人間は、左目と右目とで少しだけ角度の違う方向からの2種類の画像をとらえている。視差(パララックス)というやつだ。その2つの画像が脳内で自動的に解析されて「立体感」を感じるわけだ。それなら、視差のある2つの画像を用意しておいて、それを左右の目に別々に見せれば立体感が得られるはずだ。ステレオ写真はこのような原理に基づいている。
ステレオ写真の歴史は意外に古い。イギリスのホイートストーンが1838年に書いた論文が、最初にステレオ画像について書かれたものとされるが、これは写真術(ダゲレオタイプ)の発明(1839年)より1年も前だ。彼は手書きのイラストで立体画像をつくったのだ。そして写真術が発明されると、彼はすぐにステレオ写真の作成を試みている。つまり写真が発明された当時からステレオ写真は存在していたのだ。
このころ日本ではちょうど幕末であり、すぐに技術がわたって来たようだ。現存する日本最古のステレオ写真は1869年(明治2年)に横山松三郎によって撮られた日光(地名)の風景だそうだ。これは東京都写真美術館で見ることができる。
ステレオ写真の撮り方は次のようなものだ。発明当時から現在まで大きな変わりはない。
カメラを2台並行に並べる。レンズとレンズの間隔(ステレオベース)は、人間の目と目の間隔である65mm程度にするのがもっとも自然な立体感を得られる(あえて、自然でない立体感を得るために幅50cmとかにしているのも、もちろんありだ)。これで赤外線リモコンなどで同時にシャッターを切れば、ステレオ写真のできあがりだ。かつては65mmにレンズを並べるというのは、カメラのサイズからしてなかなか大変だったのだが、現在ではカメラ内蔵の携帯電話が2台あれば簡単にできるようになった。
被写体が動かないものの場合、まず1枚写真を撮って、次にカメラを並行に移動させてもう1枚を撮るという方法で、1台のカメラでステレオ写真を撮ることができる。
この応用として、車や電車などが直進しているときに、窓からムービーを撮影し、その前後のコマを使ってステレオ写真をつくってみるということも考えられる。この場合ステレオベースを65mmにするのは難しいだろうが、それはそれでおもしろいものになるはずだ。スケールの大きいものでは、スペースシャトルから撮った地球の写真をムービーを使って立体視するという例もあった。
さて、撮影した画像を見る方法、つまり2枚の写真を左右の眼に別々に送り込む方法には、次のようなものがある。
- ビューワー
- 2枚の写真を左右に並べ、これをプリズムのついたレンズ越しにのぞく。プリズムのおかげで画像は自然に重なって見える。古くからあるもので、紙焼きの写真には便利だけど、コンピュータのディスプレイなどには使いにくい。
- 裸眼立体視
- 少し前に流行った。上と同じように左右に並んだ写真を、ビューワーなしで、人間が自分の力で見るというもの。右の写真は右目、左の写真は左目で見るのが平行法。右の写真は左目、左の写真は右目で見るのが交差法だ。コンピュータのディスプレイでも平気なのだけど、見るためにはそれなりの訓練が必要だ(もっともそのぶん、見えたときの快感は大きいのだけど)。また、原理上、あまり大きな画像は見られない。また、動画を見るのはつらい。
- アナグリフ方式
- だれでも一度はみたことがあるだろう赤青写真だ。右の画像は赤、左の画像は青で重ねあわせて表示させ、これを右目は青、左目は赤のセロハンメガネを通してみるというものだ(左右の色は逆かもしれない)。「赤でも青でもない色」を使うことで、ある程度のカラー感は作れるけれど、基本はモノクロだ。こんなこともあって一時期廃れかけていたのだけど、インターネットの時代になって復権した。これを見せるのには特別な表示装置がいらないのだ。見るのには安くて、その気になれば誰でもつくれる赤青めがねさえあればいい。裸眼立体視みたいな訓練もいらない。
- 偏光メガネ方式
- 映画やアトラクションなどの大画面でよく見る方法。2台のプロジェクターから左右それぞれの画像を同じスクリーンに投影する。このときプロジェクターには互いに90度向きの違う偏光フィルターがついている。これを、やはり左右で90度向きの違う偏光メガネを通して見るわけだ。すると、それぞれの目には偏光の揃っている方の画像しか見えないというわけ。プロジェクターは設備が必要だけど、偏光メガネは安くつくれるのがメリット。
- 液晶シャッター方式
- ブラウン管で見るためのもの。画面の走査線を奇数番目と偶数番目とにわけて、それぞれに左と右の画像を表示させる。目にはこの走査線の動きと同時して左右がかわりばんこに暗くなる液晶シャッターのメガネをかけるというものだ。ただ、テレビ画面は画面の書き換えが1秒間に30回とあまり速くない。このため画像がかなりちらついて見えて、長時間見ているとかなり疲れる。このようなこともあって、最近ではあまりみられなくなった。
- HMD方式
- 原理的にはいちばん簡単。左目のすぐ前には左、右目のすぐ前には右の画像を表示させるというものだ。反対側の画像は見ようとしても見られない。ステレオ写真のビューワーには2枚のポジフィルムを箱に入れて双眼鏡のようにのぞくというものもあるのだけれど、これも原理的には一緒だ。
多くの人がステレオ写真の魅力としてあげるのは、「空気が写る」ということだ。被写体までの間にある空気の感じがそのまま写っているのだ。1つのレンズでは見逃してしまうようなわずかな光の揺らぎが、ステレオ写真には「差分」として写る。これが、脳の中で「空気感」として写っているのではないかと思う。
こばやしゆたか ライター。最新技術から少し変わったおもしろい技術まで幅広く取り上げ、HOTWIREDをはじめ、さまざまな媒体で紹介している。無類のペンギン好きでもある…と書くとLinuxのことだと思う人が多いが、そうではなく本物のペンギン、とくにアデリーペンギンが好きで、ペンギンのウェブサイトも運営している。 |


