Vol.7 セルアニメーション

画用紙に描いた背景のうえに、キャラクターを描いた透明なシートをかさねて撮影する手法をいう。そのシートは、初期に可燃性のセルロイドが用いられたことから“セル”と呼ばれ、その後は不燃性のアセテートが用いられるようになったが、用語として定着した。

セルアニメの発明から発展まで

セルアニメーションの技法は1914年にアメリカのアール・ハード(Earl Hurd)によって考案され、翌年に特許を取得している。それまでは、すべてのキャラクターと背景が1枚の紙に描かれていたり、キャラクターを切り紙で表現したりという手法が用いられていたのだが、セルの発明によって大幅に効率がアップされた。ハードは同じくセルアニメの特許を出願していたジョン・ランドルフ・ブレイ(John Randolph Bray)と組んでブレイ=ハード・パテント・カンパニーを設立し、特許が切れる1932年までこの技法のライセンスを販売しつづけた。

やがて、セルの上にさらに背景画を重ねるという手法(米国ではオーバーレイ、日本ではブックと呼ばれる)も考案された。つまり、背景画とオーバーレイでキャラクターのセルを挟みこむことにより、より遠近感が表現される。そしてこれらを多層に組みあわせ、さらに各レイヤー間の距離を離して、それぞれを違う方向や速度で移動させることで、擬似的な三次元空間が表現できる。この技術は、一般にはウォルト・ディズニー・スタジオが開発した“マルチプレーン・カメラ(Multi Plane Camera)”が最初だといわれている。つまり、アニメーションの撮影台を多層構造にして、それぞれの画板を独立可動式にし、大きく距離を取ることで被写界深度によるピントのボケも表現可能にした。そしてこの装置が最初に用いられたのは、「シリー・シンフォニー」シリーズの『風車小屋のシンフォニー』(The Old Mill,1937年)とされている。

知られざるアイワークスから、革新的なフライシャーまで

『世界アニメーション映画史 Vol. Vol.11 アブ・アイワークス』

『世界アニメーション映画史 Vol. Vol.11 アブ・アイワークス』
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

だが、1931年にディズニー社を辞めて、自分のアニメスタジオを設立していたアブ・アイワークス(Ub lwerks)のほうが早かったというのが真相だ。アイワークスは、ミッキーマウスの真の考案者としても知られているが、発明家としての才能も飛びぬけていた。彼は、独自にマルチプレーンと同じアイデアを考えだし、「コミカラー(ComiColor)カートゥーン」シリーズの『Don Quixote』(1934年)という作品で使用している。アイワークスはその後ヒット作に恵まれず、1940年にディズニー社に戻る。そして同社の特撮研究所長となり、実写映画やテーマパーク、博覧会などにおいて次々と新技術を生みだしていった。

『ココのハエ退治』

『ココのハエ退治』
『世界アニメーション映画史 Vol.5 マックス&デイブ・フライシャー I』
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

アイワークスに匹敵するアニメ界のイノベーターが、マックス・フライシャー(Max Fleischer)である。彼は1915年(特許取得は1917年)に、実写フィルムを紙に投影して書きおこし、リアルな動画をつくる“ロトスコープ(Rotoscope)”を発明した。この技術は、ディズニー社も長編作品に応用したほか、CG時代になった現在でもアニメートや合成用のマスク作成などに用いられている。フライシャーは1924年にも、初めて音が付いた「ソング・カートゥーン」シリーズを制作し、1938年には動画用紙に描かれた線を直接セルにコピーする技法を発明しており、いずれもディズニー社より早い(ディズニー初のトーキー作品『蒸気船ウィリー』は1928年、ゼロックス技術を用いた『101匹わんちゃん』は1961年)。

リアルな映像を可能にしたロトグラフとは

『世界アニメーション映画史 Vol. 19 マックス&デイブ・フライシャー V』

『世界アニメーション映画史 Vol. 19 マックス&デイブ・フライシャー V』
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

