日本のマンガに大きな影響を与えた『B.D. (バンドデシネ)』
文/小野 耕世
『タンタン』のシリーズは日本でも発売され、広く愛されている。
B.D.(ベーデー)とは、フランス語「Bande Dessine`e(バンドデシネまたはバンデシネ)の略で、コマが連続した物語マンガを広く意味する。アメリカで20世紀初頭にさかんになった「comic strip(コミック・ストリップ:帯状にコマが連続する物語マンガ)」の訳語として、フランスで1930年代あたりから一部で使われ、1950年代の末にはフランス語圏で一般化した。
B.D.の初期の人気作品としては、ベルギーのエルジェが生みだした『タンタンの冒険旅行』の連作があり、1940年代末にカラー大版のハードカバー単行本として刊行されるようになると、それがB.D.の基本的な出版形態(1冊50ページ前後だが、カラー印刷が美しい)となり、アルバムと呼ばれるようになる。ジャン・クロード・フォレストが1960年代に発表したSFファンタジー『バーバレラ』は、大人向きのコミックスとしてアメリカでも刊行、日本にも紹介され70年代には映画化もされた。B.D.の雑誌がフランスなどで盛んになったのも70年代で、そこからメビウス(ジャン・ジロー)の幻想作品が生まれ、日本の大友克洋の描写スタイルに大きな影響を与えた。メビウスは谷口ジローの作品も絶賛していたが、のちに谷口は、メビウスの原作による長編『イカル』を描いた。人間が空を飛ぶようになる時代についてのファンタジーだが、未完に終わっている。
1994年、フランスのラルース社から『世界BD百科事典』(つまり世界コミックス事典)が刊行され、日本のマンガ家や作品も項目として多く含まれた。フランスのアングレーム市では、毎年2月に国際BD大会が催され、日本のマンガ家たちも多く招かれ、しばしば受賞するようになってきている。エルジェの『タンタン』は、1960年代にいち早く日本版が出ているが、現在もアルバム版の日本版の人気が定着している。ほかに、フランスでは初版30万部が刷られるエンキ・ビラルのSF長編B.D.も、日本版が出て熱心なファンをつかんでいる。
日本の「マンガ」もいまや国際語になっており、豪華なアルバム形式ではなく、白黒印刷で軽装版のB.D.の出版もフランスを中心にヨーロッパでさかんになった。B.D.の出版統計などに、日本のマンガの翻訳版も含まれるなど、日本作品もB.D.業界の重要な一部を占めつつあるようだ。
小野 耕世 (おの・こうせい) 映画、マンガ評論家・作家。東京生まれ。子どもの頃から海外のマンガに親しんで育つ。1963年国際基督教大学人文科学科卒業。著書に『ドナルド・ダックの世界像』(中公新書、1982)、『アメリカン・コミックス大全』(晶文社、2005)など。最新刊は『世界のアニメーション作家たち』(人文書院、2006)。海外マンガの翻訳・紹介・研究による長年の功績により、2005年第10回手塚治虫文化賞特別賞を受賞。国士舘大学21世紀アジア学部客員教授。熱気球パイロット。 |


