海外フェスティバルレポート

SIGGRAPH 2009 レポート

左:会場の様子 右:会場の様子

会場の様子

開催地 アメリカ・ルイジアナ州ニューオリンズ
会場 アーネスト・N.・モリアル・コンベンション・センター
開催期間 2009年8月3日(月)〜8月7日(金)
URL http://www.siggraph.org/s2009/

■SIGGRAPHとは?

ひとつの分野を掘り下げながらも、視野を狭めず土壌を広げて発展するには、長期的な展望と多くの人々の絶え間ない努力が欠かせない。コンピュータグラフィックス(CG)に関わる研究者やアーティストは、視覚を主としながら、五感に訴える新しい表現をいかに創出するかを追求してきた。この分野は高度な知識と技術を必要とするが、今日では映画やゲームを通して世界中の誰もが親しむことができる、魅力的なエンターテインメント性を兼ね備えた開かれた分野として成長を遂げた。この成長を促すこととなった基盤のひとつが世界最大級のCG学会「SIGGRAPH」だ。今年で36回目を迎えたSIGGRAPHには、5日間の会期中に、69の国と地域から1万1千人が来場した。

■3人のプレゼンターによるKeynote

SIGGRAPHは、年に一度、北米の都市で開催されるが、開催の3週間ほど前に、公式プログラムがウェブサイトよりダウンロード可能になる。そのプログラムの冒頭には、キーノートのゲストの顔が並ぶ。キーノートとは、毎年注目を集めているSIGGRAPH基調講演のことだ。今年は、映画、ゲーム、デザインの各分野から3名が登壇。CG学会とはいえ、さまざまな分野とのつながりを示す、わかりやすい例だろう。
ここで、3人を簡単に紹介しよう。まず、1人目は、映画における音響デザインのパイオニアで過去に2度のアカデミー賞受賞歴を持つランディー・トム氏。代表作は『フォレスト・ガンプ』や『ハリー・ポッター』シリーズなど、ハリウッドのメジャー作品が多く、過去14のアカデミー賞に関わってきた。2人目は、ゲーム界の重鎮ウィル・ライト氏。近年の『Spore+』はもちろん、20年前に発表された『Simcity』も『Simearth』や『Simant』と発展し、今日も多くのファンを魅了しつづけている。今年のカンファレンス議長であるローレン・バーゼル氏は、「ゲームの進化と技術の向上が、コンピュータグラフィックスに大きな影響を与える昨今、今年度のキーノートにライト氏は適任だ」と述べている。3人目はニューヨークタイムズのグラフィックデザイナーでディレクターを務める、スティーブ・デュネス氏。常に迅速さが求められる新聞というメディアで、複雑な内容のデータをいかに視覚化していくのか、紙面とWebで展開した多くの事例を紹介した。

Frairaum入口

カンファレンス議長のローレン・バーゼル氏

参加作家が一同に

ランディー・トム氏の講演の様子

■SIGGRAPHの根幹であるSESSIONS

SIGGRAPHの根幹は論文発表を中心とするセッションで、大きく4つにわかれている。分野ごとに論文を発表するPaper(ペーパー)、なかなか学べない新たな技術を教授し、参加者がその取得を目指すCourse(コース)、何名かのパネラーが登壇しディスカッション形式でテーマ別に議論を行なうPanel(パネル)、そしてさまざまな分野で最新の研究報告や事例を紹介するTalk(トーク)だ。文化庁メディア芸術祭は、今年初めてトークでのプレゼンテーションを行なった。内容はブログに詳しいので参考にしてほしい。

