Vol.12 周回遅れのトップランナー ―意外な場所にひそむ純粋なクリエイティブ―

何千曲も入れたiPodをシャッフルしながら聴くのも楽しいが、もっと楽しいのはスナックだ。常連オヤジやノド自慢のママさんが歌い上げる、聴いたこともない演歌の数々をおつまみに焼酎ウーロン割りとか飲んでいると、日本人であることのシアワセが、しみじみこみあげてくる。

演歌歌手としてがんばってるけれど、なかなかビッグヒットを出すまでにならない、でも諦めないでがんばりつづけてる……そういう人たちを自宅に訪ね、舞台衣装を着てもらって写真を撮り、お話をうかがう連載記事を、『カラオケ・ファン』という月刊誌で去年からやっている。

今年でデビュー9周年を迎える山口瑠美さん
http://www.yamaguchi-rumi.jp/

古風な演歌を歌いつづけて20年、30年のベテラン歌手もいるけれど、古風な演歌をいまの時代に歌ってスターをめざす若者もけっこういるのに、僕はまずびっくりした。世の中がロックだヒップホップだといってるご時世に、なにを好きこのんで「義理と人情をはかりにかけりゃ……」なんて時代錯誤なド演歌を、人生賭けて彼らは熱唱してられるのだろうか。

若者が歌う演歌を聴くのは若者、じゃなくてオジサンオバサン、というかジイサンバアサンだ。自分より40才も50才も年上のファンのために歌いつづける、そのこころが知りたくて、ずいぶんいろんな演歌歌手に会ってきた。そして彼らの苦労と、その苦労を苦労と思ってない生きざまに驚かされてきた。

田舎で育った歌好きの少年少女が演歌歌手をめざすきっかけは、今も昔もちびっこノド自慢大会や、何年かに一回やってくるNHKのノド自慢番組だ。大人びた演歌を子どもが歌うと、当然ウケがいいから、得意になって歌ってるうちに、自分は演歌歌手になれちゃうんじゃないかと錯覚して、東京に出てくる。でも、もちろんそんな簡単に歌手にはなれない。

1988年に「恋港」でデビューを飾った秋山涼子さん
http://www.akiyamaryo ko.jp/index.htm

バイト、バイトに明け暮れながら、歌唱レッスンの費用を捻出し、オーディションを受けては落選をくりかえす。「夜、ぼろアパートで声を出すと隣人に怒られるので、座布団を口に当ててミュートしながら発声練習を4年間やりました」という女の子がいた。幸運が重なってデビューできても、テレビにもラジオにも出してもらえないから、小さなバンのうしろを寝台に改造して、作詞兼作曲兼マネージャーのオジサンとふたりで日本全国走りまわり、カラオケ喫茶や旅館の宴会場、どこででも歌わせてもらいながら車中泊、月に一日か二日東京に帰って着物を載せかえて、また旅に出る生活が「今年で21年目です」と、平然と言ってのけた女性歌手もいる。ウケないことを「時代がオレらについてきてない」とか言い訳するロック・ミュージシャンやラッパーは少なくないが、そういうヤツらには「4年間、座布団ミュートでノド鍛えてから、20年間車中生活で日本中ロードに出てから、売れない言い訳してくれ!」と忠告しておきたい。

まちがいなく日本でいちばん古くさくて閉鎖的で、淀みきった演歌業界に、まちがいなく日本でいちばん純粋な歌い手たちがいる。その奥深さと単純さのあいだのどこかに、クリエイティブでありつづけることの核心が潜んでいるのだろう。

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