海外フェスティバルレポート

SIGGRAPH 2007 レポート

CG-ARTS協会は2001年からSIGGRAPHと協定(コーポレートアグリーメント)を結び、文化庁メディア芸術祭優秀作品をアニメーションシアター及びアートギャラリーで上映するほか、受賞作家の紹介などの活動を行なっております。

また、2008年からは「SIGGRAPH ASIA」が毎年アジア諸国で開催されることが正式に発表され、第1回はシンガポール、翌年の第2回は横浜で開催。2009年の実行委員長には稲蔭慶應大学教授が就任しました。
日本人作家をはじめアジア人の顕著な活躍が印象的だった、「SIGGRAPH 2007」をレポートします。
開催地 アメリカ・サンディエゴ
開催期間 2007年8月5日(日)〜8月9日(木)
URL http://www.siggraph.org/s2007/
■アートギャラリー
今年のアートギャラリーはメイン会場であるコンベンションセンターとカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の二つの会場を舞台に開催されました。コンベンションセンターではおもに静止画やインスタレーション作品を中心に、UCSDではデジタルパフォーマンスなどを中心にした内容が展示されました。

アートギャラリーのタイトル「Global Eyes」の通り、世界約40カ国から157名のアーティストが参加し、種々さまざまな作品が展示され、作品を通じで世界の文化を感じることができるのが今年の特色です。また、コンベンションセンターではアーティストブックも多数紹介し、SIGGRAPHがアーティスト支援にも力を入れてきていることが伺えました。

今回のアートギャラリーには例年にも増してメディア芸術祭受賞者の作品が数多く見受けられました。藤木淳の『 OLE Coordinate System』(第10回 アート部門 優秀賞)、小林和彦(第9回 アート部門 優秀賞)の『SCAN GATE』、ヴラディミールベッリーニ(第10回 アニメーション部門 優秀賞)の『La grua y la jirafa (The crane and the giraffe)』、ヨハンナライヒ(第10回 アート部門 優秀賞)の『front』、 川島高(第10回アート部門審査員推薦作品)の『Takashi’s Seasons』。そして、林俊作 (第10回 アート部門奨励賞)、モンノカズエ+ナガタタケシ (第10回 アニメーション部門優秀賞)ら招待作家の作品が展示・上映されました。第10回文化庁メディア芸術祭のアートアニメーション優秀作品も会場内のシアターで上映され、連日会場を賑わせていました。

個人的に強い興味をもった作品、アメリカ人アーティストOsman Khanによる 『Fruits of our Labor』を紹介したいと思います。この作品は赤外線LEDがグリッド上に配置されたインスタレーション作品です。赤外線のため肉眼では何も見えずただの巨大な黒い箱のように見えますが、デジタルカメラや携帯電話のレンズを通すことで文字が浮きあがってきます。ディスプレイにはアメリカの労働階級層による「What is the fruits of your labor?」(あなたの苦労の成果は何ですか?)の回答が次々に描写されていきます。アメリカが抱える格差社会問題。そして、今日の社会において私たちが実際に「見えている」ことと「見ている」いという行為の本質性を痛烈に問う作品です。また、日本の多くの美術館では作品の写真撮影を禁止していますが、この作品を鑑賞するためにはカメラを通さないと見えないという批評性も非常に興味深かったです。
■UCSD(カリフォルニア大学サンディエゴ校)
日本でも馴染みのあるUCLAをはじめとする10あるカリフォルニア大学のひとつ、UCSDは1959年創立の比較的新しい総合大学です。地理を活かした海洋学などの研究分野は世界的にも非常に高い評価を得ています。これまでに多くのノーベル賞受賞者を輩出しており、ノーベル生理学・医学賞を受賞した利根川進博士も同校出身です。

SIGGRAPH期間中は新設されたばかりのCalifornia Institute for Telecommunications and information Technology (Calit2)を舞台にアートインスタレーションの展示や、最先端のデジタル設備を備えた劇場にてデジタルパフォーマンスが行なわれました。日本からは東京大学教授の河口洋一郎や静岡文化芸術大学からは的場ひろし、メディアアーティストの川島高らが作品を発表しました。
■エマージングテクノロジー
アートギャラリーと併設する形で「エマージングテクノロジー(Emerging Technology)」が展示されています。エマージングテクノロジー、通称E-Techでは製品化前の開発中の技術や製品のプロトタイプ、また大学や研究機関で行なわれている研究が展示されています。今年は総計34作品の展示があり、23作品が公募、9作品が招待作品でした。例年この分野における日本の活躍は目ざましいものがあり、本年も公募作品のうち、14作品が日本の企業や大学からの出展でした。

