Vol.3 クレイアニメーション

クレイアニメとは、粘土を素材とするアニメーションの技法を言う。早くは1908年に、米国のウォレス・マッカチオン(Wallace McCutcheon)監督の実写短編「彫刻家の悪夢」(The Sculptor's Nightmare)の中に、粘土の塊が有名人の胸像になる場面が登場する。

「ガンビー」の誕生からクレイメーションまで

明確にクレイアニメーションと言える作品の登場は、米国のアート・クローキー(Art Clokey)が大学の卒業制作としてつくった、3分間の短編『Gumbasia』(1955)からである。抽象絵画をジャズのリズムに合わせて動かしたような作品で、1920〜30年代のオスカー・フィッシンガー(Oskar Fischinger)によるビジュアル・ミュージックの影響を感じるものだった。そして彼が生み出したキャラクター『ガンビー(Gumby)』が、1957年からNBCのテレビシリーズ『ガンビー君の大冒険(The Gumby Show)』として放送された。クローキー・スタジオは、この制作において数多くの後進を育成している。

その後しばらくクレイアニメは忘れられるが、1974年に『月曜休館(Closed Mondays)』という短編が発表され、再度注目される。ウィル・ヴィントン(Will Vinton)が制作したこの11分間の作品は、1975年のアカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した。この作品が衝撃的だったのは、登場人物が異様にリアルだったことである。ヴィントンらは一度ライブアクションを撮影して、これをガイドにしてアニメートするというセルアニメの手法を持ちこんでいたのだ。彼らは、自分たちの技術にクレイメーション(Claymation)という登録商標を与えたが、この言葉は粘土アニメ全般を指すようになっていく。そして「カリフォルニア・レーズン(California Raisins)」のテレビCMで脚光を浴び、ついには全編クレイメーションの長編『マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅(The Adventures of Mark Twain)』(1985)を手がけるまでに至った。

マシューせんせい〜ゆかいなヒルトップ病院〜

© 2005 Folimages / Siriol Production
『マシューせんせい〜ゆかいなヒルトップ病院〜』より
DVD販売:e-CAPCOM

油絵具や金太郎飴のようなユニークな手法

粘土を素材としたアニメ手法で、とくに変わっているのがウィル・ヴィントン・プロダクションの『The Creation』(1981)に用いられた、クレイ・ペインティング(Clay Painting)であろう。これは平面上に粘土を薄く押し広げ、油絵具のようにアニメートしていく手法である。

さらにもう1つの特殊技法として、ストラットカット(Strata Cut)と呼ばれるテクニックがある。これは金太郎飴のような構造をもった粘土の塊を、ナイフで徐々にスライスしていって、その断面をコマ撮りしていくものだ。各断面は連続して絵が変わっていくように精密に造形されている。この技法は、やはりヴィントン社で働いた経験を持つデヴィッド・ダニエルズ(David Daniels)が考案したもので、彼はこの手法でいくつかのCMやミュージックビデオを制作した他、『バズ・ボックス』(1985)という短編映画もつくっている。

注目すべき作家たち

ウィル・ヴィントン・プロダクションと並んで、クレイアニメに新風を巻きこんだのが、イタリアのフランチェスコ・ミッセーリ(Francesco Misseri)であった。彼のクレイアニメの代表作は『ミオ&マオ』や『Red and Blue』『T.U.FO.』などがあるが、特に日本人に馴染み深いのが「ヤクルト・ミルミル」のCMだろう。ミッセーリの用いる素材は、粘土以外にも砂、ペーパークラフト、水滴、CGなど多岐に渡るが、彼独特の動きのリズムはどの作品にも共通している。

ミオ&マオ

Mio Mao © Associati Audiovisivi S.R.L 2006
『ミオ&マオ』
画像提供:カートゥーン ネットワーク

またインド生まれのイシュ・パテル(Ishu Patel)の短編『死後の世界(Afterlife/Apres la vie)』(1978)では、油粘土をガラス板の上に薄く拡げ、その表面を削って絵を描き、透過光で撮影するという手法が使われている。ちょっと見ただけでは粘土でつくられたとはわからない、非常に幻想的な質感の作品だ。

ほかにもクレイアニメには、注目すべき作家や作品が数多くあり、まだまだ発展の可能性があるジャンルといえよう。

PICK UP

■『マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅』(The Adventures of Mark Twain,1985年)と、『オズ』(Return to Oz,1985年)
ウィル・ヴィントンの初期作品はVHSやLDで発売され、現在は絶版となっている。ネットオークションなどで入手は可能だが、とんでもない値がついているものも少なくない(『月曜休館』が収録されたVHS『Fantastic Animation Festival』はeBayで1000ドルもしていた)。パイオニアLDCから発売されていたLD『ベスト・オブ・ウィル・ヴィントン』には、クレイメーションの詳細なメイキングが収められていた。国内で現在発売中のDVDは、『マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅』か、マイケル・ジャクソン主演の映画『ムーンウォーカー』の一部に使われたものぐらいしかない。『マーク・トゥエイン…』は一見の価値がある。

だがどれかヴィントン作品を1作と言うなら、ノームたちの動きが秀逸な『オズ』がお勧め(途中で時間切れになったのか、クレイメーションが特殊メイクの俳優に切り替わる場面は興醒めだが)。残念ながら国内版DVDは未発売。その後ヴィントン本人は、ウィル・ヴィントン・プロダクションから追放され、最近ではディズニーのCGアニメ『ライアンを探せ!』(2006)の製作総指揮を手がけた。またウィル・ヴィントン・プロダクションは買収され、LAIKA Entertainment社として活動を続けており、現在は人形アニメによる長編立体映画『Coraline』(2008)を制作中である。

NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集

NFB傑作選
イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集

¥3,990 (税込)
発売元・販売元:ジェネオン エンタテインメント

■『死後の世界』(Afterlife/Apres la vie,1978年)
インド生まれのイシュ・パテルが、カナダのNFB(国立映画庁)で活動していたころに制作した短編のひとつ。銅版画のメゾチントを着色したようにも見えるが、じつはガラス板に赤や緑の油粘土を薄く伸ばし、それを削って絵を描き、背後から光を当てて撮影している。色彩はすべて粘土自体の色で、粘土の層が薄い所ほど明るくなるしくみ。DVD『NFB傑作選 イシュ・パテル、キャロライン・リーフ、ジャック・ドゥルーアン作品集』(ジェネオン エンタテインメント)に収録されている。かつてレーザーディスク社から発売されていたLD『パラダイス・変身 カナディアン・アニメーションVol.1』にはメイキングも収録されていた。こういう貴重なソフトが多いだけにLDプレーヤーはなかなか捨てられない。

ページ上部へ戻る

MAP編集部のイチオシ! 今こそ読みたい。これまでの記事をご紹介

原 恵一(アニメーション監督)インタビュー

原 恵一(アニメーション監督)インタビュー

「僕は日本人にしか作れないものを作っているつもりですので。...

束芋 断面の世代

束芋 断面の世代

「グロテスクであり、エロティックであるのですが、なぜかもう一度みたくなってしまうような、...

宮沢章夫(劇作家・演出家)

宮沢章夫(劇作家・演出家)

「ノイズが生み出すのは、誰だって持っている昏(くら)い側面を肯定する、受け皿としての文化だ。...

荒木飛呂彦(マンガ家)

荒木飛呂彦(マンガ家)
インタビュー

「"筋肉ムキムキのヒーローだけが強いわけではないだろう"と思っていたんですよ。...