5 minutes media arts

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【vol.5】

ニューフィジカリティ

二重のリアリティが与える身体性の変化

リアリティは受容する側の問題である。生身の身体や物質的な世界とは別の非物質的な情報世界の肥大は、我々に二重のリアリティを与えることになった。これらのデュアルリアリティを反映して、我々の身体性も変わっていく。身体を、フィジカルな身体と情報化された身体の2つの要素からできている二重の身体としてとらえ、この相互関係や連動、あるいは葛藤などを含め、我々の「ニューフィジカリティ」は獲得されてきたといえるだろう。

「情報化された身体」のありどころを、アーティスト、ダグ・エイケンは"new ocean"と表現している。「"new ocean"は非物質的な空間である。状態を少しずつ変え、たえまない変化と変容がある。そこは電気的であり有機的だ。そこは個人の居場所がどこにでもあり、またどこにもない、という場所だ」。

"new ocean"は従来の「場所」や「家」にとどまることとは異なり、実質的であるものはなにもない。そこにある身体は非物質的な情報に接してこれに反応し、関係を生じさせ、触媒として機能する身体イメージである。

Pipilotti Rist『Himalaya Goldsteins Stube (Remake Of The Weekend)』

Pipilotti Rist『Himalaya Goldsteins Stube (Remake Of The Weekend)』 1998/99
video installation
展示:Kunsthalle Zurich, 1999
写真: Alexander Trohler
Courtesy:Galerie Hauser & Wirh, Zurich & Luhring Augustine, New York

メタフィクションである映像によって癒される感覚

この身体イメージを受けて、さらにこれにデジタルな像を通じてセンシュアルな感覚と親密さをもたらしたアーティストに、ピピロッティ・リストがいる。たとえば、彼女のビデオ作品を見たとき、我々はその流動的な色彩感にあふれた放射画面に囲まれて、心から癒される気分を味わう。「ビデオ作品をつくることは、家族セラピーをやっているということだわ。いうなればテレビは家族の一員ね。私の作品が強いインパクトをもち、率直でよいものであるなら、それはセラピーとしての機能をもつと思う」。1989年のエッセイの中で彼女は語る。

彼女は一方で、再生され得ない「リアリティ」を強調して語る、「リアリティはビデオによって生み出されるいかなるものよりも、常にシャープでコントラストのはっきりしているものです」。

リストのインスタレーションの中で、ビデオ映像は、日常空間のいたるとこから現れてくる妖精のようにふるまっている。床の割れ目からランプシェードやソファに投影される、生きもののようにまたたく画像。そこで展開される物語は、ファンタサイズされたメタフィクションである。彼女自身の身体から同時進行形で発せられる。

希薄化するリアリティ、敏感になる身体感覚

身体の内面の生理的なできごとや感情の同期的なプレゼンテーションは、見るものの身体感覚に細胞レベルでシンクロしてくる。従来の物理的なリアリティの希薄化は、これを補うように、内部や細部に関する感度をとぎすましているとみることはできないだろうか。ピピロッティ・リストが、身体を流れる赤血球を大河のようなストリームでスクリーンに見せるとき、それは映画『ミクロの決死圏』にあった描写とは似て非なるものである。女性のメンスの血を祝福した作品と同様、そこには生命の営みとしての時間が感情化されている。

ネットワークにより外部情報の流入が多くなればなるほど、一方で我々は脆い自身を守ろうとする傾向をも帯びる。内面や細部へのセンサーの鋭敏化は、その反映のひとつといえる。ニューフィジカリティは、不安定さ、不確かさ、脆さといった要素を内包しつつも、今までにない自由度と拡散力、他との関係性における大きな可能性を秘めたものになっているのである。

profile

長谷川 祐子(はせがわ ゆうこ)

長谷川 祐子(はせがわ ゆうこ)

京都大学法学部卒業。東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長(1999-2005)、芸術監督(2005-2006)を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議(CIMAM)理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「ニュー・センソリアム」(2006年10月-2007年4月)MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター、「メディア・シティ・ソウル」(2006)ソウル市美術館

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