展示の中で特に注目されていた作品をいくつか紹介します。Microsoftからは『Surface』と呼ばれるマルチタッチスクリーンインターフェースのデモ展示が行なわれていました。従来のタッチスクリーン操作はユーザーを一人に限定していることに対し、一度に複数のユーザーが操作できる点が特徴です。この作品はマイクロソフトが発表以後、多数のブログなどで話題を呼んだもので、デモンストレーションにも連日多くの人だかりができていました。先日Appleが発売したiPhoneにも搭載され話題を生んだタッチスクリーンインターフェースはその直感的操作性から今後ますます注目されていくのではないでしょうか。

またアメリカE Ink社による『Electrophoretic Displays』と呼ばれる電子ペーパーのデモも多くの注目を集めていました。この製品は紙のような高コントラストの外観で、電力消費は非常に少なく、軽くて薄い形状をしています。これまでにも電子ペーパーは多くの企業が開発を重ねてきましたが、その多くは日射下では文字が読みづらいなど、課題を多数抱えてきました。しかしこの製品はそういった問題の多くをクリアし、あたかも紙で読んでいるような感覚をユーザーに与えます。また電源を切ってもディスプレイに情報を保持する機能を備え、その使用量が少ない電力による省電力効果も期待されています。
■FJORG!ー32時間耐久アニメーション制作コンテスト
今年初の試みとして行なわれたアニメーションワークショップ「FJORG!」。世界15カ国から選ばれた16チームが、32時間かけて15秒以上のキャラクターアニメーションを制作し競う、いわば「アニメーションの鉄人」のようなイベントです。日本からも2つのチームが参加し白熱のバトルを繰り広げました。
ワークショップ会場には、バイキングのヘルメットをかぶったスタッフたちが、ことあるごとに「FJORG!」と叫び、参加者を盛りあげます。ちなみに「FJORG!」とはスウェーデンの言葉だそうで、関係者は初日からSIGGRAPHの会場でイベントのイメージアイコンであるバイキングハットをかぶりプロモーションを行なっていました。

「FIORG!」の掛け声とともに熱気が増すワークショップ会場で、参加アニメーターたちは32時間におよぶ熱い戦いを繰りひろげました。
審査員には映画『トランスフォーマー』のアニメーションディレクター、スコット・ベンザや、『スパイダーマン3』のアニメーションディレクター、スペンサー・コック、そして『シュレック』の監督のひとりラマン・ホイら、そうそうたる顔ぶれです。物語性やアニメーションの才能、与えられた素材をいかに使うか、創造性、技術力などに基づいて総合的な審査が行なわれました。結果はボウリング・グリーン・ステート大学のチーム“モーキャップ”による『スィッチ』が優勝。また、マイアミ・アート&デザイン国際大学から参加したチーム“ピクチャー・ディス”の『ラストディト』が2位に選ばれ、日本からの参加チームは惜しくも入賞にはなりませんでした。
■コンピューターアニメーションフェスティバル
世界トップレベルのCGアニメーションが集まる「コンピューターアニメーションフェスティバル」。今年は世界中から集まった905作品の中から134作品が上映され、その内日本からは11作品が選ばれました。

作品はコンベンション内の二つのアニメーションシアターで会期中を通して上映されます。今年は最先端の超ハイビジョン映像を体験できる「4K(水平解像度4,000)」の5作品もラインナップされました。他にも「創造性」、「物語」、「ゲーム&特撮」、「狂気」、「科学」、「音楽」といった内容で分類された作品が日替わりのプログラムで上映。第10回文化庁メディア芸術祭の優秀作品は「JMAF (Japan Media Arts Festival)」として連日上映されました。3日目からは「FIORG!」で制作されたアニメーションも上映されました。
■エレクトロニックシアター
コンピューターアニメーションフェスティバルに応募のあった作品の中から選抜された作品を、上映する「エレクトロニックシアター」。今年も世界中の最先端CG技術を駆使した優秀作品の中から32作品がサンディエゴ市内の市民ホールで回数を限定して上映されました。エレクトロニックシアターで作品を上映されることはCGアーティストにとって大変ステイタスなことであり、今年も力作が顔を揃えました。

