海外フェスティバルレポート

SIGGRAPH ASIA 2009 レポート

左:会場のようす 右:アートギャラリー

左:会場のようす、右:アートギャラリー

開催地 日本・横浜
会場 パシフィコ横浜
開催期間 2009年12月16日(水)~19日(土)
URL http://www.siggraph.org/asia2009/jp/

毎年、夏に北米の都市で開催されるCGとインタラクティブ技術の国際学会「SIGGRAPH」。8月にニューオリンズで開催されたときの模様は、MAPでもレポートした。そして、昨年よりアジアでもSIGGRAPH ASIAが始まり、2008年のシンガポールに続く2回目が、2009年12月16日から19日まで横浜で開催された。日本で初めての開催となったSIGGRAPH ASIAのテーマは「革新の波動」。そのようすをレポートする。

■注目のスペシャルセッション

今回のSIGGRAPH ASIAは、パシフィコ横浜の会議センターと展示ホールA・Bが使用され、大規模な開催となった。プログラムも論文や研究発表、展示、上映、イベントと多彩であったが、特にスペシャルセッションというメインのプレゼンテーションには注目が集まった。会場となった会議センターのメインホール(1000人収容)には、17日、18日、19日の3日間にわたって各ジャンルの第一線で活躍するアーティストやクリエイターが登壇した。

まず、12月17日に行なわれたのは、ゲームに関連したセッション「日本のビデオゲーム開発の現場で今何が起きているか?」である。SIGGRAPHでは、今年の夏の開催からゲーム関連のプログラムやセッションが増えはじめているが、今回のSIGGRAPH ASIAはアジアのゲーム大国日本での開催ということもあり、ゲーム関連のセッションが多数行なわれた。

  
右端が松山氏

右端が『NARUTO-ナルト- ナルティメットストーム』の松山氏

ナルト作品画像 ©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ ©2008 NBGI

ナルト作品画像 ©岸本斉史 スコット/集英社・テレビ東京・ぴえろ ©2008 NBGI

このセッションは、CGを活用したゲーム産業の現状報告と今後の展望を考察する内容で、第13回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門で優秀賞を受賞した 『NARUTO-ナルト- ナルティメットストーム』の松山洋氏が作品について発表した。
同氏からメディア芸術祭での受賞が報告された後、ゲームならではの新たな表現方法を検証するためにどのように研究開発がなされているのかについて、未公開のゲーム画面を見ながらの解説が行なわれた。このゲームはひとつのストーリーをユーザーが何度でも楽しめるようにさまざまな工夫がなされており、また、3次元CGを使いながらアニメ的でダイナミックな表現を実現するために、ある場面では主人公であるナルトの腕が実際の2倍以上の長さにまで伸ばされている、といった裏話も知ることができた。
本年度のメディア芸術祭の審査会では「まるでアニメのなかで、ゲームをしているようだ」と評価され、エンターテインメント部門の優秀賞受賞が決定したが、今回その開発の側面を垣間見ることができ、加えて今後のゲームの進化の可能性も感じられる大変貴重な機会となった。

18日16時15分より開催されたセッション「リング オブ ガンダム:マニュアルに創作のヒントはない」では、この夏のGUNDAM BIG EXPOにあわせて制作されたガンダム30周年記念となる全編フルCGのショートフィルム作品『リング オブ ガンダム』がテーマとなった。
制作プロセスが西井育生氏より紹介された後、富野由悠季監督が作品について論じた。その際、自身が文化庁メディア芸術祭で審査員を3年間務めたことに触れ、審査の過程で短編映像を多く観た経験を踏まえて、映像作品全般がもつ独自性と問題点について語った。

最終日の19日11時からは夏に公開された『ASTRO BOY』に関する「アトム:2次元で表現された人気キャラクターから最新CGへ」というセッションが行なわれた。2Dアニメーションキャラクターをどのように3Dキャラクターに置き換えていくのか、という表現方法のプロセスについて説明がなされた。

「リング オブ ガンダム:マニュアルに創作のヒントはない」での西井氏(左)と富野監督(右)

「リング オブ ガンダム:マニュアルに創作のヒントはない」での西井氏(左)と富野監督(右)

「アトム:2次元で表現された人気キャラクターから最新CGへ」での旧来キャラクターの比較

「アトム:2次元で表現された人気キャラクターから最新CGへ」での旧来キャラクターの比較

■コンピュータアニメーションフェスティバル

コンピュータアニメーションフェスティバル(CAF)では、600作品のなかから審査会で選考された優秀作品35点が「エレクトロニックシアター」の会場となったメインホールで2時間にわたって上映された。クオリティの高さに何度も会場から拍手が起こり、近年の北米開催と比較しても、満足度の高いプログラムであった。
そのうち、「Best of Show」として選ばれた『Anchored』は、Mikaの「Happy Ending」の楽曲に合わせて、2.5次元のアニメーションで主人公の切ない心情を伝える美しい作品。「Best Technical Award」に選ばれたのは『Assassin’s Creed 2』というゲームのオープニングムービー。舞台となっている15世紀のヴェネツィアをまるで実写のごとく完全に再現しているその表現力は息を飲むものであった。この作品は第13回文化庁メディア芸術祭の招待プログラムとして上映予定である。

