海外フェスティバルレポート

SIGGRAPH 2006 レポート

2006年7月30日から8月3日まで、ボストンに新しくできたコンベンションセンターで「SIGGRAPH 2006」が開催されました。SIGGRAPHは世界最大のコンピュータグラフィックスとインタラクティブ技術の国際的な学術会議で、論文発表やシンポジウムだけでなく、アートギャラリー、アニメーションフェスティバル、トレードショウなども催される一大イベントです。

毎年、アメリカ内で開催地を変えて開催されるSIGGRAPHですが、東海岸ボストンでの開催は18年ぶり。西海岸主導のCGアニメーション作品だけでなく、アート作品にも力を入れた33回目のSIGGRAPH2006をレポートします。
開催地 アメリカ、マサチューセッツ州
「ボストン・コンベンション&エキシビション・センター」
開催期間 2006年7月30日(日)〜8月3日(木)
URL http://www.siggraph.org/s2006/
CG-ARTS協会では、初日の7月30日に「Japanese Animation」と題して、第9回文化庁メディア芸術祭優秀作品の上映をコンピューターアニメーションシアターで行ないました。さらには、インターナショナル・ヴィレッジ内にブースを設けて、さまざまなプロモーション活動を行ないました。
■アートギャラリー
文化と歴史の街、ボストンでのSIGGRAPH開催とあって、「アートギャラリー」のオープニングレセプションはボストン市長を迎え華々しく開かれました。 今年のアートギャラリーはSIGGRAPH史上最大の規模で、平面作品、立体作品に加え、時間軸やインタラクティブの要素をもった作品が多く展示されました。
アートギャラリー内では、CGアートのパイオニアであるチャールズ・スーリー氏の回顧展「境界を越えて」 が開催されました。現役アーティストの初期の作品から現在の作品までを集めた非常に興味深い企画展で、スーリー氏自身も会場に立会い、サイン会を開くなどして多くの来場者と積極的に交流を図っていました。

ほかにも、デジタル技術とライブダンスや音楽、舞台を融合したパフォーマンスが会場内特別シアターで開催され、4日間の会期中に30以上の演目が発表されました。

アートギャラリーで今回注目された作品をいくつか紹介します。
インタラクティブアートとして多くの注目を集めていたのは日本人アーティストの児玉幸子さん。 第5回文化庁メディア芸術祭デジタルアート・インタラクティブ部門の大賞受賞者です。 刻々と変化する磁石に反応する黒い液体のオブジェ「モルフォタワー」 の変わりゆく姿に、多くの人々が釘付けになっていました。

静止画についても、独自のプログラミングで制作された作品が多く選ばれているのがSIGGRAPHらしいところです。前回のメディア芸術祭でも推薦作品として紹介したAndy Lomas氏の作品は、その奥行きの深さが印象的でした。エレクトリックシアターではLomas氏の映像作品も上映されました。

アートギャラリーにもアニメーション作品を紹介するコーナーが設けられています。くろやなぎてっぺいさんの「C++」といった、さまざまな国際フェスティバルでセレクトされた力作も上映されていました。
今回のアートギャラリーには、歴代の「文化庁メディア芸術祭」や「学生CGコンテスト」の受賞者の方の作品も多数展示されていました。海外のフェスティバルで、彼らの活躍を見られるのは主催者としてもとても嬉しいことです。
■エマージングテクノロジー
アートギャラリーの奥には、表現のための先端技術やその研究を展示する「エマージングテクノロジー」コーナーが設けられています。アートと技術の両面をもつ作品は「フュージョン」とカテゴライズされ、会場中央に展示されていました。

エマージングテクノロジーの展示では日本からの出展が約半数を占めていました。なかでもプラズマの発光を用いてリアルな3次元映像を空間描画する 「True 3D Display Using Laser Plasma in the Air」のデモンストレーション(株式会社バートン)に多くの来場者の関心が寄せられていました。
■アニメーションフェスティバル
SIGGRAPHの「アニメーションフェスティバル」には、アマチュア、プロフェッショナル、個人、企業を問わず世界中のクリエイターから多くの応募があります。審査を経て選ばれた作品が「アニメーションシアター」で上映され、特に優れた作品については「エレクトロニックシアター」で上映されます。

