRAPHとの協議によって選ばれた作品を3日間に渡って上映した。約300席ほどの会場はいずれも満席となり、作品ごとに拍手や笑いの渦でつつまれた。メディア芸術祭で選ばれた作品は、国際的な説得力をも持ちうるのだと改めて認識した。

場所 コンベンションセンター内アニメーションシアター
日時 8月2日(火)16:00〜アート
8月3日(水) 9:00〜アニメーション
8月4日(木) 13:30〜エンターテインメント
アートギャラリー
今回のアートギャラリーには1,100作品と記録的な数の応募があり、審査委員の選考により53作品が紹介された。Jim Campell氏など6名の世界的に有名なアーティストが招待され、ギャラリーでの展示が行なわれていた。作品の種類は、インタラクティブアート、インスタレーション、立体、静止画、映像と多岐にわたる。
第8回文化庁メディア芸術祭推薦作品「elf」も展示されており、作者の Pascal Glissmann 氏と Martina Hofflin 氏に会うことが出来た。Ars Electronicaでも展示されることや、メディア芸術祭への出品がきっかけで、韓国のアートフェスティバルでも展示が決まったことなど、嬉しい報告を聞くことができた。
エマージングテクノロジー
今年度は、リサーチラボや大学、個人制作など、総数32点のインタラクティブインスタレーション作品が展示された。
この部門は日本からの参加が全体の60%を占めるほどで、京大、慶應、千葉大、筑波大、東大、東京工大などが出展している。第5回文化庁メディア芸術祭受賞者でもある筑波大の岩田洋夫教授は12年連続の出展となった。
エキシビション
エキシビションには、コンピュータ、CPU、グラフィックボードやディスプレイなどのメーカー、ソフトウエア会社、プロダクション、美術学校など250を越える出展があった。今回初めての参加が65社あり、出展社数では過去最大規模となっている。
以前はコンピュータメーカーが目立っていたが、今回はAlias等のCGソフトウエア会社や、NVIDEA等のグラフィックボードメーカー、Disneyなどの制作プロダクション、Academy of Art Universityなどの教育機関が大きなブースを構えていた。



ソフトウエア会社は自社のCGソフトが著名な映画で使われた事例を出しながら、新バージョンを積極的にPR。Soft imageでは、「ハウルの動く城」などのジブリ作品でCGがどのように使われているかをデモンストレーションして多くの人を集めていた。
プロダクションは新作映画の紹介や、自社で開発したCG技術のデモンストレーションなどを行なっていた。PIXARでは新
作「Cars」、Disneyでは「Toy Story3」などを紹介。またここでは履歴書を受けつけており、多くの学生が訪れていた。
一般参加でPCや鉛筆を使ったデッサンを行なうというのは毎年よく見られる光景だが、今年はThe Art InstituteやSony pictures image worksなどで行なっていた。昨年までは数多くあったモーションキャプチャーのデモンストレーションは見ることができなかった。
論文
学術会議としてのメインプログラムである「Papers」。今年の応募数は461件あり、その中からマイクロソフトリサーチ、MIT、スタンフォード大学、CMUなどから、98件が採択されている。世界から注目されることもあり、非常に競争率の高い狭き門となっている。国別に見るとやはりアメリカが強いが、中国や韓国などのアジア勢が急激に増えている。
正式な論文発表に先立って行なわれる「Fast-Forward Papers Preview」では、今年度の論文発表者が1分以内で内容を予告する。ラップをする人、歌う人、仮装する人もいて、自分の論文を聞きにくる人を集めるために、研究者自らがさまざまな工夫を凝らしていた。
コース
CG関連のさまざまな新しい技術を学ぶ「Courses」では、インタラクティブ技術、ビジュアライゼーション、シミュレーション、リアルタイムグラフィックスなど、初心者向けから専門家向けまでの39種類が用意されている。セッション中に自由に入退場ができるということ以外は、大学の講義を受けるような感じで、人気のあるセミナーは空席がでるまで並ぶほどである。
ジョブ フェア
SIGGRAPHでは「ジョブフェア」として、産業界と学生をつなぐ場も設けており、求人をしているプロダクションや企業がブースを構える。学生やクリエイター、アニメーターをめざす人々が多く参加していた。
ウーマン イン アニメーション (WIA-WOMAN IN ANIMATION, INC.)
アートやアニメーション業界で働いている女性の発展のための非営利団体, WIAのセミナーは一層熱気に包まれていた。WIAは、ネットワークを広げるだけでなく、奨学金制度やワークショップの場を提供するなどのサポートにも励んでいる。70名ほど集まったルームでは、どのようにしてこの業界に入ったか、またどのような経緯で今のポジションについたかなどをフリーディスカッションしていた。キャンディーなどの入ったお土産まで用意されており、キャリア志向のたくましさだけでなく、女性らしい気配りも感じさせてくれた。フェミニズムが発達しているアメリカだけに、女性同士が団結する機会を提供してくれる場が多いのはさすがである。学生の参加も多く、同性の先輩たちからのアドバイスを一生懸命に聞く姿が見られた。
サイバー ファッションショー
SIGGRAPHではさまざまなスペシャルイベントが用意されている。
8月3日の夜には最新のデジタルテクノロジーを取り入れたファッションショーが行われた。MITメディアラボによる作品もあり、ユニークな近未来のファッションが紹介された。


CG-ARTS協会の活動
会場入り口付近に設けられているインターナショナルセンターでは、EUROGRAPHやIMAGINAなど海外の学会やフェスティバルを主催する団体がブースを設け、それぞれPR活動をおこなっている。CG-ARTS協会もここで文化庁メディア芸術祭などのプロモーションを行った。アニメーションシアターでのメディア芸術祭優秀作品上映後に、ブースを訪れてくれる人も多かった。

また8月1日の午後にはSIGGRAPHとCG-ARTS協会とでミーティングを持ち、来年以降の協力関係について話し合った。
ほかにも、Ars Electronicaをはじめ、海外のフェスティバルの関係者も集まってきており、双方の情報交換に努めた。
レセプション
SIGGRAPHでは連日数多くのレセプションが開かれている。
これらのレセプションは、主催者のプロモーションにとどまらず、参加者同士の交流や情報交換などのよい機会となっている。
日本にはなかなかこのような機会が少ないが、海外のアーティストや研究者は、レセプションでも積極的にコミュニケーションをはかることに大きな差を感じた。


まとめ
CG技術がすでに高い水準にまで達しており、地道な積み重ねになってきているため、だれでもがわかる画期的な技術や作品といったものは少なくなっている。
それでも世界中から約3万人の専門家を集めることができるのは、歴史あるSIGGRAPHだからこそ成しえる偉業である。
最後に、文化庁メディア芸術祭では今年も10月20日まで作品を募集している。今後、新たな才能を海外に向けてもさらに紹介していく予定である。多くの方からの積極的な参加を期待したい。

Text & Photo
阿部芳久
CG-ARTS協会 文化事業部部長

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