つい最近までアニメーション技法の主流はセルによるものだった。セルアニメは画用紙に描かれた背景の上に、透明なアセテートフィルム(セル)の裏側から専用塗料で描かれたキャラクターを重ねるというのが基本となっている。この方法だと大量に均質な絵が描けるため、テレビシリーズや劇場長編などが可能になる。
しかしその均質という点に、抵抗を覚える映像作家も少なくない。だがセルを使っても、画材のマチエールを活かしたアニメーションは可能である。『木を植えた男(L'Homme qui plantait des arbres)』(1987)で有名なカナダのフレデリック・バック(Frederic Back)は、マット状に艶消し処理をしたセルに水性色鉛筆で着色するという方法を採っている。これならばパステル画のような、かすれた味のある線が描ける。またセル用の塗料を使っても、セルの表面から塗ることで、筆のタッチが強調された油彩のような雰囲気の画面がつくれる。この技法の代表的作家として、スイスのジョルジュ・シュヴィッツゲーベルが有名である。
フレデリック・バック
作品コレクション
¥12,600
発売元・販売元:
ジェネオン エンタテインメント
『木を植えた男』(あすなろ書房)
作:ジャン・ジオノ(Jean Giono)
画:フレデリック・バック(Frederic Back)
油彩風ではなく、本当に油絵具で作画を行ったアニメ作品もある。古くは、ハンガリーのヨーゼフ・ギーメッシュ(Jozsef Gemes)監督の叙事詩『英・雄・時・代(Dalias idok(Heroic Times)』(1982)があり、1時間23分(ハンガリー版は2時間5分)もの長編だった。最近ではロシアのアレクサンドル・ペトロフ(Aleksandr Petrov)が油彩アニメの代表的作家である。彼は指を使ってガラス板上に緻密な絵を描いていくという手法で、『老人と海(The Old Man and the Sea)』(1999)などの感動的な短編を制作してきた。
また、カナダのNFB(国立映画庁)などで作品をつくっているキャロライン・リーフ(Caroline Leaf)は、水彩絵具にグリセリンを混ぜて乾燥を遅らせ、ペトロフと同様にガラス板上で作画する技法を編み出し、『ストリート(The Street)』(1976)という短編を制作した。だがリーフの仕事で特筆すべき手法は、砂絵アニメーションであろう。これはガラス板の上に細かな砂を薄く撒き、そこに絵を描いて透過光で撮影するというものだ。一見すると、銅版画のようにも見える独特の質感を生む。彼女はこの手法で、『変身(The Metamorphosis of Mr.Samsa)』(1977)などの短編を生み出している。
銅版画風という意味では、ピンスクリーン・アニメーションも同様のテイストをもっている。白いボードの上に自由にスライドする黒い針を25万〜50万本ほど並べ、その針の高低から生ずる影を利用して濃淡をつくり出す手法だ。アレクサンドル・アレクセイエフ(Alexander Alexeieff)とクレア・パーカー(Claire Parker)によって1931年に考案され、現在はNFBのジャック・ドゥルーアン(Jacques Drouin)に受け継がれている。
アレクサンドル・
アレクセイエフ作品集
¥6,090 (税込)
販売元:ジェネオン エンタテインメント
■『禿山の一夜』(Une nuit sur le mont chauve,1933年)と『心象風景』
(Mindscape,1976年)
『禿山の一夜』は、アレクサンドル・アレクセイエフと妻のクレア・パーカーがフランスにおいて制作した、ムソルグスキーの『禿山の一夜』を映像化したピンスクリーン作品。DVD『アレクサンドル・アレクセイエフ作品集』(ジェネオン エンタテインメント)に収録されている。アレクセイエフらは、1972年にカナダのNFBに招かれ、若いアーティストたちにこの技法を伝授した。しかし、だれもこの面倒なピンスクリーンで作品をつくろうとはしなかった。まもなくして、名乗り出たのが見習いで編集技師を手がけていたジャック・ドゥルーアンである。彼は、アレクセイエフの技法を忠実に受け継ぐと同時に、カラー化を試みたり、人形アニメーションと組み合わせるなどの手法を考案して、このテクニックに新しい生命を吹き込んだ。クレア・パーカーは1981年に亡くなり、アレクセイエフも1982年に亡くなっている。現在ピンスクリーンの操作を出来る人物は、ドゥルーアン1人になってしまった。『心象風景』はドゥルーアンの代表作。DVD『NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集』(ジェネオン エンタテインメント)に収録されている。ちなみに筆者は、1989年にNFBを訪問した際に、彼からピンを1本譲ってもらった。
春のめざめ
発売元:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント
ブランド:三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー
2006年製作/ロシア/カラー/本編約28分
© 2006 Channel ONE Russia・DENTSU TEC
■『春のめざめ』(Moya lyubov,2006年)
アレクサンドル・ペトロフの最新作。イワン・シメリョフの原作に基づく、16歳の高校生の初恋と失恋を描いた。今回は初めてデジタルカメラを使用し、コンピュータによるコンポジットを取り入れた。また故郷のロシア・ヤロスラヴリに作ったスタジオに12人のスタッフを雇い、自分と同じ画風をマスターさせ、分業化を実現させたそうである。DVD『春のめざめ』(ウォルト・ディズニー・スタジオ・ホーム・エンターテイメント)に収録されている。なお『雌牛(Korova)』(1989)、『おかしな人間の夢(Son smeshnogo cheloveka)』(1992)、『マーメイド(Rusalk)』(1996)の3本も、DVD『アレクサンドル・ペトロフ作品集』(ジェネオン エンタテインメント)で見られる。もしどれか1本というなら、IMAXフィルムで制作された『老人と海(The Old Man and the Sea)』(1999)をお勧めする。DVD『老人と海/ヘミングウェイ・ポートレイト』(IMAGICA)に収録。
ジョルジュ・シュイツゲベル作品集
¥5,040 (税込)
発売元・販売元:ジェネオン エンタテインメント
■DVD『ジョルジュ・シュヴィツゲベル作品集』
(ジェネオン エンタテインメント)
シュヴィッツゲーベルの作品の多くはストーリー性を持たず、運動そのものがテーマとなっており、確実なデッサン力で対象を生き生きと動かしていく。これまでに回転運動を描いた『78回転』(1985)や、連続する主観移動の『フランケンシュタインの恍惚』(1982)、次々とイメージが変容を遂げていく音楽的作品『破滅への歩み』(1992)などを発表してきた。

