フライシャーの発明の中でも際立っているのが、1933年に特許を出願した“ロトグラフ”である(Rotograph,セットバックとも呼ばれる)。これは、異なる移動量で回転する多重のターンテーブルにミニチュアセットを組んで、その前で垂直に立てたセルを撮影するという手法である。平面の絵を組みあわせるマルチプレーンと違って、本当に立体のモデルを用いるため、横移動に伴ってパースペクティブも連続的に変化し、驚くほどリアルな映像が得られる。フライシャー・スタジオはこの技術を用いて、「カラー・クラシック(Color Classics)」や「ベティ・ブープ」「ポパイ」などのシリーズを制作した。しかし、あまりにも手間や費用がかかるため、フライシャー・スタジオの倒産後にこの技術を継承する者はあらわれなかった。

PICK UP

Walt Disney Treasures - The Adventures of Oswald the Lucky Rabbit

Walt Disney Treasures - The Adventures of Oswald the Lucky Rabbit

■『Walt Disney Treasures - The Adventures of Oswald the Lucky Rabbit』
かつてディズニーで制作され、最初のヒットシリーズとなりながらも、ユニバーサル・スタジオに権利とスタッフを奪われてしまった「幸せウサギのオズワルド」のDVD。2006年にディズニーが買い戻して、ようやくソフト化された。このDVDで注目されるのは『The Hand Behind the Mouse: The Ub Iwerks Story』という特典映像である。アブ・アイワークスの伝記本を映像化したドキュメンタリーで、アニメーターや発明家としての彼の偉大さを実感できる(2002年の第9回 広島国際アニメーションフェスティバルで「ミッキーマウスの生みの親 アブ・アイワークスのドキュメンタリーとアニメーション」として公開されている)。リージョン1。

The Cartoons That Time Forgot - The Ub Iwerks Collection, Vol.1

The Cartoons That Time Forgot - The Ub Iwerks Collection, Vol.1

■『The Cartoons That Time Forgot - The Ub Iwerks Collection, Vol.1』
アイワークスがディズニーから独立していた時代の作品集。最初にマルチプレーン・カメラ風の技術を用いた『Don Quixote』が収録されている。

世界アニメーション映画史 Vol.11 アブ・アイワークス

世界アニメーション映画史 Vol.11 アブ・アイワークス
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『世界アニメーション映画史 Vol.11 アブ・アイワークス』
国内版でアイワークス・スタジオの作品が見られる。残念ながら『Don Quixote』は収録されていない。
※DVDシリーズは基本図書として図書館に収蔵されている。

コロムビアミュージックエンタテインメント
http://columbia.jp/prod-info/KKAL-33-37/

世界アニメーション映画史 Vol.5 マックス&デイブ・フライシャー I

世界アニメーション映画史 Vol.5 マックス&デイブ・フライシャー I
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『世界アニメーション映画史 Vol.5 マックス&デイブ・フライシャー I』
ロトスコープを使用した『道化師ココ』シリーズや、最初期のトーキーアニメである『これが小唄漫画だ』などが収録されている。
※DVDシリーズは基本図書として図書館に収蔵されている。

コロムビアミュージックエンタテインメント
http://columbia.jp/prod-info/KKAL-33-37/

世界アニメーション映画史 Vol.19 マックス&デイブ・フライシャー V

世界アニメーション映画史 Vol.19 マックス&デイブ・フライシャー V
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『世界アニメーション映画史 Vol.19 マックス&デイブ・フライシャー V』
初期の「ポパイ」シリーズを集めた作品集。一部にロトグラフを用いた『ポパイの動物園荒らし』が収録されている。
※DVDシリーズは基本図書として図書館に収蔵されている。

コロムビアミュージックエンタテインメント
http://columbia.jp/prod-info/KKAL-33-37/

Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland

Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland
発売:コロムビアミュージックエンタテインメント
販売:株式会社紀伊國屋書店

■DVD『Max Fleischer's Color Classics: Somewhere in Dreamland』
フライシャー・スタジオの「Color Classics」シリーズを収録した作品集。ロトグラフの迫力を堪能できる。