分類2:メッセージのないアート作品
数年前に当時92歳の祖母が、筆者がアシスタントで関わった「メディアアート」の展覧会を見にきてくれた。それをまた90歳くらいの近所の友達や、親戚のおじいさま、おばあさまたちに孫自慢をしたときの引用は、「なんや、テレビで番組の始まる前に文字や絵がくるくる動くようなもの」。祖母が会場で見た作品は、大方インタラクティブで、映像を駆使した作品であったが、ある視点から説明すると確かに間違っていない。言い得て妙だと思った。これは、番組のオープニングタイトルと呼ばれるものであるが、祖母の目に写ったメディアアート作品は、実写でもなければタイトルそのものではなく、CGでつくられた、動きの多く、ストーリー性があまりない映像。要するに内容そのものではなく、なんだか見たことない新しい表現形態そのもの。
前回、メディアアートには大雑把に
1:新しいメディアを使ったアート
2:新しいメディアそのものを作ったり考えたりするアート
という2種類があるという話しをしましたが、おばあちゃんがテレビでくるくる回っているようなもの、と評しているのはまさに2なのです。
「新しいメディアをつくったり考えたりする」。それってつまり発明じゃないの?なんて言葉も聞こえそうですが、はっきり言ってそれは正しい。では、なぜそれがアートだと議論されるのかというと、私の理解では、その発明そのものが、アートとしての「人間とは何か?生きるとは何か?」という問いを持ち得り、ひとつの答えを出す可能性があるからじゃないかと思うのです。わかりやすい例を出しますと、たとえば、100年くらい前のエキサイティングなメディアだった「電話」。この新しいメディアの発明によって、今、わたしたちはアポをとったり、相手の顔を見ないで用を済ませたり、愛をささやいたり、けんかしたりする。このメディアによって、人間は、そこに存在しなくても同じ瞬間を共有できる存在になったわけで、「人間とは何か?」という問いにひとつの新たな答えを出したと言えるのです。
では、発明がアートか否か、その線引きは非常に難しいところです。まず、ここで話題にしているメディアというのは、おもに、広い意味で人間のコミュニケーションにまつわり、不特定多数の人の生活に関係してくるものを指しています。美術用語ではメディアとは構成要素のことですが、それにあたる粘土やインク自体はアートにはなりません。なぜなら、それは一般の人が使って、人間そのものの行動を変えたり、能力を劇的に変化させたりはしないからです。
逆に、近年の新しいメディアがアートかもしれない理由は、その発明によって人間ができることを変え、選択肢を増やしたりあるいは減らしたり、言ってみれば、人間が向かっていく方向に大きく影響する可能性があるからです。それに加え、社会的な影響と比べたらどうでもよいことかもしれませんが、小さなアートの世界で新しいメディアが注目されるのは、それによってアートと観客の関係やアートそのものの定義を変化させる可能性があるからです。
というわけで、「人間とは何か? 生きるとは何か?」という問いに、新たな答えを導くかもしれない「新しいメディアそのものを作ったり、考えたりしている作品」は、メッセージや内容で何かを問うのではなく、作られたメディア自体の形態や要素が、その問いとなり得るわけです。
そんな作品をひとつ紹介しましょう。


Image from Signes des Écoles d'art, Centre Pompidou, Paris, 2003
スイス人作家、Jürg Lehni(ユーグ・レイニ)によるHektor(ヘクター)は、簡単に言うと自動スプレー落書き(グラフィティ)マシンです。ヘクターは滑車から吊られた紐にスプレー缶がぶら下がり、コンピュータが画像ファイルを分析して、動きを調整し、自動で壁に絵を描きます。ジェラルミンのケースに入ってどこにでも連れて行けるヘクターは、いろいろなところで展示されていますが、描く内容は毎回別の作家によって提供されたイラストです。観客は、まるで自分で考えているかのような動きで、淡々と動きを繰り返しながらゆっくりと壁に絵をスプレーで拭く機械の姿を見守ります。つまり、ヘクターのライブパフォーマンスを鑑賞するのです。ヘクター自体には何もメッセージがありません。でも、多くの人がヘクターに夢中になるのは、ヘクターが人間と同じことをするからです。描くとは何か、オリジナリティとは何か、絵とは何か、人間ができることは何か、そんなことを考えるからではないでしょうか?
作家の言葉:「僕の肩書きはデザイナー。別にアートを作っているわけじゃないから。どっちでもいいけど」
この作品は、アートでしょうか?デザインでしょうか?
Photo by Rafael Hefti 内田まほろ 1971年生まれ。慶應義塾大学政策メディア研究科修士課程修了。テクノロジー、アート、デザインの融合する領域で、国内外のイベントや展覧会、アーカイブなどのプロジェクトに携わる。2002年より日本科学未来館に勤務し、科学館におけるアート&デザインのプロジェクトを担当。2005年より文化庁在外研修員としてMoMA、Department of Film & Mediaに一年間勤務した後、復職。主なキュレートリアルワークに「Tech Pop Japan Lounge」(ロッテルダム映画祭、Exploding Cinema)、「メッセージ/ ことばの扉をひらく」(せんだいメディアテーク)、「時間旅行展」、「恋愛物語展」(日本科学未来館)など。 |