セッションで感じたことは、基調講演のウィル・ライツ氏への注目が象徴するように、ゲームに関するペーパーやトークが、数の多さも含め目立っていたことだ。メディア芸術祭では、ゲーム作品はエンターテインメントに分類しているが、『The Art History of Games』(ゲームにおける美術史)という興味深いパネルがあったので、簡単に紹介したい。
このパネルで登壇した4名は、現在同タイトルのカンファレンスをアメリカで企画中である。初めに各人が異なる視点からゲームにおけるアートの側面を紹介した。視覚的側面においては、たとえば、3Dでゲーム空間をつくりあげた初期の作品『ミスト』のゲーム画面と安藤広重の浮世絵の遠近法や空間認識との類似性が指摘された。また、ゲームをする際の身体運動の発生原理が、1950年代に始まる表現様式「HAPPENING」に通じるという、パフォーマンス性への指摘もあったほか、ゲームをすること自体が直接美的な経験になりえるかといったことも議論された。プレゼンテーション後には、参加者からの質疑の時間が設けられ、積極的な討論が行なわれた。今回のパネルは来たるカンファレンスのプロローグでもあったため、結論こそ出なかったが、参加者にとっては、アートとゲームの関係を真剣に考察する貴重な時間になったに違いない。
もうひとつセッションで注目すべき新たな試みに、アートサイエンス誌『Leonardo』とタイアップしてSIGGRAPH特別号が発行されたことが挙げられる。通常であれば関係者しか知る機会のない論文が広く出版されることで、新たな広がりが期待できるだろう。

The Art History of Gameより

The Art History of Gameより

メディア芸術祭のプレゼンテーション

メディア芸術祭のプレゼンテーション

■GALLERIES & EXPERIENCES(ギャラリーズ・アンド・エクスペリエンス)

ギャラリーズ・アンド・エクスペリエンスは、ギャラリーとエキシビション、研究内容がまとめられたポスターの展示スペースやワークショップなどで構成されている。
内容の違いを示すかのように、ギャラリーとエキシビションは会場が異なっている。エキシビションは、企業、関連団体、学校などの出展ブースで成り立っており、今年の動向や最新技術、ソフトの価格を知ることができる。今年は特に3D(立体視)に関連したブースに目を引かれた。また、会場の一角のJob Fair(ジョブフェア)の特設ブースでは、これから就職する若手クリエイターへの情報提供のほか、企業によっては簡単な面接が実施されていた。

多くの人でにぎわうエキシビション

多くの人でにぎわうエキシビション

企業ブースでは最新の技術や動向を伝えている

企業ブースでは最新の技術や動向を伝えている

ギャラリーは、毎年違った議長によってさまざまな試みがなされるが、今年は大きくわけて、「Art and Design Galleries」、「Emerging Technologies」、「Information Aesthetics Showcase」の3つで構成されていた。
「Art and Design Galleries」は、さらにアートとデザインのふたつにわかれている。アートの本年度のテーマは「Biologic」。ここでは、審査で選ばれた11作品が展示されていた。自然と科学技術が合わさったとき、何が生みだされるのか? コンピュータにより生物や植物のような動きをする作品や、植物などの自然界の要素がデジタルデバイスと組みあわさる可能性を探る作品など、今後さらにアプローチの方法が増えていくであろう、自然界の要素を取りいれた作品が集められていた。

Biologic Artの展示風景

Biologic Artの展示風景

自然をテーマにした作品が並ぶ

自然をテーマにした作品が並ぶ

Generative Fabrikationの展示風景

Generative Fabrikationの展示風景

いっぽうデザインでは、キュレイターによってテーマに沿った作品が選ばれている。今年のテーマ「Generative Fabrication」は、アルゴリズムやパターンが生みだすデザインを用いた「Generative Design」とデジタル表現と工芸的な表現の融合を試みる「Digital Fabrication」を組みあわせた言葉で、このふたつのコンセプトに通じる8作品が展示されていた。

Art Gallery議長のエローナ氏に話を聞くことができたので、いくつかの質問を投げかけてみた。


—作品とテーマの関連性や、アートとテクノロジーのバランスをどのように捉えていますか。また、応募後に審査員によって展示のカテゴリーが変更されることはありますか?

