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【vol.6】

デュアルリアリティ

『face(“portrait”)-2』

『face(“portrait”)-2』

渡辺豪 『face(“portrait”)-2』 2005 digital print, translucent film, light box

ヴァーチャリティによる表現の広がり

前回デュアルリアリティのテーマのもとに私たちがもちえた二つの身体のリアリティについて述べた。従来的な身体性の喪失と新たに獲得した情報的身体の複雑な拡張性との間でのバランスの問題である。

今回はヴァーチャリティがもたらす表現の領域の拡張について述べることとする。渡辺豪の『フェイス』はこれを端的にあらわしている。ライトボックスの上に浮かび上がる若い女性の顔—白い顔、そして青色がかった瞳、おそらく実在のモデルからとったのであろうが、オリジナルの顔はアンドロイドのように精巧な美に変容させられている。8点ならべられた顔はいずれも一見同じにみえるが、よく見ると、皮膚の表面が一つ一つ異なった様相を見せているのがわかってくる。しみやほくろといったもっとも個人的な、人間的なサインが、8人分のバリエーションでアンドロイド美少女の上に重ねられているのだ。

差異を可視化するという欲求

ミニマルアートにおける「反復と差異」は、同様の形状の連続にあるリズムと美学に、それぞれに微妙なずれやノイズをもうけることで、ミニマルな形態の連続という表現の内的なテンションの高さと、それゆえに強調されるわずかなノイズの効果に着目したものである。

テクノロジーの発達はすべての表面を滑らかで均質な質感でおおっていく傾向がある。ノイズへの関心や、スケルトンとよばれる雑多な内部構造がすけて見えるデザイン、空間におけるガラスの多用はこれらの「差異」ひいては「多様性」が可視化されることへの人々の潜在的な欲求を反映している。

EPFLラーニングセンターのCG画像 

EPFLラーニングセンターのCG画像 

EPFLラーニングセンターのCG画像 スイス、ローザンヌ
Kazuyo Sejima + Ryue Nishizawa / SANAA

建築とヴァーチャリティ

もう一つヴァーチャリティと関わって活用されているのが、建築モデルである。これは建築が再び未知のスペースをつくりだすものとして従来とは異なる可能性をもってきたことと関わっている。今、CGをフルに活用した流体形やバイオモルフィックな形態が新たな素材や構造エンジニアとのコラボレーションにより、実現可能になってきている。つまり彫刻としてみてもかなり大胆で変化に富んだモデルがそのまま建築として建ち上がる。

あわせて、プログラムアーキテクトと呼ばれる新世代の建築家はモデルのスタディを通して複雑な建築プログラムをできるだけストレートな形に反映させようと試みる。つまり従来の建築のプログラム、病院、学校、集団住宅をつくるときにふまえる建築の文法をまったく無視して、いきなり機能をかたちにダイレクトにつなげるのだ。金沢21世紀美術館を経過して、ローザンヌの建築学校を進行中の建築ユニットSANAAはこの大旦な発想の過程をそのまま形態と空間構成に反映させている。そのときデジタルのシミュレーションはもっともピュアな着想に現実性を付与していくものとして機能する。

ヴァーチャリティから生まれる新たな現実

ヴァーチャリティは現実との別の交渉や現実への新たなインターヴェンション(介入)を可能にする。そこから生産された新たなリアリティがフィジカルリアリティに干渉し、これを変化させ、あるいはそこから反発批判をうけながら、変化していく。

ヴァーチャリティは我々の創造力を奪う、それは従来的な物語に基礎をおいた創造力だ。もしその物語を修正し、さらに豊かなものをもたらす可能性があるとすれば、新たな主体性のありかたとそこから不測不離に生じてくる他者との新たな関係の探求にある。

profile

長谷川 祐子(はせがわ ゆうこ)

長谷川 祐子(はせがわ ゆうこ)

京都大学法学部卒業。東京芸術大学大学院美術研究科修士課程修了。金沢21世紀美術館学芸課長(1999-2005)、芸術監督(2005-2006)を経て、2006年4月より東京都現代美術館事業企画課長、多摩美術大学芸術学科特任教授。国際美術館会議(CIMAM)理事。内外で多くのビエンナーレ、展覧会を企画する。最近の展覧会:「ニュー・センソリアム」(2006年10月-2007年4月)MITリスト・ヴィジュアル・アーツ・センター、「メディア・シティ・ソウル」(2006)ソウル市美術館

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