会場4階の一室には、アニメーションシアターのための特設上映会場がつくられ、審査会によって選考された作品と審査員による招待作品45作品が「Cute」「Death」「Dream」「Fight」「Magic」「Monster」「Science」の7つのテーマに分けられ、30分ごとのプログラムとして上映された。
ここでは、文化庁メディア芸術祭の優秀作品も招待プログラムとして連日上映され、17日は第12回のアニメーション部門からの優秀作品、18日は第12回のアート部門およびエンターテインメント部門からの優秀作品、そして19日は、今年ウィーンで開催したメディア芸術祭海外展浜松で開催した国内展のテーマである「音」に注目した作品群を紹介した。

文化庁メディア芸術祭の優秀作品も上映された

文化庁メディア芸術祭の優秀作品も上映された

アニメーションシアターでのようす

アニメーションシアターでのようす

■アートギャラリー、エマージングテクノロジー

展示はアート作品を主に紹介するアートギャラリーと、新しい技術について紹介するエマージングテクノロジーのふたつがあり、どちらも「適応」というテーマが掲げられていた。
そのうちアートギャラリーは403点の応募のなかから審査会により19点が選ばれ、20点の招待作品とともに展示された。エマージングテクノロジーは68点の応募があり、27点が審査会で選ばれ展示された。また、今回のアートギャラリーでは、会議センターの会場を使って10件のパフォーマンスが紹介された。

河口洋一郎氏の招待作品

河口洋一郎氏の招待作品

Truce: Strategies for Post-Apocalyptic Computation

Truce: Strategies for Post-Apocalyptic Computation

アートギャラリーでは、第13回メディア芸術祭でアート部門優秀賞となった『Braun Tube Jazz Band』の和田永氏の前作『Open Reel Ensemble』 が審査員に選ばれて出品されており、19日には4台のOpen ReelをiPhoneで巧みに操りながら、ギター、パーカッションを加えたパフォーマンスも行なわれた。
また、エンターテインメント部門で優秀賞となった『scoreLight』も見ることができた。「2月の展示はバージョンアップする予定ですよ」と作家のAlvaro CASSINELLI氏はにこやかに展示作品を紹介してくれた。

パフォーマンス中の和田氏

パフォーマンス中の和田氏

『scoreLight』とAlvaro CASSINELLI氏 (右)

『scoreLight』とAlvaro CASSINELLI氏 (右)

■その他のプログラム

SIGGRAPH ASIAでは、国際学会としてアカデミックな側面を支える有意義なプログラムが多数行なわれている。
基調講演では、デイビッド・B・カーク氏(NVIDIA特別研究員)、暦本純一氏(東京大学大学院情報学環教授/ソニーコンピュータサイエンス研究所/インタラクションラボラトリー室長)、ジョー・ローディ氏(ウォルト・ディズニー・イマジニアリング・エグゼクティブ・デザイナー/シニア・バイス・プレジデント)の3名が連日登壇した。

「コース」は、ピクサーやセガなどの国内外の専門家によって、初級から上級者向けの講義として29種類行なわれ、最新技術や、映画、アニメーション、ゲーム制作の知識を修得できるようになっていた。そして、「テクニカル論文」では、274件の応募のなかから、世界最高峰の研究成果として75件が採択され、発表された。
「エデュケーターズプログラム」では、アニメーション、ゲーム、デザイン、VR、ビジュアライゼーションなどの領域について、大学やプロダクションで実践・研究された最新の教育事例や研究が、「教育論文発表」として5つの英語セッション、ふたつの日本語セッションで、9カ国17名の専門家によって発表された。教育者だけではなく、プロダクション関係者や学生の参加も多く、充実したプログラムとなっていた。

講演中のジョー・ローディ氏

講演中のジョー・ローディ氏

エデュケーターズプログラムのようす

エデュケーターズプログラムのようす

■次回開催に向けて

主催者によるとSIGGRAPH ASIA2009への参加者は、約6,500人、発表者は500名以上と発表され、昨年のシンガポールでの実績から数字を伸ばした結果となった。
SIGGRAPHが対象としている主な産業は、ハリウッド映画やゲームであり、実に華やかである。そのことから来場された人も多いだろう。しかし、SIGGRAPHの本質はアカデミックな国際学会であり、最先端の技術の研究発表や教育の機会を提供することにある。アメリカまでは足を運べないけれど、横浜でなら、と初めて参加された方は、このような点から少し戸惑われたかもしれない。
来年の開催地はソウルということが会期中に発表されたが、近い将来再び日本で開催されることを期待したい。

細川麻沙美(CG-ARTS協会)