今回は40カ国から800作品を超える応募があり、うち96作品を上映。日本からは、エレクトロニックシアターで1作品、アニメーションシアターで4作品が上映されました。

エレクトリックシアターは、コンベンションセンター内にある3000人収容の巨大なボールルームで5回上映されました。SIGGRAPHの人気看板プログラムとあって、事前に指定された上映回の入場という規制があるなか、会場は毎回満席の大盛況。上映前の会場には長い列ができるほどでした。

上映開始前の待ち時間には、今回のアニメーションフェスティバルのチェアをつとめるT. Masson氏がステージに上り、入場の際に配られた赤と緑の反射板のついた札を使ったゲームを指揮。ゲームは正面スクリーンに向かって札の表裏で赤や緑の面をかざすと正面のセンサーが認識し、集計されるシステムを利用したものです。会場を赤チーム、緑チームのふたつに分け勝負を競うという単純なゲームでしたが、会場が一体となり、かなりの盛り上がりを見せていました。

上映作品は全体的にアメリカ大手有名プロダクションの商業作品が目立っていました。高度な技術と設備、莫大な資金を背景にしたアメリカのショウビズ作品を個人レベルの作品と比較すれば当然かもしれません。しかし、個人や小規模団体、企業の作品のなかにも印象的な作品は数多く見受けられました。
作品というソフトは技術を見せるための表現法ではなく、ストーリーやメッセージを伝える表現法です。日々進化し続けるCG技術ですが、その技術は映像を構成する際のひとつの手法でしかありません。技術主導になりがちなこの分野にいかにアートとしての命を吹き込めるかが、今後のCG作品の課題のひとつかもしれません。
■文化庁メディア芸術祭優秀作品上映
特別プログラムとして、今年も文化庁メディア芸術祭の優秀作品を「Japanese Animation」と題して上映しました。SIGGRAPH開催初日の7月30日に、エンターテインメント、アニメーション、アートの3つのカテゴリーごとに上映。人気のアニメーションシアターですが、とくに毎年初日は注目プログラムの上映が多く、会場には来場者だけでなく関係者やボランティアスタッフなど大勢の観客が集まりました。

「エンターテインメント」カテゴリーや「アニメーション」カテゴリーはそのわかりやすさもあって、拍手や笑いなどが漏れ、おおむね好評でした。 反面、「アート」カテゴリーの中には難解な作品もあり、ステレオタイプな日本のアニメを期待したアニメーションシアターの来場者には少々わかりにくかったかもしれません。

SIGGRAPHとは来年のコラボレーションについてもディスカッションを実施。 今後も双方にとってますます有意義な展開となるよう協議を進めています。
■論文発表と多彩なゲストスピーカー
コンピューターグラフィックスの学会としてスタートしたSIGGRAPHでは、連日さまざまなテーマでの論文発表が行なわれます。今年の論文にはキャプチャーとシンセサイズ分野での新しい発表が多いという特徴がありました。展示会場の一部をそのまま講演会場に催したホールCでは、あらゆる分野の多彩なゲストスピーカーを迎え、ワークショップに近い、より実践的な講演が行なわれました。

