Vol.11 いつか、日本のどこかに「本の町」を―本というメディアから広がる“ブック・ツーリズム”―

イギリスにヘイ・オン・ワイという小さな町がある。人口わずか2千人のその町は、だけど世界的に有名な「本の町」だ。その理由は、30軒以上の古書店があるからではなく、数百万冊もの蔵書があるからでもない。本好きにとってこの上なく居心地のいい空気が流れているからである。
自然豊かなヘイには、山や川はもちろん、パブ、レストラン、教会、ホテルなど、数日間滞在しても飽きることのない環境が整っている。だから夫婦のどちらかが古書店に入り浸ったとしても、片方が退屈し、不機嫌になる心配がない。

わずか3泊4日の滞在中、古書店をめぐったり、ヘイの王様(自称)であるリチャード・ブース氏に会って話をするうちに、日本にもこんな町がつくれないかと考えはじめている自分がいた。日本では、とくに地方の古書店が減少の一途で、都市でないとやっていけないようなムードさえある。でも、それは違うんじゃないか。本を核とする旅のスタイル、“ブック・ツーリズム”の発想なら、「本の町」はアリなんじゃないか。その考えをブース氏に伝えると、ぜひやれと励まされた。

「私が君を日本の総理大臣に任命する。あと、南太平洋の島々についても、君が統括することを認めよう!」
冗談半分の一言に背中を押され、僕は仲間とともに計画をたてた。まず第一段階では、母体となる1軒の店をつくる。核となるのは本だが、周辺にあるあらゆる要素を取り込み、居心地のいい空間として定着させる。いわば「本の町」のサンプル版。最初は我々自身で運営するが、いずれは地元のスタッフが切りもりできるようになればいい。そのようすを見て、古書店だけではなく、じゃあ私はパン屋を、ぼくは古着屋をと、多彩な店ができてくれば、わざわざ外から来る人も増えるだろう。かなり気の長い話なのだ。

2008年5月、桜で有名な長野県伊那市高遠町で「本の家」という店をオープンした。これが最初の1軒である。これからどうなるか、先のことはわからない。我々の活動を知っただれかが、どこかで同じことを始めるならそれも歓迎だ。僕としては、いつか、日本のどこかに「本の町」ができれば、それでいいのである。そこで生まれ育った子どもが大人になったとき、本と本好きが集まるその町でごく自然に働くようになる。そんな日がくればいいなと思う。
そのとき自分が何歳になっているかについては、あまり考えたくはないのだが……。