Vol.6 人形アニメーション Part 2

世界で初めて本格的に人形をアニメートした作品は、アメリカのウォレス・マッカチオン(Wallace McCutcheon)とエドウィン・ポーター(Edwin S. Porter)による『テディ・ベア(The 'Teddy' Bears)』(1907年)だろう。実写の女の子が壁の節穴を覗くと、テディ・ベアのぬいぐるみたちがラインダンスや中国雑技団のようなアクロバットを演じているという作品で、速い動きにはちゃんとモーションブラー(註1)が施されているなど、技術的にも優れたものだった。

ロシアとチェコの優れた作家たち

『映画カメラマンの復讐』

『映画カメラマンの復讐』

帝政ロシアのラディスラフ・スタレビッチ(Wladyslaw Starewicz)は、『映画カメラマンの復讐(Mest kinematograficheskogo operatora)』(1912年)など、精密な昆虫の人形を用いたアニメーションを制作しており、フランスに亡命後には完璧なモーションブラーを施した『マスコット(Fetiche)』(1934年)という驚くべき作品も手がけている。

『ミトン』

『ミトン』
¥3,129(税込み)
発売元・販売元:ジェネオン エンタテインメント

『チェブラーシカ』

『チェブラーシカ』
発売元:フロンティアワークス/チェブラーシカ・プロジェクト
販売元:フロンティアワークス
© Cheburashka Project

旧ソ連では、1937年に設立された国営スタジオのソユーズムリトフィルム(連邦動画撮影所)において、非常に良質な人形アニメがつくられた。特にロマン・カチャーノフ(Roman Kachanov)は『ミトン』(1967年)や『チェブラーシカ』シリーズ(1969年〜83年)などの優れた作品を残している。

旧チェコスロヴァキアにはかつて、侵略者や圧政者への批判を人形劇で表現するという伝統があった。人形劇団や絵本作家の経験のあるイジー・トルンカ(Jiri Trnka)は、プラハの国営スタジオで『チェコの四季(Spalicek)』(1947年)や『皇帝の鶯(Cisaruv slavik)』(1949年)、『バヤヤ(Bajaja)』(1950年)、『チェコの古代伝説(Stare povesti ceske)』(1953年)や『真夏の夜の夢(Sen noci svatojanske)』(1959年)などの長編人形アニメを制作した。彼が用いたスタジオは、人形アニメーションを専門とするトルンカ・スタジオとなり、彼のスタッフとして重要な働きをしたブジェチスラフ・ポヤル(Bretislav Pojar)も、ここを主な拠点にして『飲みすぎた一杯(O sklenicku vic)』(1954年)や『ライオンと歌(Lev a pisnicka)』(1959年)などを制作した。

知られざるアメリカの作家

いっぽう、アメリカでは、ディズニー(註2)に代表されるセルアニメが圧倒的で、映画のVFX用を除けば、純粋な人形アニメはあまり大きな発展を見せなかったとされている。しかし映画史やアニメ史からはまったく忘れられてしまったものの、非常に重要な人物にチャーリー・ボワーズ(Charley Bowers)がいた。

彼は、チャップリンやキートンと同時代に活動した喜劇役者であるが、手描きアニメーションの開拓期に「Mutt and Jeff」というキャラクターを生み出した人物でもある。驚くのは、彼が自分で演出・主演した実写スラップスティック・コメディの数々で、劇中にて自らストップモーション・アニメーションを披露している。

その技術たるやら、今の眼で見てもほとんどトリックが見破れないほどみごとなもので、ネコヤナギの芽から次々と猫が生えてくる『Now You Tell One』(1926年)、金属を喰う鳥のタマゴから本物の自動車が誕生する『It's a Bird』(1930年)などの実写作品の他、中身だけの牡蠣がネズミを襲う『Wild Oysters』(1941年)のような全編人形アニメの作品もある。どれも落語みたいな異常な世界が、驚異的なリアリティで描かれ、ただただ驚くほかない。残っているフィルムは少ないが、アメリカにも豊かなストップモーション・アニメの土壌があったことが実感できる。

世界中で活躍している作家たち

『ピンチクリフ グランプリ』

『ピンチクリフ グランプリ』
販売元:キングレコード株式会社
©1977 Caprino Filmcenter A/S. All Rights Reserved.

このほかにも、ニック・パークらが所属するアードマン・アニメーションズや、ブラザーズ・クエイ(生まれは米国)など、現在もっとも熱心に人形アニメを手がけているイギリスの作家たち。『ピンチクリフ グランプリ』(1975年)で知られるノルウェーのイヴォ・カプリノ。テレビシリーズ『ムーミン パペット・アニメーション』(1979年、註3)や『おやすみ、クマちゃん』(1975〜87年)などを手がけたポーランドの人形アニメーターたち。日本の持永忠仁、川本喜八郎、岡本忠成、真賀里文子らについても語ることはたくさんあるが、スペースがいくらあっても足らないのでこの辺で。

PICK UP

The Cameraman's Revenge & Other Fantastic Tales

The Cameraman's Revenge & Other Fantastic Tales

■DVD『The Cameraman's Revenge & Other Fantastic Tales』
米国で発売されたスタレヴィッチの作品集。『映画カメラマンの復讐』や『マスコット』を含む6作品が収録されている。

世界アニメーション映画史 Vol.3 ラディスラフ・スタレビッチ

世界アニメーション映画史 Vol.3 ラディスラフ・スタレビッチ
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『世界アニメーション映画史 Vol.3 ラディスラフ・スタレビッチ』
スタレヴィッチの8作品(字幕)が収められている他、貴重なメイキング映像も見られる。
※DVDシリーズは基本図書として図書館に収蔵されている。

コロムビアミュージックエンタテインメント
http://columbia.jp/prod-info/KKAL-28-32/

Charley Bowers: The Rediscovery of an American Comic Genius

Charley Bowers: The Rediscovery of an American Comic Genius

■DVD『Charley Bowers: The Rediscovery of an American Comic Genius』
チャーリー・ボワーズの残されたフィルムを、フランスで修復したDVD。かなり大きなダメージのある作品もあるが、貴重な15作品が見られる。リージョン1

世界アニメーション映画史 Vol.7 ウィリス・オブライエン

世界アニメーション映画史 Vol.7 ウィリス・オブライエン
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『世界アニメーション映画史 Vol.7 ウィリス・オブライエン』
オブライエンの初期作品集だが、ボワーズの『It's a Bird』と『Wild Oysters』の2本が収録(字幕)されている。
※DVDシリーズは基本図書として図書館に収蔵されている。

コロムビアミュージックエンタテインメント
http://columbia.jp/prod-info/KKAL-28-32/

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