7月31日の基調講演ではウォルト・ディズニー社よりエレクトリカルパレードの制作プロデューサーを迎え、エンターテインメントの世界において、CGの新しい技術がどのように使われているかなどを検証しました。
スペシャルセッションでは、マツダやランドローバーのデザイナーを招いて車と車のデザインについてのパネルディスカッションが行なわれました。2日目のテーマは海底世界。著名な海洋学者やNASAの研修者が、まだまだ知られざる海底世界について語りました。そして最終日はソニーピクチャーズ制作の最新作「STANDING OFF」の声優 (俳優)がスペシャルゲストとして招かれ、キャラクターに命を吹き込むアフレコ作業について語りました。
■トレードショウ
3日目より、一般企業が出展する商業的なトレードショウが始まります。ここには、CGに関するハード、ソフトを製作する企業のほか、プロダクション、学校なども出展しています。出展者数は毎年増え続け、展示会規模も毎年大きくなっています。一般ユーザーでなく研究機関や法人を対象とした最先端の技術を結集した製品も出展されており、この分野での未来をかいま見ることができます。
■インターナショナル・コミッティー
世界中のCG関係者が一堂に集まるSIGGRAPHでは、インターナショナル・コミッティーが海外からの出展者、参加者をサポートしています。日本語を含む多言語の会場ガイドツアーは連日開催され、見どころなどを紹介。
国や大陸ごとのレセプションも随時開催され、各地域での情報交換の足がかりとなる場も設けられています。インターナショナルコミッティーのある通路前では学生ボランティアによる民族ダンスの披露や地元ボストンにゆかりある、お茶会事件になぞらえたティーパーティーなどが開かれ、文化交流の場として多くの来場者を集めていました。
■ボストン科学博物館
アメリカ発祥の地であり、全米一の学術都市でもあるボストン。周辺の文化的な一面も少しご紹介します。

ボストン科学博物館は、インタラクティブな展示物が揃う博物館として年間160万人以上の来場者を迎え、子どもから大人までに人気の博物館です。常設展示は550以上あり、レッドウイング、グリーンウイング、ブルーウイングという3棟の建物内の1〜3階部分で展示が展開されています。天文や生物といったテーマ別展示のほか、ハンズ・オン展示などもあり、来場者の興味を優先した展示に感心しました。

館内では、さまざまなワークショップが約30分に1回開催されており、入場の際に受け取ったタイムテーブルに沿ってさまざまな分野のワークショップを聞くことができます。なかでも人気のワークショップが「ライブアニマル」。実際の生きた動物を登場させ、その動物の性質を学ぶものです。
ワークショップはショー形式で行なわれ、来場者とショー担当職員との間で、活発なやりとりがなされます。

併設の施設として3Dオムニ・シアターやオムニ・プラネタリウムもあり、別料金でこちらの施設のみの入場も可能です。訪問時、シアターではハーバード大学制作による「人体」をテーマにした50分のフル3Dムービーが上映されていました。7月30日に公開したばかりとあって、大勢の人が詰め掛けていました。
■ハーバード大学
アメリカ最古の最高教育機関として1636年に設立された私立総合大学です。ルーズベルト、ケネディ両大統領をはじめ歴代のアメリカ大統領を輩出。日本でも雅子妃の留学先としても有名です。
ハーバード大学最大の特徴はその運営資金と世界中に広がる卒業生のネットワークです。ハーバードで学ぶことは学問ではなく、その人脈にあると言われるほど、大学が一つの社交場として機能し、卒業生には世界中の政治家、企業家をはじめとする著名人が名を連ねています。

校内は東部アイビーリーグにふさわしい300年の歴史を感じさせるゴシック、ロマネスク、ルネッサンス様式の建築物が並びます。なかでも南北戦争の戦死者を追悼して建てられた「メモリアル教会・ホール」は一歩足を踏み入れるだけで、その静寂と歴史の重みを肌で感じることができます。現在はその一部が 1年生専用の食堂として利用されており、ハーバードの社交場としての役を担っています。メモリアルホールではクリントン大統領やブッシュ大統領、アナン国連事務総長など、時代を代表する人物の基調公演などが定期的に開かれています。

大学図書館は蔵書1,450万冊で米国会図書館に次いで第2位。大学図書館としては世界一の蔵書を誇ります。敷地周辺には西洋美術館や東洋美術館、自然科学博物館など全米最高レベルの文化施設が数多くあり、多くの観光客も訪れます。

レポート 湧井 まいこ(CG-ARTS協会)