Vol.2 日本マンガを世界の読者に伝えるには

先日、日本マンガ学会のシンポジウムで、海外での日本マンガ翻訳出版の事情についての報告がされた。アメリカ、フランス、スペイン、イタリア、韓国、台湾、中国で翻訳出版に携わる人たちからの基調報告である。

まずは、一般にもよく知られているような明るい話題が話された。ビジネスとしての成長ぶりや、現地で作られた日本スタイルのマンガ出版といった新しい展開である。一方、状況が明るいばかりのものではないことも示された。国により事情は異なるが、概して、市場の成長が頭打ちになると同時に、手堅いマニア市場に向けたコンテンツに偏るようになり、市場のさらなる拡大が難しくなる傾向がある。もとより日本マンガを積極的に愛好してくれるマニア層の開拓はすでに終わり、彼らの外側の層にアピールする必要が生じつつも、壁にぶつかっているわけだ。つまり、単に嗅覚の鋭いマニアが魅力的なコンテンツの存在に気づくというだけでは、継続的なビジネスにはつながらないという事実に直面している。そして、市場拡大を阻害する要因のひとつとして、翻訳をめぐる問題が共通して指摘された。

当然のことながら、マンガの翻訳には、個々の作品の内容やテイストに即した柔軟な訳が求められる。だが実際にはそこまで至らないことが多い。誤訳もままある。その背景には、現在の市場がまだ小さく、翻訳料を低く抑えざるを得ないという事情がある。結果、専門の翻訳者が育っていない。こうしたシリアスな状況のなか、どうにか翻訳出版が続けられている。

とはいえ、問題点が明確になっているということは、対処すべき点もはっきりしているということだ。逆にいえば、前向きに考えやすい。

翻訳する人々を支援する仕組みを作ればいいのである。たとえば、公的なファンドのようなものを用意し、日本マンガを翻訳した人にある程度の金額を支払う。翻訳者は正規のギャランティを出版社から受け取り、さらにファンドに申請をする。ファンドからの支援を受けるかどうかは、翻訳者個人の判断に任せる。重要なのは、個人を支援するということだ。現在、若いマニア層は各国でじゅうぶんに育っていると考えられる。その彼らに、翻訳を職業としうる道を開けば、意欲の高い彼らは、いい仕事をしてくれるだろう。人を育てることは、ビジネスの継続につながる。支援を受けたひとのなかには、プロデューサーや実作者に進むひとも出てくるだろう。意外に低予算で高い効果が見込める施策と思うのだが、どうだろうか。

ページ上部へ戻る

Pick Up Archive 今こそ読みたい。これまでの記事をご紹介

中村 勇吾

巨匠インタビュー
中村 勇吾

ボツになるほど、引き出しが増えていくということですから...

トーチカ

作家インタビュー
トーチカ

作品をつくろうと思ってつくったものじゃないんです。始まりは...

竹宮 惠子

巨匠インタビュー
竹宮 惠子

スランプでも描くことをやめなかったことが、一番私を救ったと思う...

渋谷 慶一郎

コラム:データミュージアムは可能か? 渋谷 慶一郎

電子音楽とメディアアートの関係について考えてみると、その2つの...

押井 守

巨匠インタビュー
押井 守

実写であれ、アニメであれ、僕が一貫してやってきたことは...