Vol.26 新たな文化を切り開く若者をいかに応援していくか

原田 大三郎(はらだ だいざぶろう)

原田 大三郎(はらだ だいざぶろう)
1956年、福岡県生まれ。CGクリエイター、写真家、映像作家。株式会社ドロップイン代表。九州産業大学芸術学部を経て筑波大学大学院 芸術学部/総合造形コースを卒業。1985年にビデオパフォーマンスユニット・RADICAL TVを結成。個人としても映像やCG作家として活動を開始する。坂本龍一をはじめとするミュージシャンのコンサート映像監督や演出、映画やゲームにおけるCG・VFX制作、CM、TV番組の映像制作など、幅広いフィールドで活躍中。多摩美術大学で情報デザイン学科教授として教鞭を執るほか、文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員(第10回から第12回。第11、12回は主査)、学生CGコンテスト審査委員長(第13回から)を務めるなど、後進の育成にも意欲的に関わる。

それまでの定義や価値観を覆しまったく新しい世界を提示してくれる、いわゆる天才と呼ばれる人々が存在する・したのは事実です。しかしそのような人々が生まれた環境を調査しそれを現在の環境に反映させようとする試みは、特異過ぎるのであまり意味がないでしょう。そういうことは酒のサカナとして熱く語れば十分です。問題は自分の潜在的な能力にまだ気づいていない、あるいは生かせていない人々。特に若い人達をどう開花させるか? という点だと思います。

ここで言う若い人達とは今回は専門学校や大学に通う、実社会に出て行く一歩手前の若者達と定義させてください。さまざまな社会においてこれからを担っていくのは当然若者達ですから、若者に対して期待したり、接し方に神経を使ったりすることは理解出来ます。しかし“時間・経済的な部分、また制作環境を整えてあげること”=“育てる”、ことという図式が単純には成立しないという事実を認識しなければならないと思います。

2006年、中国の新疆ウイグル自治区の奥地に入り込んでの映像撮影

2006年、中国の新疆ウイグル自治区の奥地に入り込んでの映像撮影

自分の場合もそうでしたが、良い作品や仕事ができたときは実はある種のストレス(負荷)が掛かった時です。そのストレスに屈せずに課題を達成した時に得ることができる喜びや、新たに見えてくるハードルが自身の次の創作活動に向かう大きな動機付けとなりました。もちろんこれらの作業はさまざまな方々の助けがあって完結したことですが……

さて上述したように僕はあるストレスを乗り越えた時に得られる“達成感(至高体験)”が重要だと考えています。そしてその至高体験を与えることができる&得ることができる、社会に出る前の最後の教育機関としての専門学校や大学がその役割を果たしているかというと、自ら大学で教えている者としての自戒の念を含めて考えるに少々疑問が残ります。

教授を務める多摩美術大学情報デザイン学科の卒業制作講評会

教授を務める多摩美術大学情報デザイン学科の卒業制作講評会

ハードな受験を乗り越えた後に楽園が待っている。この場合のストレス→至高体験という図式は間違っていないとは思うのですが、楽園で過ごす期間が長すぎる。至高体験の後には新たなハードルが見えてこないと意味がありません。そのハードルが見えないまま過ごす楽園での日々は浦島太郎の竜宮城と同じです。入るのは難しく出るのは容易い大学。最近の少子化の影響によって若干変化が見られるかもしれませんが大きな差異はないでしょう。

明確な答が出しにくい“表現”の問題に取り組むいわゆる美術系大学においては、具体的な学生の作品に対する評価の仕方が難しいのは事実です。正直言って曖昧な言い方で終わってしまったことも多々あります(これは教える側の問題ですね)。また安易に“アーティスト”という言葉が連呼されるいまの時代に育った若者にも、表現活動に向かう姿勢に若干覚悟が足らないような気がします。

「メディア芸術クリエイター育成支援」の打ち合わせ(右は真鍋大度さん、左は岩谷徹さん)

「メディア芸術クリエイター育成支援」の打ち合わせ(右は真鍋大度さん、左は岩谷徹さん)

天才でもない限り結局は自ら地道に一段一段と階段を登っていくしかありません。そして教育とはその階段の“登り方”や“手すり”を用意してあげたり、また100段目から見える未知の風景をちょっと見せてあげたりすることなんだと思います。ですから即効性のあるものではありません。最近頻繁に耳にする“支援”とか“サポート”とかは、こと教育においてはひとりの子どもが青年になるまで、つまり10年とか20年という長い時間軸で考えなければならないのではないでしょうか。

実は一番心配しているのは若者達のことではなく子ども達のことです。大学生ではもう遅い気がしています。大学に来た段階ですでに何かに影響を受け閉塞的な城壁の中に閉じこもっている。様々なことに影響を受けるのは当然ですが、常に開かれていて欲しいと思います。やはり創造性豊かな若者を育てるには、創造性豊かな幼年期が必要です。子ども達はストレスのない自由な環境でのびのびと遊び、大学生は子供時代に育んだ豊かな思い出を抱いて、過酷な課題と頑固な教授のもと日々勉強する。

最後に若者へのアドバイスをひとつ。オジイちゃんオバアちゃんの話にもっと耳を傾けるべきです。それは経験と知恵が満載のおとぎ話であり攻略本です。それはきっと皆さんの役に立つ宝物になるでしょう。

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