上映された作品はバラエティーに富んだ作品ばかりで、リスがタイムマシーンに乗って時代を駆けぬけていくコミカルな作品『No Time for Nuts』から、宇宙の動きをCGアニメーションで再現した国立天文台の4次元デジタル宇宙プロジェクト『4D2U NAVIGATOR』(渦巻銀河の形成)といった学術的な作品まで多彩なラインナップでした。

特に印象深かったのは、グリーン・デイとU2のミュージックビデオ『The Saints Are Coming』。ハリケーン、カトリーナで被害のあったアメリカの南部地方の上空に、イラクで戦争に使われているヘリコプターが次々と訪れ、救援物資を落としていくという、夢のような設定。ブッシュ政権への痛烈な皮肉が込められています。映像はフォトリアルなCGでつくられているため、夢と現実が交錯するような錯覚を受けました。
■スペシャルセッション
話題のハリウッド映画4作品のCGメイキングについて、制作者が詳しく解説するスペシャルセッション。連日行なわれたスペシャルセッションは、各回ともサテライト会場を含めて全会場が満席となるほどの大人気でした。

初日は第79回アカデミー賞長編アニメーション映画賞を受賞した『ハッピーフィート』。制作を担当したアニマル・ロジック社のアニメーターたちが、メイキングのビジュアルを見せながらCGプロダクションの制作過程を解説しました。そのなかでも、プロのダンサーの踊る姿をモーションキャプチャーしてつくられたペンギンのダンスシーンは、来場者の笑いを誘っていました。

2日目は、今年最大の話題作『トランスフォーマー』。公開されたばかりの人気作品とあって会場は大盛況で中に入れない人が続出しました。実際の映画では見られない、制作段階でのCG画面なども公開され、制作にあたったILM社の特撮監督とアニメーション監督による解説が行なわれました。このセッションで印象深かったのは、自動車からロボットにトランスフォームする場面です。これまではブルーバックで撮影していたシーンを『トランスフォーマー』では実際のロケ地で撮影し、後にCGで手を加えるという新しい手法を試みた過程など撮影エピソードを交えて紹介していました。

3日目は『シュレック3』の誕生秘話がオリジナルの画コンテとともに紹介されました。シュレックのキャラクター設定過程の紹介や、脚本と画コンテを使って映画会社へのプレゼンの再現など、映画制作のスタートラインである「売り込み」について監督のラマン・ホイ氏が解説。映画制作にかける熱い想いとユーモア溢れるエピソードが展開され、会場は笑いに包まれました。くわえて、粘土でつくられたシュレックキャラクターのモデルの変遷についても語られ、デジタルではない、伝統的な3Dの原点についての話題に興味深いものを感じました。

4日目はアカデミー受賞の特撮監督が『スパイダーマン3』について解説。実際の砂を緻密に観察し、計算することから始まり、いかに独自のソフトを駆使して「サンドマン」を完成させたかなど、制作背景を紹介。「パーティクル」という、粒子単位のCGテクノロジーの可能性に会場からは感嘆の声が洩れるほどでした。
■エキシビション
SIGGRAPH3日目の8月7日からはPCメーカーや周辺機器メーカー、ソフトウェアベンダー、制作プロダクション、学校などが最新の器機やプログラムを発表する「展示会(エキジビション)」が始まり、最終日の9日まで世界中から多くの来場者を集めます。

今年のエキジビション会場では大手コンピューターメーカーよりもソフトウェアベンダーやCGプロダクションが大きなブースを出展し新しいソフトのデモンストレーションや新作の発表を熱心に行っていたのが印象的でした。

レポート メディアアーティスト 川島 高・山吉 ちえ

 

ページ上部へ戻る

Pick Up Archive 今こそ読みたい。これまでの記事をご紹介

中村 勇吾

巨匠インタビュー
中村 勇吾

ボツになるほど、引き出しが増えていくということですから...

トーチカ

作家インタビュー
トーチカ

作品をつくろうと思ってつくったものじゃないんです。始まりは...

竹宮 惠子

巨匠インタビュー
竹宮 惠子

スランプでも描くことをやめなかったことが、一番私を救ったと思う...

渋谷 慶一郎

コラム:データミュージアムは可能か? 渋谷 慶一郎

電子音楽とメディアアートの関係について考えてみると、その2つの...

押井 守

巨匠インタビュー
押井 守

実写であれ、アニメであれ、僕が一貫してやってきたことは...