博物館などで、今展示物の前にいる人にだけ音声情報を届けたいことがある。来館者にレシーバーを貸与して、電波で音声を送るということは以前から行なわれているが、これは展示室単位くらいでしか情報を変えることができない。隣り合った別々の作品を見ている2人にそれぞれ別の情報を送るということはできないのだ。
そこで注目されるのが光を使う方法だ。送信ユニットにLEDなどのライトをつけて、その光を音声で変調させる。これならその光のあたっている範囲にいる人だけに情報を届けることができるというわけだ。
実は岩井俊雄氏が、このシステムそのままをSOUND-LENZという名前の作品にしている(2001年)。壁などに取りつけられたライトにレシーバーの受光器を向けると、光の中に隠れている音が聴こえてくるというものだ。ライトには、あらかじめ音楽などを仕込んである(変調させてある)ものの他に、テレビ画面や蛍光灯のようにもともと点滅しているような光源も使っていた。こういうのだと、ぎゅわーんというようなノイズになるのだけど、それはそれでおもしろい。蛍光灯などは1本ごとに結構音が違うという発見もあったりした。
博物館では可視光線ではまぶしくてしょうがないので、赤外線を使うのが普通だ。またSOUND-LENZでは作品にしてしまった蛍光灯などのノイズの問題も考えなくてはならない。
産業技術総合研究所のCoBITは、2002年の「ドラえもん展」から昨年の愛知万博まで、いくつもの展示会で使用されている。これはシンプルさが売りだ。送信ユニットは赤外線LEDを使って変調された光信号を送る。レシーバーはそれを太陽電池で受け、出てきた電気をいきなりクリスタルイヤホンにつないでしまう。これでちゃんと音が聞こえるのだ。外光の影響を受けるかと思ったのだが、普通の室内の明るさなら問題はないようだ。
レシーバーは、なにしろいきなり太陽電池なので無電源だ。価格もとっても安い。量産さえできれば1個100円でもつくれそうだ。
また、レシーバーには反射シートが貼ってあり、送信ユニット側につけた赤外線カメラで見ると、そこだけ光って見えるようになっている。この動きを追いかけるのは簡単だ。首を縦に振ったか横に振ったかの違いをとらえれば、インタラクティブな使い方もできるわけだ。
NTT研究所のVoiceUbiqueは小ささが魅力だ。レシーバーは、いちばん小さなものではバッテリ込みで大きめの指輪サイズに収められている。この指輪はリング部分がパイプになっていて、さらに手のひら側でリングが途切れている(おもちゃの指輪のイメージ)。指輪をはめた手を耳に当てると、音声がこのパイプを伝わって途切れ目から聴こえてくる。
送信機も小さい。写真の後ろにある箱がそうなのだけど、これは設置を考えて大きくつくられている。心臓部は右に見えている基板。これに電源をつければ送信部ができてしまうのだ。
また、音声は1ビット量子化技術でデジタル変調されている。これによって、回路の簡素化と高音質(FM放送なみ)、そしてノイズへの強さのすべてを実現しているのだ。
参考ウェブサイト
こばやしゆたか ライター。最新技術から少し変わったおもしろい技術まで幅広く取り上げ、HOTWIREDをはじめ、さまざまな媒体で紹介している。無類のペンギン好きでもある…と書くとLinuxのことだと思う人が多いが、そうではなく本物のペンギン、とくにアデリーペンギンが好きで、ペンギンのウェブサイトも運営している。 |