「毎年、テーマに沿った作品が応募されますが、今年は400の応募作品のなかから最終審査に残ったのは15作品。作品自体が優れていても、テーマとの関連が希薄なら、審査で残ることはできません。最終的には11作品が選ばれました。審査の際には、いくつかの項目を設けていて項目ごとに点数をつけていきますが、たとえば総合点が同じ作品の場合、評価項目のバランスが取れているほうが選ばれます。また、2年前から、作品の内容によって展示カテゴリーを審査員が決定できるようになっています」



—今年の新しい試みとして『Leonard』からSIGGRAPH特別号が発行されました。この特集号にはArt Galleryの作品しか掲載されていませんが、なぜでしょう。

「特集号は3年前から準備してきたプロジェクトです。SIGGRAPHでは議長によってコンセプトが変化しますが、今回も新しくInformation Aesthetics Showcaseがスタートしました。しかし、特集号には時間的に間にあわず、Art Galleryに限定することになったのです」



—今年は、音楽やゲームといった分野に注目が集まりましたね。メディア芸術祭はアートのほかに、エンターテインメント、アニメーション、マンガ部門があり、そのすべてを新しい芸術、メディア芸術と捉えています。エンターテインメント性の強いゲームもアートであると思いますか?

「興味深いですね。私は研究者ではなくアーティストなので、アートか否かをあまり気にしません。表現が優れていて、楽しめる要素があれば、それがどのカテゴリーであるかは関係ないと思います。そういった意味で、SIGGRAPH が対象とする分野はますます広がっていくでしょうね。」

『Leonardo』の特別号の実現など、変化し、発展するArt Gallery。来年はどんな作品が選ばれるのが楽しみである。

「Emerging Technologies」は、応募数112作品から選ばれた27作品と5つの招待作品、そして提携しているフランスのフェスティバル、ラバールから1作品の合計33作品で構成されていた。33作品中17作品が日本からの出展で、これは近年では最も多い数字となった。ここでは、最先端技術の実用化を目指すために、わかりやすい事例を用いた作品が展示されている。今回、第14回学生CGコンテストで佳作に選ばれた『YOTARO』が選ばれていた。

Emerging technorogiesの展示

Emerging technorogiesの展示

『YOTARO』の作者國村さんと村本さん

『YOTARO』の作者國村さんと村本さん

本年から始まった「Information Aesthetics Showcase」では、情報の視覚化やデータのデザインに関する26作品が展示されていた。第12回アート部門優秀賞の『Touch the Invisibles』も展示され、会場では多くの来場者が実際に作品を体験していた。 そのほか、「Contest & Competition」では、32時間耐久アニメーション制作レース「FJORG!」や24時間耐久ゲーム制作レース「GameJam!」などが開催された。

Information Aesthetics Showcaseの展示

Information Aesthetics Showcaseの展示

『Touch the invisible』の展示

『Touch the invisible』の展示

■メディア芸術祭でもおなじみの「コンピュータアニメーションフェスティバル」(CAF)

毎年注目の作品が上映されるCAFでは、「イブニングシアター」と題して、全上映135作品のなかから審査委員およびキュレイター推薦の計26作品が、月曜から木曜まで毎晩特別上映された。イブニングシアター初日には、『スターウォーズ』や『ジュラシックパーク』などの視覚効果を手がけたスコット・ファーラー氏(ILM)より受賞作品が発表された。最優秀賞に選ばれたのは『French Roast』(フランス)。来年2月に国立新美術館で開催する第13回メディア芸術祭でも、昨年同様にCAFの優秀作品を紹介予定だ。また今年はVFXに注目が集まり、3Dメガネを使用する作品に長蛇の列ができていた。来年は、さらにこの傾向が顕著になるのではないだろうか。

作品上映風景

作品上映風景

毎年注目の作品が上映される

毎年注目の作品が上映される

■SIGGRAPHに参加して

冒頭でも書いたように、SIGGRAPHのさまざまな広がりが今日のCGを支えてきたといえる。しかし、今年はニューオリンズという立地条件もあって、来場者、出展企業の減少が見られた。不景気の影響もあるだろうが、CGというくくりではもはや捉えられない広がりと、その表現が行きつくところまできてしまい、ジャンルが拡散されているような印象を受けた。だが、デジタルを使った表現の可能性について思考し、討論していく場が年に一度設けられていることは、今後ますます意義深いものになるだろう。12月には横浜でSIGGRAPH ASIAが開催される。ぜひ、来場をお薦めしたい。

細川麻沙美(CG-ARTS協会)

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